【声劇台本】不思議な館のアリス 暗闇

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「今日は私の方でよいですか?」

アリス「そうですか。そう言って貰えると嬉しいです」

アリス「……おや? 額に大きな腫れがありますが、どうしたのですか?」

アリス「……ああ。なるほど。昨日の停電で懐中電灯を出そうとして……」

アリス「わかります。咄嗟の際に視界が奪われると焦ってしまいますよね」

アリス「そういうときの為に、防災グッズを近くに置いておくといいですよ」

アリス「ふふ。そうですね。私も、いつかは用意しようと思っていて、なかなか用意できていません」

アリス「ただ、妹の方がそういう面ではちゃんとしているので、ついつい、頼ってしまいます。……いけないことだとは思うのですが」

アリス「……え? はは。よく言われます。大抵の人は逆だと思うみたいですね。私の方がしっかりしていて、妹の方がズボラだと。ただ、思い込みというのは思考さえも暗闇に引きずり込んでしまうものです。気を付けたいものですね」

アリス「……暗闇と言えば、手元に懐中電灯が無い場合の、いい対処法がありますよ」

アリス「それは……」

アリス「常に目をつぶって生活するのです。そうすれば、不意に停電で暗闇に包まれても、普通に対処できますよ」

アリス「ふふっ、申し訳ありません。ちょっとした冗談ですよ。目をつぶって生活する訓練をするくらいなら、素直に懐中電灯を買って、近くに置いた方が早いですよね」

アリス「ただ、盲目の方は、このような場合、なんの弊害も出ないというのは本当のことです」

アリス「それでは、今回は暗闇と盲目の方が関係するお話をしましょう」

アリス「これはある、仲がいい3名の話です」

アリス「その3名は幼馴染だったこともあり、常に一緒に過ごしていたそうです」

アリス「そして、この手の話では多いのですが、この3名も漏れず、幼馴染を好きになります」

アリス「女性1人に、男性2人。男性2人がどちらもその女性を好きになったとしても、女性の方はどちらかを選ばないとなりません」

アリス「そして、女性の方は迷うことなく、選んだそうです」

アリス「……いえいえ。選ばれた方は、顔がいいとか、お金持ちだったというわけではありません」

アリス「むしろ逆です」

アリス「そう。選ばれた方は生まれつき、目が見えなかったそうです」

アリス「小さい頃から友達でもあり、面倒を見ていたということもあり、母性的な感情も抱くようになったのでしょう」

アリス「さらに、選ばれなかった方は自分以外に相手を見つけられる可能性は高いですが、選んだ方の男性は、自分がいないとこの人はダメ、という思いもあったということです」

アリス「当然、選ばれなかった方は納得がいきません。いっそ、同じ条件で選ばれなかったのであれば、吹っ切れもしたのでしょう」

アリス「自分は目が見えて、あちらは目が見えなかっただけ。それだけで、好きになった女性を失ったという感覚になったのでしょう」

アリス「もし、自分の方が、目が見えなかったのなら、自分が選ばれたのだという思いは日に日に強くなっていったそうです」

アリス「それは裏を返すと、もう一人の男性への憎しみになります」

アリス「そんな中、ついに幼馴染の男性と女性の結婚が決まります」

アリス「その話を聞いて、男性の中で何かが弾けたような感覚がしたそうです」

アリス「そして、その事件は起こってしまいます」

アリス「二人の結婚を祝うパーティーを開くということで、女性の家に多くの友人たちが招かれました」

アリス「もちろん、その男性も呼ばれました」

アリス「集まった方々が二人を祝っている中、突如、ブレーカーが落ち、停電になりました」

アリス「参加者全員が混乱する中、盲目の男性がブレーカーを戻したことで、電気が復旧し、一同は一安心しました」

アリス「ですが、その安心も束の間、悲鳴が響きます」

アリス「……それは、幼馴染の男性、つまり目が見える方の男性が刺殺されていたのです」

アリス「警察の捜査により、男性の死体にはためらい傷もなく、背中を刺されていたということで、他殺だと断定されました」

アリス「犯行は停電時だということは明白で、さらに、その男性が倒れていたところが壁際のカーテン裏でした」

アリス「死体の状況を見て、男性は刺される前にカーテンの裏に隠れるようにしていたということがわかりました」

アリス「もちろん、犯人はそのパーティーに参加していた人間ということになります。では、一体、誰がその男性を殺したのか?」

アリス「停電中に、さらに男性はカーテンの裏に隠れるような状態だったのです」

アリス「……ええ。警察も同じ結論に達しました。盲目の彼であれば、例え停電だったとしても、難なく行動ができます。証拠に、ブレーカーを戻しに動いたのも、その盲目の彼でしたから」

アリス「女性は必死に、彼が犯人ではないと言いますが、親しい人間の、感情に任せた証言では聞いてもらえませんでした」

アリス「さらには、その盲目の彼が犯人と示すような証拠も数点出て来たことにより、警察は盲目の彼を逮捕しました」

アリス「……ふふ。この後、どうなったか、気になりますか?」

アリス「数日後、彼の無実が証明され、釈放となりました」

アリス「無実を証明したのは、確か……ライリーという名の探偵だったと思います」

アリス「では、一体、誰が幼馴染の男性を殺したのか……」

アリス「それは……自殺でした」

アリス「男性はトリックを使って、部屋を停電にし、自分の背中にナイフが刺さるように仕掛けを施しました」

アリス「そう。それは男性による、盲目の彼への復讐というものでした」

アリス「暗闇を利用することで、盲目の彼に疑惑が向くようにしたのです」

アリス「盲目の彼であれば、暗闇の中でも自由に動けるはずという、思い込みを利用して……」

アリス「ちなみになのですが、私は例え、立場が逆であったとしても、幼馴染の女性は同じ方を選んだのではないかと思います」

アリス「妹も同じ意見でしたよ」

アリス「あくまで、目が見える、見えないは、その男性を傷つけないようにするための理由だったのではないかと思います」

アリス「まあ、あくまで、私達の勝手な思い込みなんですが……」

アリス「ふふ。思い込みは怖いという話をしたばかりだったのですがね……」

アリス「あなたも気を付けてください。思い込みは時に、思考さえも暗闇に引きずり込みます」

アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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