【声劇台本】タイムカプセル

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
レオ
国王
兵士

■台本

レオ(N)「俺のじいさんであるアーサーが魔王との和平を結んでから50年が経った。じいさんが体調を崩してからというもの、魔王と、その妃が見舞いに訪れてきてくれたということもあり、人間と魔族との間の平和は今後も長く続いていくだろうと思っていた。だが、そんなことは都合のいい幻想だったことを知ることになる。きっかけはじいさんの死。じいさんの葬儀にも参列していた魔王達だったが、その喪が明けたと同時に、魔王軍は人間に対して侵攻を開始する。突然の裏切り。……いや、魔王はあくまでじいさんと和平を結んだのであって、人間全体と結んでいたというわけではななかったのだ。生前、じいさんは魔王に対し、大丈夫、信用のおけるやつだとずっと言っていた。だが、それはじいさんの目線で見た魔王の姿だったのだ……」

場面転換。

兵士が走ってきて、勢いよくドアを開ける。

兵士「国王様、報告します。カイヌの町が魔王軍の侵攻により落ちました」

国王「なんだと! ザークではなく、カイヌの方を攻めたというのか。……くそ! ことごとくこちらの裏をかいてきよる」

レオ(N)「確かにおかしい。なぜカイヌの方を攻めたのかがわからない。あんな山奥の町を落としたところで何の得がある? あるとしたら、生前にじいさんが、カイヌには良い温泉が湧いていると言っていたことくらいか。まさか、魔王が温泉目当てで攻めてきた、なんてことはないだろう」

国王「のう、レオ。お前はどう思う?」

レオ「確かに親父の言う通り、完全に裏をかかれた。だが、裏をかくためだけに、あの場所を落とす意図はまったくわからない」

国王「ふむ……。して、被害の方はどうなっている?」

兵士「それが、死傷者はゼロです」

国王「ゼロ……だと?」

兵士「はい。カイヌは街中に大した戦力もなく、あっさりと降伏したそうです」

国王「まあ、その辺鄙なところでは仕方あるまい。で、降伏した後、魔物による被害は出ていないのか?」

兵士「はい。奴らはカイヌを占領したというのではなく、通ったというくらいに思っているかと思います」

国王「なるほど……」

レオ「親父。今回の魔王軍の侵攻には何かありそうだ。人間側を攻めているのではく、どこかに向かっているような気がする」

国王「どこかに向かっている? それはどこだ?」

レオ「……世界地図を持ってきてくれ」

兵士「はっ!」

バサっと地図が広げられる。

レオ「最初はオーリン地区、ザマナ大森林を通り、今度はカイヌか……。これは北に向かっているとしかわからない」

国王「だが、この侵攻の進む先に、目立った都市や遺跡などもないぞ?」

レオ「俺たち人間にはなくても、魔王から見たら何か重要な場所があるのかもしれない」

国王「仮に、魔王が何かしら力を得るような場所だとしたら、もう手が付けられなくなる。なんとでも、阻止しないとならぬ」

レオ「森林……温泉……。そして、北……。ん? 待てよ?」

国王「どうした?」

レオ「……親父、しばらく俺は旅に出る」

国王「旅? なぜ、このタイミングに?」

レオ「この最北端のキリーナ岬。生前、じいさんがここに何かを埋めたと言っていた」

国王「父さんが?」

レオ「ああ。もしかしたら、じいさんが埋めた何かを魔王は狙っているのかもしれない」

国王「父さんなら伝説級の武具やアイテムを持っていてもおかしくない。魔王に取られてしまうと最悪だが、逆に我らが先に手に入れれば、魔王軍に対抗できる何かが埋まっているかもしれない。レオよ。道中、かなり危険だが、やってくれるか? なんとしてでも、我々が先に手に入れねばならない」

レオ「ああ、任せておけ」

場面転換。

レオ(N)「こうして、俺はじいさんが言っていた場所へと向かう。途中、魔王軍の妨害を受け、進むのが遅くなったりもしたが、なんとか、その場に辿り着くことができた」

レオ「ここか……」

レオ(N)「わかりやすいことに、うちの家紋と魔王軍の印が書かれた旗が立っていた」

ザクザクと穴を掘る音。

そして、カツンとスコップが金属製の箱に当たる音。

レオ「これだ!」

取り出して、ガチャリと開く。

レオ「……写真?」

レオ(N)「その箱に入っていたのは、数十枚の写真とガラクタ、そして、日誌だった」

レオ「完璧にアテが外れたな。魔王が狙っていたのはここじゃないのか……え?」

レオ(N)「完全に肩透かしをくらった気がしていた俺に、衝撃が走った。それは写真には若い頃のじいさんと魔王が写っていた」

レオ「どういうことだ? まさか、じいさんと魔王は子供の頃から知り合いだったのか?」

レオ(N)「写真に写っているのは、じいさんと魔王との思い出が収められている。肩を組んだり、満面の笑みを浮かべていたり、これを見る限り、友達にしか見えない」

レオ「じゃあ、この日誌は……」

日誌を手に取り、パラパラとめくるレオ。

レオ(N)「案の定、日誌にはじいさんと魔王との思い出が書き綴られている。……日誌というより日記に近いだろう。二人は親友だった。二人で組んで、色々と悪戯もやったようだ。町中を騙す嘘に、覗きや人助けなんてこともやったと書かれている。子供の頃の思い出がびっしりと詰まった箱だった」

次々と写真をめくっていくレオ。

レオ「……もしかすると、魔王はじいさんが死んで、懐かしむためにこれを手に入れようとしたのか? それなら、そうと言ってくれれば……ん?」

ピタリと写真をめくる音が止まる。

レオ「こ、これは!」

場面転換。

国王「レオよ。大儀であった。魔王軍は進軍を止め、撤退している。同時に、再度、和平への調印を求めてきた」

レオ「そっか……やっぱり」

国王「それにしても、一体、どんな凄いアイテムが眠っていたのだ?」

レオ「ごめん、親父。これは言うわけにはいかないんだ」

国王「そうか。では、お前が魔王宛に書いた、手紙の、『アレをバラすぞ』という、アレとはなんなのだ?」

レオ「それこそ、言えない。これは俺が墓場まで持っていく」

国王「そ、そうか……。お前がそういうなら、聞くのは止めよう」

レオ「ありがとう、親父」

レオ(N)「魔王軍……いや、魔王は、じいさんが死んだとき、きっとあの箱の存在を思い出したのだろう。そして、是が非にでも、誰にも見つからないように回収する必要があった。……人間にはメンツというものがある。どうやら、魔王軍側にもメンツというものがあるようだ。であれば、これを見られるわけにはいかないだろう。じいさんと一緒に、おねしょをした写真は……」

終わり。

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