【声劇台本】逃亡
- 2021.08.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
拓也(たくや)
光輝(こうき)
母親
その他
■台本
拓也(N)「何もかも放り出して逃げ出したい。誰しもが一度は考えることではないだろうか。逃げ出したいという思いに年齢は関係なく、小学生だった俺も、その例外ではなかった。このつまらない日常や学校から、うるさい親から、そして、自分の罪から、逃げ出したい。そんなことを考えているときに、あの人に出会ったのだった」
場面転換。
拓也が小学校6年生。
拓也「う、うう……」
自転車が走ってきて、停まる音。
光輝「こんなところで、泣いて、どうしたんだ?」
拓也「え?」
光輝「もうすぐ暗くなるぞ。家に帰ったらどうだ?」
拓也「……帰りたくない」
光輝「なんかあったのか?」
拓也「お母さんに怒られた」
光輝「なんで?」
拓也「宿題しないでゲームしてたから」
光輝「うーん。そりゃ、お前が悪いな」
拓也「……」
光輝「ほら、後ろに乗れ。送ってってやる」
拓也「で、でも……」
光輝「いいから」
拓也「う、うん」
拓也が自転車の後ろに乗る。
光輝「じゃあ、行くぞ。しっかり掴まってろよ」
自転車を漕ぎだす光輝。
拓也「うわー。早いね」
光輝「気持ちいいだろ?」
拓也「うん」
光輝「お前、名前は?」
拓也「拓也」
光輝「いいか、拓也。人生にはな、どうしようもなくて、どうしても逃げ出したい時があったら、逃げ出してもいいんだ」
拓也「……」
光輝「けどな。それ以外の時、頑張れるときは逃げちゃダメだ。今回の拓也のことは逃げちゃダメな場合だな」
拓也「でも……帰ったら、また怒られるよ」
光輝「うーん。意外とそうでもなかったりするぞ」
拓也「え? そうかな」
光輝「ああ。きっと大丈夫だ」
拓也「う、うん」
場面転換。
ドアを開けて拓也が家に入って来る。
拓也「ただいま……」
母親「こんな時間までどこ行ってたの。早く手を洗ってきて。もうすぐ御飯だから」
拓也「……う、うん」
場面転換。
夕方。歩いている拓也。
拓也「あ、お兄さん!」
拓也が光輝に駆け寄る。
光輝「よお、拓也。学校の帰りか?」
拓也「うん、そうだよ」
光輝「で? 昨日はどうだった?」
拓也「……怒られなかった」
光輝「そうだろ? そんなもんさ」
拓也「ねえ、お兄さんの自転車の横についている荷物はなあに?」
光輝「あ、これか? これは生活必需品だ。野宿することもあるからな」
拓也「え? 野宿って外で寝ることだよね? どうして家に帰らないの?」
光輝「ああ。俺は今、自転車で日本を回っているんだよ」
拓也「へー。すごいね。でも、大変じゃないの?」
光輝「確かに苦労するときはある。けどな。この生活も悪くないぞ。なんたって、自由だからな。仕事にも行かなくていいし」
拓也「ええーいいなー! 僕も行きたい」
光輝「はは。大きくなったら、やってみるといいさ。最高の気分だぞ」
場面転換。
ドアを開けて拓也が入って来る。
拓也「ただいまー」
母親「……拓也。ごめんね」
拓也「え? なにが?」
母親「運動会なんだけど、お母さん、仕事でいけないの」
拓也「ええ! なんで? 今年は来てくれるって言ったじゃん!」
母親「……ごめんね」
拓也「なんだよ! お母さんは仕事ばっかり! 運動会に誰も来ないなんて、僕だけだよ!」
母親「ごめんね、拓也」
拓也「……お父さんがいないから?」
母親「え?」
拓也「なんで、僕にはお父さんがいないの? なんで、僕だけ、こんな目にあわないといけないの? 母さんはホントは僕のこと邪魔なんだ!」
母親「そんなことない!」
拓也「仕事の方が好きなんでしょ! 僕なんかいなかったら、ずっと仕事出来るもんね!」
パチンと頬を叩く母親。
拓也「う、うう……。お母さんのバカ! お母さんなんか、大嫌い!」
拓也が家を飛び出していく。
場面転換。
拓也「う、うう……」
自転車がやってきて、停まる音。
光輝「おいおい。さっき、家に帰ったばっかりだろ」
拓也「あ、お兄さん」
場面転換。
光輝「なるほどな……」
拓也「ねえ、お兄さん。僕も連れてってくれないかな?」
光輝「……」
拓也「お願い! 僕、もうお母さんのところに戻りたくない! それに、お母さんしかいないからって、からかってくる友達とも会いたくない!」
光輝「なあ、拓也。本当に辛いときは逃げてもいいんだ」
拓也「うん、だから、逃げたい」
光輝「でも、今回は逃げちゃダメな場合だな」
拓也「ええ! で、でも……」
光輝「ほら、お母さんに謝りに行くぞ」
拓也「……」
光輝「運動会には俺が行ってやる。それでどうだ?」
拓也「え? ホント!?」
光輝「約束だ」
場面転換。
母親「本当にありがとうございました」
光輝「いえ。楽しかったですよ、運動会」
母親「ほら、拓也もお礼いいなさい」
拓也「お兄さん、ありがとう」
光輝「ああ。駆けっこの一等賞、おめでとう。……それじゃ、俺、そろそろ」
拓也「ねえ、もう少しこの町にいたら? そうだ、うちに泊まっていったら?」
母親「ええ。宜しければ、どうぞ、泊まっていってください」
光輝「嬉しい誘いですけど、もう行かないといけないんで」
母親「そ、そうですか……」
光輝「というわけで、じゃあな、拓也」
拓也「ねえ、お兄さん、また会える?」
光輝「そうだなぁ。拓也が良い子にしてたらな」
拓也「うん、僕いい子にしてるよ!」
光輝「それなら、きっとまた会えるさ」
場面転換。
母親と並んで歩く拓也。
拓也「お兄さん、今頃、どこにいるのかな? いつ、戻ってきてくれるのかな?」
母親「自転車で全国をまわってるんでしょ? 一か月じゃ無理よ」
拓也「うーん……って、あれ? ねえ、お母さん! お兄さんの写真!」
母親「え? ……え? 指名手配?」
そこに警察官が駆け寄って来る。
警察官「坊や。この写真の人、見たことあるのかい?」
拓也「……」
母親「あの、その人、何したんですか?」
警察官「殺人です。母親を殺して、逃亡中なんです」
母親「そ、そんな……」
拓也「……」
場面転換。
拓也(N)「お兄さんは言っていた。どうしようもないとき、本当に辛いときには逃げてもいいと。きっとあれは、自分自身に対しての言葉だったんだろう。あれから10年以上経った今でも、お兄さんが逮捕されたという記事はない。この空のどこかで、お兄さんは今だに逃げ続けているのだろうか?」
終わり。
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