【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 予知夢 

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「なんて言ってる場合じゃないわね。はい、タオルを貸してあげるわ」

亜梨珠「天気予報は見なかったのかしら? 午後の降水確率は80パーセントだったのよ?」

亜梨珠「……え? 信じたら外れるから見ないようにしてる? ふふ、いるわよね、そういう人」

亜梨珠「二分の一の確率の賭けには負けるのに、十分の一の確率の罰ゲームを引いちゃう人って」

亜梨珠「あなたもそうなのかしら? ふふ、災難ね」

亜梨珠「でも、そういうのは、大体は悪い結果が頭に残るから、必然的に運が悪いと思い込んでしまうタイプらしいわよ」

亜梨珠「よくあるじゃない? パッと時計を見ると44分だったりすること」

亜梨珠「何となく不吉な数字を見て、ガッカリすることがあるようだけど、考えても見て。その44分を引き当てるまでに、何回時計を見たのかを、ね」

亜梨珠「そう考えると44分を引き当てる確率なんて、かなり低いと思わないかしら?」

亜梨珠「だから、あなたも外れるなんて言わないで、天気予報はちゃんと見ることをお勧めするわ」

亜梨珠「……いちいち、ちゃんと見るのが面倒くさい? ふふ、そう言っているから、今日みたくずぶ濡れになっちゃうのよ」

亜梨珠「そうね。今の段階では100パーセントの確率で当てることは難しいみたいよ。確か、天気の情報が足りなさ過ぎて、予想するのも大変らしいわ。でも、確か、あと数百年もしたら、データがそろって、100パーセントの予報ができるようになるかもしれないわね」

亜梨珠「え? その頃には生きてない? ふふ、そうね」

亜梨珠「もっと早く100パーセントの予想ができるようにならないのかって? そうね、無理なんじゃないかしら」

亜梨珠「でも、たまに当たらないっていうのもいいと思わないかしら? 逆に100パーセント当たる予想なんて、結果が分かってる分、面白くないと思わない?」

亜梨珠「え? 思わない? あらそう。残念ね」

亜梨珠「そうだ。それじゃ、今日は100パーセントの予知ができる男の人の話でもしようかしら」

亜梨珠「その男の人はごくごく、普通の大学生だったわ。唯一、他の人と違うところがあるとすれば、100パーセント当たる予知夢を見ることができるようになった、というところかしら」

亜梨珠「でも、その予知夢のせいで、その男の人は随分と苦労したみたいね」

亜梨珠「100パーセント当てられる予知夢が見れるなら、大金持ちになれるだろうっていうあなたの意見もわかるわ」

亜梨珠「でも、それは狙ったもの……つまり意図したものに対して、予知できることが前提じゃないかしら?」

亜梨珠「その男の人はなんの前触れもなく、少し先の予知夢を見るらしいの」

亜梨珠「逆に気になって落ち着かないらしいわ。だって、100パーセント当たるのだから」

亜梨珠「それでも、予言者みたいなことをしようとして、予知夢をみたときは周りに話すようにしたの。それが積み重なれば、注目されるのではないかって」

亜梨珠「でも、困ったことにその予知夢はその男の人の周りの出来ことしか見ることがなかったの」

亜梨珠「だから、SNSなんかで予知夢の内容を書き込んでも、当たったかの証明をするのは難しいわ」

亜梨珠「それじゃ、周りの人に言えばいいと思うわよね?」

亜梨珠「もちろん、その男の人もそうしたらしいわ。でも、その予知夢はせいぜい、10分くらい先のものばかりだったから、連絡を取ってるうちに予知の出来事は終わってしまうみたいね」

亜梨珠「だから、ギャンブルなんかにも向いてなかったようだわ」

亜梨珠「それはそうよね。いつ見れるかわからない上に、10分くらい先の予知しか見れないんだもの。無理に決まっているわ」

亜梨珠「だから、その男の人は、こんな程度の予知夢なら、見ない方がマシだと思うようになったわ」

亜梨珠「夢の内容を無視しようとしても、100パーセント当たるなら気になってしまうでしょ?」

亜梨珠「無視なんかできるはずもないわね」

亜梨珠「結局、その男の人は100パーセント当たる予知夢なんてものを見るせいで、悩みの種になってしまったようだわ」

亜梨珠「それでも、あなたは100パーセント当たる予知夢を診れるようになりたいかしら?」

亜梨珠「今日は未来がわかることは、必ずしもプラスになるとは限らないというお話ね」

亜梨珠「……え? その後、その男の人はどうなったか、って?」

亜梨珠「あまりいい話じゃないから、せっかく濁したのに、そういう嗅覚は鋭いのね」

亜梨珠「じゃあ、その男の人がどうなったか……だけど、本当に聞きたいかしら?」

亜梨珠「そう、わかったわ。結論を言うと、亡くなったわ」

亜梨珠「どういうことかというと、その男の人が好意を寄せていた女性が車に轢かれそうになっている夢を見たらしいの」

亜梨珠「それで、夢で見た場所はその男の人の家からすぐ近くということもあり、すぐに向かったの。そして、当然のようにその予知は再現されていったわ」

亜梨珠「轢かれそうになった瞬間、その男の人は自分の身を挺して助けたみたい」

亜梨珠「女の人は助かったけど、その男の人は……助からなかったわ」

亜梨珠「結局、最後の最後まで、その予知夢に翻弄されてしまう人生だったみたいね」

亜梨珠「え? 好きな人を助けられたんだからよかったって?」

亜梨珠「どうかしら? 予知夢を見ることがなければ、死ななくて済んだのよ?」

亜梨珠「例え、その男の人は好きな人を助けられてよかったと思うかもしれないけど、その男の人を大切に思う人から見たら、やっぱり、その男の人が助かった方がいいって言うはずじゃないかしら」

亜梨珠「まあ、結局、100パーセント当たる予知夢だったとしても、自由にコントロールできない場合は足を引っ張られる可能性もある、って話ね」

亜梨珠「ふふ。最初は天気予報をちゃんと見た方が良いって話だったのに、これじゃ、逆効果だったわね」

亜梨珠「はい、とにかく、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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