【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 理解の境界線

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」

亜梨珠「ふふ。あなたと話すのは久しぶりに感じるわね」

亜梨珠「実際にはそこまで間が空いていないと思うのだけど、きっと、それだけ、あなたとの距離が縮まったからかもしれないわ」

亜梨珠「……もう少し距離を保っておかないといけないかしらね」

亜梨珠「……ふふ。そう言って貰えると嬉しいわ」

亜梨珠「でも、やはり一定の距離感は必要だと思うわよ」

亜梨珠「……あら、そんな悲しそうな顔をする必要はないわ。別に嫌うわけじゃないのだから」

亜梨珠「ただ、極論を言ってしまうと、私とあなたは赤の他人同士。完全に理解し合えるわけはないわ」

亜梨珠「……え? 理解できなくてもできるように努力するべき?」

亜梨珠「ふふ。あなたらしいわ」

亜梨珠「でも、理解し合うことで不幸になることもあるのよ」

亜梨珠「……あら、納得できないって表情ね」

亜梨珠「じゃあ、今回は理解し合うことについてのお話をしようかしら」

亜梨珠「これは遠い星に住む種族の話よ。……あまりピンとこないのなら、未来の話でもいいわ」

亜梨珠「え? 余計、イメージしづらい、ですって?」

亜梨珠「うーん。まあ、いいわ。とりあえず、聞くだけ聞いてみてちょうだい」

亜梨珠「その種族は長い間、種族間同士で戦争をしていたの」

亜梨珠「まあ、この辺りは現代の世界とそう変わらないわね」

亜梨珠「そんな争う中、ある人がふと考えたの。なぜ、我々は他の動物と違い、ここまで争い続けるのだろうか、と」

亜梨珠「そしてその人は、ある結論に行きつくわ。それは嘘を付くからだって」

亜梨珠「他の動物になくて、人にあるもの……。それは嘘を付くことができるということだと考えたの」

亜梨珠「そこで、その人はある研究を行ったの。頭の中の思考を共有できれば、人は嘘を付けなくなる、と」

亜梨珠「そして、長い年月をかけて、その研究は完成したわ」

亜梨珠「最初は数人でしか共有ができなかったけれど、これが広まれば、やがて人は戦争を止めるだろうと考え、その研究を発表したの」

亜梨珠「するとどうなったと思うかしら?」

亜梨珠「それは戦争を止めるどころか、軍事利用されることとなったの」

亜梨珠「だって、作戦の指示もなく、統一された意思の元に動く軍隊。それはとても強力な兵となったわ」

亜梨珠「そして、暴力で脅され、その人が軍隊の指揮を執らされることになったの」

亜梨珠「その人が指揮する軍隊は多大な功績を残し、最強の軍とまで言われるようになったわ」

亜梨珠「するとどうなると思うかしら?」

亜梨珠「利用していた国自体が、その軍を危険視するようになったのよ」

亜梨珠「もし、反乱でも起こされたら終わりだ、って」

亜梨珠「そこで、兵士たちの処分が決まったわ。だけど、技術を作り出した功績があるから、その人だけは処分を免れたの」

亜梨珠「でも、その人にとって、部下たちはかけがえのないものとなっていたの。だって、全ての点で共有し合った仲なのよ」

亜梨珠「家族よりも、ずっとずっと深く理解し合った人たちなの。それはもう、自分の体の一部といっていいほどに」

亜梨珠「そして、兵士たちの処分の日、その人は自分を囮にして、兵士たちを逃がそうと考えたの」

亜梨珠「その計画は全員に即座に伝わったわ。それは口で伝えるよりも早く、たやすく、ね」

亜梨珠「いざ、実行の時間になった時……。兵士は誰一人逃げようとはしなかったわ。逆に全員が自決したの」

亜梨珠「なぜかって? それはね、その人たちにとって、兵士たちは自分の一部だったように、兵士たちもまた、その人は自分の体の一部だったのよ」

亜梨珠「自分たちが逃げれば、確実にその人は処分される。それであれば、兵士たちが全員処分されれば、その人は生き延びることができると思ったわけね」

亜梨珠「そのことで、もちろん、その人は処分されずに済んだわ」

亜梨珠「でも、数日後、その人もまた、自決してしまったのよ」

亜梨珠「その気持ちはわからなくもないわ。だって、自分の体の一部が一斉に消されてしまったのだもの」

亜梨珠「きっと、耐えられなかったのでしょうね。……みんながその命を生かそうとしていたのを、わかっていても」

亜梨珠「どうかしら? お互いを理解し合い、理解し過ぎると他者と自分の境界もなくなってしまうわ」

亜梨珠「だから、相手を大切だと思うのなら、尚更、相手との境界があった方がいいこともあるのよ」

亜梨珠「でも、まあ、個人が完全にり愛し合える時代なんて、まだまだ先だと思うけれどね」

亜梨珠「これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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