【声劇台本】闇夜を歩く者達

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
藍沢 士狼(あいざわ しろう)
宇佐美 鏡花(うさみ きょうか)
坂下 拓弥(さかした たくや)
その他

■台本

士狼(N)「化物、妖怪、怪物……。闇に生き、闇と共に過ごす。そのような者達は確かに存在する。だが、その者達が人間に何をしたのか? 中には人間に害をなす者もいるだろう。しかし、それは人間も同じだ。人間の中にも犯罪に走る者はいる。だから、化物だからといって無条件に拒否するのはいかがなものだろうか。考えてみてほしい。もし、あなたの愛する者が、実は化物と呼ばれる存在だったとしたら? 愛する者の前から去るのだろうか? 仮に俺が、その場合だったとしたら、俺は……どうするのだろう?」

学校のチャイムの音。

教室内はがやがやと賑わっている。

ドアが開き、教師が入って来る。

教師「おーい、静かにしろー。ホームルーム始めるぞー」

教室の生徒たちが席に座り静かになる。

教師「出席取るぞー。藍沢―」

士狼「はい」

教師「飯塚」

生徒「はい」

教師「宇佐美、……は、今日も休みか。次、大野―」

場面転換。

休み時間。教室が賑わっている。

拓弥「でさ、振り向いたらオオカミの顔になってたんだってさ」

士狼「……今日も……か」

拓弥「士狼? おい、聞いてんのか?」

士狼「え? あ、ごめん」

拓弥「ったく、相変わらず、鏡花ちゃんにお熱かよ?」

士狼「ば、馬鹿! ちげーよ!」

拓弥「現実離れした美人で、誰にでも優しくて、儚げ。クラスの憧れの人、ナンバーワンだもんな。惜しむらくは、滅多に学校に来ないってところか」

士狼「確か、太陽の光に長時間当たるとマズイ病気なんだよな?」

拓弥「ああ。だから、夏の間は、学校はほぼ休み。早く冬になってほしいよな。鏡花ちゃんに会いたいぜー」

士狼「……」

拓弥「あー、そういえば俺、鏡花ちゃんの家にプリント持っていくように先生に言われてるんだよなー」

士狼「え?」

拓弥「あー、くそー、でも、今日は俺、用事があるんだよなー。なあ、士狼。お前、俺の代わりに持って行ってくんね?」

士狼「あ、うん。いいよ。仕方ないから、持って行ってやるよ」

拓弥「へっ! よく言うぜ」

場面転換。

歩いている士狼が立ち止まる。

士狼「ここか……」

インターフォンを押す士狼。

しばらくしてドアが開く音。

鏡花「はーい。……あら? 藍沢くん?」

士狼「あ、ああ、あの、これ、プリント」

鏡花「ありがとう。……今日は坂下くんじゃないのね」

士狼「あ、その……拓弥の方がよかった?」

鏡花「え? あ、ごめんなさい。そういうことじゃなくて。いつも、学校の用事のものは坂下くんが持ってきてくれるから」

士狼「……そっか。それじゃ、帰るね」

鏡花「あ、待って。もし、迷惑じゃなかったら、寄って行かない? プリント持ってきてくれたお礼したいし」

士狼「え? あ、うん」

場面転換。

士狼「でさ、そこで拓弥が言ったんだ。そんなのは友達じゃないって」

鏡花「うふふふ。坂下くんらしいね」

そのとき、鏡花の家の時計の鐘が鳴る。

士狼「あ、もう、こんな時間か。そろそろ帰るね」

鏡花「うん……。あのね、藍沢くん」

士狼「ん?」

鏡花「いつもありがとう。私の家に来てくれて」

士狼「え? あ、ううん。いいんだよ。俺、暇だしさ」

鏡花「夏の間は、ずっと家に閉じこもってばかりだから、人が恋しくなるのよね」

士狼「そうなんだ? ……って、今更だけど、宇佐美さんの家族は? 今まで見たことなかったけど」

鏡花「単身赴任よ。……って、夫婦で行ってるから単身じゃないのかな? なんていうんだろ? こういうのって」

士狼「じゃあ、今は一人で住んでるの?」

鏡花「そうよ。気軽な反面、大変なの」

士狼「そうなんだ……」

鏡花「……よかったら、今夜、泊まってく?」

士狼「へ? いやいやいやいや! まずいよ、そんなの!」

鏡花「うふふふ。冗談よ」

士狼「あ、ああ。そうだよね、冗談だよね」

鏡花「でも、よかったなぁ」

士狼「なにが?」

鏡花「あの日、プリントを持ってきてくれたのが藍沢くんで。あのとき、お茶に誘って、ホントによかった」

士狼「宇佐美さん……」

鏡花「だって、こんなに素敵な友達ができたんだもの」

士狼「と、友達……か」

鏡花「ん?」

士狼「ああ、いや、なんでもないよ」

鏡花「でも、気を付けてね」

士狼「え?」

鏡花「私……惚れっぽいから」

士狼「あ、あの……その……」

鏡花「うふふ。ごめんね、引き留めちゃって。外、暗くなってるから気を付けて帰ってね」

士狼「あ、うん。全然平気だよ」

鏡花「そう? でもね。本当に気を付けないとダメよ。この町……出るって噂だから」

士狼「……出る? もしかして幽霊?」

鏡花「ううん。もっと怖いもの、よ」

士狼「……」

場面転換。

鏡花「はい。クッキー焼けたわよ」

お皿をテーブルに置く鏡花。

士狼「ありがとう。……うん、美味しい」

鏡花「えへへ。そうでしょ、自信作なの」

士狼「宇佐美さんは、いいお嫁さんになりそうだよね」

鏡花「あら? もしかして、遠回りに口説いてるのかしら?」

士狼「え? ああ、違う違う! そういうつもりじゃなくて!」

鏡花「そうなんだ? ……残念」

士狼「う、うう……」

鏡花「でも、あんまり私には、深入りしないほうがいいわ」

士狼「え?」

そのとき、鏡花の家の時計の鐘が鳴る。

鏡花「あら、もうこんな時間なのね。早く帰った方がいいわ。今日は満月みたいだし」

士狼「……前にさ、この町に幽霊よりも、もっと怖いものが出るって言ってたよね?」

鏡花「え? ええ、言ったわね」

士狼「その……宇佐美さんは大丈夫なの? そんな危ないところに一人でいて」

鏡花「……ねえ、藍沢くん。あなた、雪女の話、知ってるかしら?」

士狼「雪女の話?」

鏡花「ある山奥に住む男が、綺麗な女性と結婚したんだけど、その女性が実は雪女だったって話」

士狼「うん。その男は相手が雪女だって知って、逃げたんだよね」

鏡花「あなたはどうかしら? 相手が雪女だったら逃げ出す?」

士狼「宇佐美さんならどう? 例えば好きな相手が化物だったら……逃げ出す?」

鏡花「そんなことで逃げ出すようなら、好きって言わないと思うわ」

士狼「俺も同じ答えだよ」

鏡花「そっか……。雪女も、こんな気持ちだったのね」

士狼「え?」

鏡花「私ね、ずーっと不思議だったの。どうして、雪女は自分が雪女だって言ったんだろうって。怖がられて、恐れられて、逃げられるって、わかってたはずなのに」

士狼「……宇佐美さん?」

鏡花「でも、知りたかったんだと思う。信じたかったんだと思う。好きな人の、その言葉を」

士狼「……どういうこと?」

鏡花「藍沢くん……私ね……」

シャーっとカーテンを開く音。

同時に羽が羽ばたく音がする。

士狼「羽……牙……赤い目。宇佐美さん、君って……」

鏡花「私、ヴァンパイアなのよ」

士狼「……」

鏡花「さあ、どうかしら? 藍沢くん。あなたは逃げないでいられる?」

士狼「……よかった」

鏡花「え?」

士狼が鏡花に歩み寄る。

そして、オオカミの吠える声が響く。

鏡花「藍沢くん、あなたって……」

士狼「俺……狼男なんだよね」

鏡花「ぷっ……あはははは」

士狼「あはははははは」

二人が大笑いする。

鏡花「これからもよろしくね、藍沢くん」

士狼「うん。こちらこそ」

終わり。

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