【声劇台本】雪女の伝説

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■概要
人数：3人
時間：10分

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ

■キャスト
平蔵（へいぞう）
勘吉（かんきち）
雪江（ゆきえ）

■台本

ナレーション「雪女の伝説……。雪女と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか？　雪国に住み、肌が白く、とても美しい反面、その心も凍てつくように冷たく、自分を拒否した男や気に入った男を氷漬けにしてしまう、そんなイメージを持っているのではないでしょうか？　今回はある男と、雪女の物語……。男が雪女を愛してしまったことによる、悲劇の物語なのです」

ザクザクと雪の中を歩く、平蔵と勘吉。

平蔵「うう……寒いな」

勘吉「ああ。今年はいつにも増して厳しい寒さだな」

平蔵「もしかすると……そろそろ、来るかもしれないな」

勘吉「ん？　なにがだ？」

平蔵「なあ、勘吉。お前、雪女の伝説ってきいたことあるか？」

勘吉「雪国に住む妖怪の話だろ？　結構、有名じゃないか？」

平蔵「どんな話か知ってるか？」

勘吉「えーっと。確か、ある吹雪の日に、男が女を助けるんだよな。で、後日、家にその女がやってくる」

平蔵「うん。そこまでは合ってる」

勘吉「で、男と女は一緒に暮らし始める。二人は仲睦まじく過ごしていて、いざ、祝言をあげようという話になったとき、女が突如、言うんだ、私は雪女だって」

平蔵「うんうん。合ってる合ってる」

勘吉「で、男は女の正体を知って、逃げ出すんだよな。それ以来、雪女は若い男を恨み、山道で若い男を見ると氷漬けにしてしまうって話じゃなかったっけ？」

平蔵「……なあ、勘吉。お前だったらどうする？」

勘吉「何がだ？」

平蔵「もし、自分の愛した女が雪女だった場合、逃げるか？」

勘吉「んー。どうだろうな？　どれくらい好きになってるかにもよるかもだけど……相手は妖怪だろ？　やっぱり怖くて逃げちまうかもな」

平蔵「なるほどな……」

勘吉「なんだよ、急に、そんな話して？」

平蔵「ああ、いや、別に……」

勘吉「なあ、平蔵。そんな話より、お前が人間の異性から好かれる方法を教えてくれよ」

平蔵「俺が？　異性に？　なんの話だよ？」

勘吉「知ってるぞ。お前、ここ何年か、女をとっかえひっかえしてるじゃねーか」

平蔵「……あー。いや、あれは誤解だよ」

勘吉「誤解って、嘘付けよ。俺だって、何回か見てるんだぞ」

平蔵「いやー、まあ、その……なんだ。とにかく、俺は人間の異性から好かれるわけじゃないよ」

勘吉「隠すことねーじゃねーかよ。教えろよ」

平蔵「いやいや。勘吉。考えて見ろよ。村の女たちに、俺が一度でも好かれたことを見たことあるか？」

勘吉「いや……確かにないな」

平蔵「だろ？」

勘吉「けど、あのとっかえひっかえしてるのはなんなんだよ？」

平蔵「あれは、なんだ。別にとっかえひっかえしてるわけじゃないんだよ」

勘吉「……ま、いいや。お前が話したくないなら、無理に話さなくていいさ」

平蔵「すまんな」

場面転換。

囲炉裏の火がパチパチと爆ぜる音。

平蔵「ふう、そろそろいいかな？」

囲炉裏で温めていたかゆを一口食べる平蔵。

平蔵「くうー。美味いな」

そのとき、コンコンとドアがノックされる。

平蔵「ん？　どうぞ、開いてるよ」

ガラリとドアが開かれる。

雪江「夜分遅くすいません。私、雪江ともうします。どうやら道に迷ってしまって……」

平蔵「ああ。それじゃ、うちに泊まっていきなよ。今、かゆを作ってたんだ。一緒に食べよう。好物だろ？」

雪江「ふふふ。優しいお方。それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」

場面転換。

雪の中をザクザクと歩く平蔵と勘吉。

勘吉「……なあ、平蔵」

平蔵「……まあ、言いたいことはわかる」

勘吉「やっぱり、異性に好かれる方法があるんだろ？　また、あんな美人、どこから連れてくるんだ？」

平蔵「いや、連れて来るっていうか、来てくれるんだよ」

勘吉「来てくれる？　定期的にいい女がお前のところに来るっていうのか？」

平蔵「んー。なんて言えばいいのか……」

勘吉「ふん。まあいいさ。それより、今回はどうなんだ？　うまくいきそうか？」

平蔵「……どうだかな」

勘吉「大お前のところに女がやってきて、大体、半年したらいなくなるよな？　今回もそろそろ、あの雪江さんが来てから半年になるだろ？　やっぱり、また続きそうにないのか？」

平蔵「そうか。あいつが来てから、半年か。じゃあ、そろそろだな……」

勘吉「なんだよ？　やっぱり、今回もうまくいきそうにないのか？」

平蔵「まあ、あいつ次第……かな」

場面転換。

囲炉裏の火が爆ぜる音。

雪江「あの……平蔵さん。大事な話が……」

平蔵「まあ、いいじゃないか。その話はまた今度にしよう」

雪江「いえ。是非、聞いて欲しいんです」

平蔵「雪江。聞いて欲しい。俺はな。たとえ、雪江の正体がなんであろうと関係ない。……結婚したいと思ってるんだ」

雪江「……それなら、尚更、聞いてもらわないとなりません」

平蔵「いや、いいんだ！　本当に！」

雪江「ダメです！　愛した人だからこそ、聞いて欲しいのです」

平蔵「いいじゃないか、本当のことなんてどうだって」

雪江「お願いです、聞いてください」

平蔵「……」

雪江「……私、実は雪女なんです」

平蔵「ああ、うん。そうだよな、やっぱり」

雪江「……驚かないのですか？」

平蔵「まあ、もうかれこれ５回目だし」

雪江「……やっぱり、雪女だと嫌ですよね？」

平蔵「言っただろ？　正体なんて関係ないって」

雪江「え？　それじゃ、私が雪女でも、愛してくれるんですか？」

平蔵「ああ。もちろん」

雪江「うう……嬉しいです。私、とっても幸せです」

平蔵「ああ。俺もだよ」

雪江「……ああ、ああ！　でも、でも！　やっぱり、いけません。妖怪と人間が恋をするなんて！」

平蔵「いやいやいや！　そんなことないって！　大丈夫だって！」

雪江「いけません！　うう……。妖怪である私が幸せになんかなれるはずがありません。いえ！　なってはいけないんです！」

平蔵「そんなことはないって！　妖怪だって幸せになっていいんだ」

雪江「いえ！　いえ！　ダメです！　所詮は叶わぬ恋だったのです！　ああ……なんて、不幸な私！　不幸こそが私！　叶わぬ恋なら、いっそ、私から去りましょう！」

ドアを開けて、雪江が走り去っていく。

平蔵「……またか。今度はいつ来るかな」

ナレーション「これはある男と雪女の悲劇の物語。雪女は自分が悲劇のヒロインであることに酔い、いつも男の元を自分から去っていきます。そして、寂しくなったら、姿を変えて、また男の元へとやってきます。男は雪女を愛してしまったがゆえに、これからも雪女に振り回せてしまいます……。これを悲劇と呼ばず、なんというのでしょうか……」

終わり。

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