【声劇台本】未完成のラブストーリー
- 2021.06.30
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブストーリー
■キャスト
翔琉(かける)
ひかり
■台本
翔琉「……どうだ?」
ペラリとページをめくる音。
ひかり「全然ダメね。まったく響いてこないわ」
翔琉「いやいやいや! そんなことないだろ! めちゃめちゃ恋愛ものの映画とか小説とか見まくったんだぞ」
ひかり「あー。それが原因ね」
翔琉「どういうことだよ?」
ひかり「どっかから持ってきたような、表面的な感じなのよ。だから、響いてこないんじゃない?」
翔琉「んなこと言われてもなぁ……」
ひかり「そもそも、恋愛したことのない翔琉がラブストーリーなんて書けるわけないのよ」
翔琉「ひかりだって、そうだろ?」
ひかり「……」
翔琉「お互い、恋愛ものは無理ってことか」
ひかり「……一つ、手案があるわ」
翔琉「提案?」
ひかり「小説家を目指してるのに、恋愛系が書けないって致命的だと思うのよ。別にラブストーリーじゃなくても、恋愛要素って、大体入ってるでしょ?」
翔琉「まあ……そうだな」
ひかり「つまり、恋愛は避けて通れないのよ」
翔琉「じゃあ、どうするんだよ?」
ひかり「恋を経験するしかないわ」
翔琉「今まで全然興味なかったんだぞ。急に恋をしろなんて言われてもなぁ」
ひかり「確かにこのままじゃ無理よ。だから、もっと積極的に強引に行くしかないわ」
翔琉「強引に行くって、どうするんだよ? 告白して回るのか?」
ひかり「それじゃ、意味ないわ。付き合うことが目的じゃなくて、恋することが目的なのよ」
翔琉「まあ、そうだな」
ひかり「だから、私とあんたで、お互いを惚れさせるのよ」
翔琉「……は? どういうことだ?」
ひかり「だーかーら! 私が、あんたを私に惚れさせるの。で、あんたは、私をあんたに惚れさせるのよ」
翔琉「……付き合ってみるってことか?」
ひかり「違う違う。あくまで、相手を自分に惚れさせるのが目的よ」
翔琉「なるほど。恋をするのを待つんじゃなくて、強引に恋に落とすってわけか」
ひかり「そういうこと」
翔琉「上手くいくか、それ?」
ひかり「なに? 自信ないの? 私はあるわよ。あんたを落とすのなんて、速攻ね」
翔琉「へー。おもしれえ。やってやろうじゃねーか。絶対、お前を俺に惚れさせる!」
ひかり「はいはい。精々頑張って。無理だって思っても途中で諦めたりしないでよ。約束だからね」
翔琉「はいはい。わかったよ」
場面転換。
映画館。辺りが、少し、ざわざわしている。
ひかり「……で、なんで映画館?」
翔琉「デートと言えば、映画だろ」
ひかり「ベタベタね」
翔琉「いいんだよ。王道は最強だからな」
場面転換。
喫茶店。
ひかり「やっぱり、あそこで主人公は挫折しないとダメよ。じゃないと、感情の波がおきないわよ」
翔琉「いや、シーンの構成と、主人公の性格を考えるとあれが正しいって」
ひかり「はあ? あんた、センスないわ」
翔琉「お前こそ!」
ひかり「……ねえ」
翔琉「なんだ?」
ひかり「これじゃ、いつもと変わらなくない?」
翔琉「……」
場面転換。
お祭りの会場。
ひかり「お待たせ!」
翔琉「……お!」
ひかり「あれ? どうしたの? もしかして、私の浴衣姿に惚れちゃった?」
翔琉「……んなわけねーよ。全然だね」
ひかり「そっか。けど、あんたの浴衣姿はまあまあよ。惚れるほどじゃないけどね」
翔琉「さてと、出店回ろうぜ」
ひかり「うん。夏祭りはやっぱり、デートって感じするわよね」
翔琉「そうだな」
ひかり「……えい!」
翔琉「おわっ! なんだよ、急に」
ひかり「デートなら、手を繋ぐのは当然でしょ? それとも、翔琉には刺激が強かった? いいのよ、私に惚れちゃって」
翔琉「ふん。手を繋ぐくらいなんてことねーよ」
場面転換。
打ち上げ花火の音。
ひかり「……綺麗」
翔琉「そうだな……」
ひかり「今日は、凄く楽しかった」
翔琉「ああ……」
ひかり「今まで、勿体なかったなぁ」
翔琉「だな。また来年も一緒に来ようぜ」
ひかり「ふふ。来年まで、私に惚れずにいられる?」
翔琉「……余裕だよ」
場面転換。
神社。ざわざわと人で賑わっている。
ひかり「うう……寒いし、疲れた。初詣って結構、大変なのね」
翔琉「まあ、こういう行事は抑えておかないとな」
ひかり「お参りで、何をお願いしたの?」
翔琉「今年こそは恋ができますように」
ひかり「そんなこと言って、もう私に惚れてるんでしょ? 正直に言いなさいよ」
翔琉「いやいや。ないない。全然、惚れてないよ」
ひかり「ふーん。ま、いいけど」
場面転換。
タオルを絞る音。
ひかり「……大丈夫?」
翔琉「……ごめん」
ひかり「なにが?」
翔琉「今日、夏祭りだったのにさ」
ひかり「うーん。バカは風邪ひかないっていうのは嘘だったって証明されたわね」
翔琉「ひでえな」
ひかり「だけど、こうやって、家でゆっくりするのもたまにはいいんじゃない? いつも、出かけてばっかりだし」
翔琉「……もう一年以上経つんだよな」
ひかり「ん?」
翔琉「ほら、お互い、相手に恋をさせるやつ」
ひかり「そうね。意外と惚れないものね。ずっと一緒にいたのにさ」
翔琉「……ひかりは、俺に惚れないのか?」
ひかり「うん。全然」
翔琉「……全然かよ」
場面転換。
通学路。並んで歩く翔琉とひかり。
翔琉「はあ……」
ひかり「どうしたの? 最近、ため息、多くない?」
翔琉「いや、もうすぐ卒業だなってさ」
ひかり「そうね。もう3年経っちゃったんだ。早かったなぁ。まあ、それだけ楽しかったってことなんだと思うけど」
翔琉「ひかりは女子大、決まったんだよな?」
ひかり「うん。推薦で」
翔琉「……引っ越すんだよな?」
ひかり「さすがに今の場所から通うのは辛いかな」
翔琉「……」
場面転換。
学校のチャイム。
ひかり「あーあ、卒業か。なんか実感わかないなぁ」
翔琉「ここにはもう、来ることはないんだよな」
ひかり「まあ、卒業したからね」
翔琉「なあ、ひかり」
ひかり「なに?」
翔琉「俺……。お前のこと、好きだ。好きになってた。ずっと……前から」
ひかり「やっぱりね。おめでとう。これで、翔琉は恋愛もの、書けるね」
翔琉「……ひかりは? ひかりは、俺のこと……俺に惚れてくれたか?」
ひかり「……ううん。全然。やっぱり、翔琉には荷が重たかったかな」
翔琉「……そっか。俺には無理だったか」
ひかり「うん」
翔琉「……」
場面転換。
カタカタとキーボードを打つ音。
だが、ピタリと止まる。
翔琉「……恋と失恋、か。ふふ。今の俺なら、どっちも余裕で書けるぜ! ……はあ。けど、全然書く気がしねえ。……失恋って、ホント、ヤバいな……」
そのとき、チャイムの音が鳴る。
場面転換。
翔琉「はいはい」
ガチャリとドアが開く音。
翔琉「……ひかり? どうして?」
ひかり「いや、どうして、じゃなくって! あんた、ちょっと無責任過ぎるわよ」
翔琉「……え?」
ひかり「最初に約束したでしょ! 途中で諦めるじゃないわよって!」
翔琉「……確かに、そんな約束したな」
ひかり「私、まだあんたに恋してないんだから、ちゃんと最後まで責任取りなさいよ! 私があんたに惚れるまで、付き合ってもらうからね!」
翔琉「あ、ああ……。わかった。これからも、お前が俺に惚れるまで、会いに行くよ」
終わり。
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