【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 八百比丘尼の伝説


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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「……いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「え? 今日はなんだか、元気がないって?」

亜梨珠「……そうね。ちょっと知り合いが亡くなっちゃって」

亜梨珠「はあ……。ダメね。私がこんなんだと、あの子も安心できないわ。気持ちを切り替えないと……」

亜梨珠「ん? 付き合いが長かったのかって? ええ。結構昔からね。相談とかにも、よく乗ってもらってたわ」

亜梨珠「……ねえ、どうして、人って死ぬのかしら?」

亜梨珠「あ、ごめんなさい。こんな話を聞きにきたわけじゃないわよね」

亜梨珠「え? 気にせず、話してくれって?」

亜梨珠「ありがと。優しいのね」

亜梨珠「それじゃ、あなたは、八百比丘尼(やおびくに)の伝説を知ってるかしら?」

亜梨珠「その顔だと知らないようね。それじゃ、今日は八百比丘尼に関してのお話にしようかしら」

亜梨珠「簡単に言うとね、八百比丘尼っていうのは、人魚の肉を食べたことで不死の体になってしまった女性のこと。八百比丘尼は千年以上生きたって話よ」

亜梨珠「昔からね、人魚の肉にはね、長寿の効果があるって言われてるの」

亜梨珠「よく物語なんかにも出てくるから、聞いたことがあるんじゃないかしら」

亜梨珠「でもね、人魚の肉の本当の効果は不老不死なの」

亜梨珠「……何が違うのかって? つまり、長寿、じゃなくて年を取らないってことよ」

亜梨珠「え? 同じじゃないかって?」

亜梨珠「まあ、大まかに見ると同じだけど、若いままと年を取っていくのでは、全然違うわよ。女性から見たら、特に、ね」

亜梨珠「それじゃ、どうして、長寿……つまり年を取るという伝承が残っているのか、なんだけど……」

亜梨珠「これはある、秘密に関係してるの」

亜梨珠「その秘密というのは、人魚の肉を食べたのは八百比丘尼じゃなくて、その娘だったってことよ」

亜梨珠「……どういうことか、わからないって顔ね。それをこれから説明するわ」

亜梨珠「経緯は省略するけど、ある日、女性の娘が人魚の肉を食べてしまったことで、不老不死になってしまったの」

亜梨珠「その女性は、自分の娘が不老不死になってしまったことを隠すことにしたわ」

亜梨珠「……どうしてか、って? 今もそうだけど、昔はね、権力者というのは不老不死に憧れ、その方法を手に入れようと必死になっていたわ」

亜梨珠「その不老不死の方法を探る研究が錬金術って言われているみたいだし、秦の始皇帝も不老不死になるために、水銀を飲んだ、なんて話もあるみたいよ」

亜梨珠「あ、ごめんなさい。話が逸れたわね。つまり、なんで、隠そうとしたかというと、もし、娘が不老不死だと知ったら、捕まって実験台にされると心配したのよ」

亜梨珠「……不死なのよ。死なないってわかっているなら、どんな酷い実験をされるかわからないわ。おそらく、生きているが辛くなるくらいの惨いことをされるに決まってる。だから、母親は娘が不老不死だと秘密にしたの」

亜梨珠「でもね、隠し事なんていうのは、すぐにバレてしまうものなの。だから、母親は考えたの。人魚の肉の効果を変えて、噂を広げようって」

亜梨珠「知ってるかしら? 嘘というのは、ホントのことを混ぜることで、一気に信ぴょう性が増すものなの」

亜梨珠「だから、母親は人魚の肉は不老不死ではなくて、長寿の効果があるとしたの」

亜梨珠「こうしたのは、2つの狙いがあったそうよ。一つは、娘が人魚の肉を食べたということを隠せるということ」

亜梨珠「年を取るのだから、子供は除外されるってわけね。つまり、娘は狙われなくなる」

亜梨珠「で、もう一つは長寿なんていいものじゃないって、触れ回ること」

亜梨珠「あなたは長寿って憧れるかしら?」

亜梨珠「人によっては100年くらいの長生きならしてみたいと思うかもしれないわね。でも、考えてみて。200年、300年……それこそ1000年生きると考えたらどうかしら?」

亜梨珠「家族はもちろん、知り合いだって、みんな先に亡くなっていくわ。それに、何百年も生きてるなんて知られたら、化物扱いされることになるのは火を見るより明らかよ」

亜梨珠「だから、各地を転々とすることなるわね。そんな人生、楽しいと思うかしら?」

亜梨珠「人によっては、それでも長生きしたいと思うかもしれないけど、年を取っていくと考えると、なりたいと思う人は随分と少なくなるわ」

亜梨珠「……え? 母親の方も人魚の肉を食べたのかって?」

亜梨珠「ふふ。鋭いわね。いいえ。食べてないわ」

亜梨珠「そうね。それだと、人魚の肉の効果は長寿ではないってバレるわね」

亜梨珠「それじゃ、どうしたか。それは、世襲にしたの」

亜梨珠「つまり、二代目八百比丘尼、三代目八百比丘尼と、死ぬ前に八百比丘尼の名前を引き継いだの」

亜梨珠「今みたいに写真なんてない時代だからね。顔がわからないから、途中で入れ替わったとしても、バレないってわけよ」

亜梨珠「そうすることで、本当に八百比丘尼は1000年以上生きてるって見せかけることができたの」

亜梨珠「聞くと単純な話よね」

亜梨珠「でね、八百比丘尼は日本中を旅したわ」

亜梨珠「旅をしながら、各地で長寿になるのは良いことばかりではないという話を広めて回ったわ」

亜梨珠「でもね。本当の目的は、人魚の肉の効果を消す方法を探すため」

亜梨珠「つまり、不老不死になった娘を元に戻す――不老不死から解く方法を探すための旅だったの」

亜梨珠「凄いわよね。本当の母親……つまり初代の八百比丘尼は亡くなったのに、その意志は名前と一緒に代々、受け継がれていったのよ」

亜梨珠「八百比丘尼の名前を受け継ぐということは、普通の人生から外れるということ。それでも、最初に人魚の肉を食べた娘を治すためだけに人生を捧げたの。何百という八百比丘尼がね」

亜梨珠「全てはその目的を果たすために、旅をして、八百比丘尼の名を継承し、そして――真相を隠し続けていった……」

亜梨珠「これが八百比丘尼伝説の真相ってわけ。どうかしら? この話は八百比丘尼しか知らない話よ。貴重な話を聞けて、嬉しかったでしょ? 私も、あなただから特別に話したのよ」

亜梨珠「……え? じゃあ、どうして、私がこの話を知っているか、って?」

亜梨珠「そ、れ、は、私が八百比丘尼の名を継いだからよ!」

亜梨珠「……あー、嘘嘘! 本気にしないでよ。冗談だからね、冗談!」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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