【声劇台本】欠けたピース

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■概要
人数:5人以上
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
真一(しんいち)
寛子(ひろこ)
その他

■台本

真一(N)「昔から俺はなにかと器用にこなせる。大体のことは人よりもうまくできた」

教師1「凄いな、真一は。本当に初めてなのか? 才能あるよ。どうだ? 本気でやってみないか?」

真一(N)「もちろん、天才というわけじゃない。ある程度練習していくと、他の人に抜かれていく。ある程度はうまくやれるけど、それ以上は成長が遅い。いわゆる、器用貧乏というものだ」

教師2「真一くん。この前の全国模試だけど、夏からの伸びはすごかったわ。どう? 今からなら、2ランク上の大学だって……」

真一(N)「勉強でも、どちらかというと上の方だ。だけど、別に勉強が好きというわけじゃない。だから、どこか、集中できないところがある。結局はトップは狙えないことはわかっている」

男子生徒「真一は勿体ないよなー。なんか、本気になれるものを見つれればいいのに」

真一(N)「だけど、俺は今のままで満足だった。何事もそこそこはできる。それ以上は特に望まない。それでいいと思っていた。でもそれでも、ずっと、欠けている感覚がある。心のピースが一つだけはまっていないような、そんな感じだ」

教師3「お前は一体、何がやりたいんだ? 色々とふらふらしてるみたいだけど。腰を据えて、何か、一本に絞って頑張ってみたらどうだ?」

真一(N)「今までは、ずっと、欠けたピースを埋めるために色々ともがいてきた。いろんなことを手あたり次第やってみたけど、夢中になれることはなかった。自分の中で焦るばかりだった。そんなとき、寛子に出会った……」

場面転換。

寛子「なんでもかんでも、完成してたら面白くないよ。未完成っていうのもいいとおもうなぁ」

真一「……はは。そんなこと言われたのは初めてだ。寛子は変わった考えをするな」

寛子「うーん。それって、変人ってこと?」

真一「あー、うん。そうかも」

寛子「ひっどーい」

真一「あはははは」

寛子「あはははは」

場面転換。

真一(N)「寛子との付き合いは、本当にごく普通だったと思う。学校に一緒に行って、昼も一緒に食べて、一緒に寄り道して帰る。そんな普通な恋だ。でも、それで俺は満足だった」

寛子「どう? 真一君。完成させなくたって、人生って面白いと思わない?」

真一「あー。すっかり忘れてたな、そんなこと。けど、そうだな。寛子と一緒なら、未完成のままでもいいかもな」

寛子「ふふ。なにそれ? もしかして、プロボーズ?」

真一「まあ……そう思ってもらってもいいけど」

寛子「あははは。いいよ。考えておいてあげる」

真一「なんだよ。そこは受けるところだろ」

寛子「まあまあ。人生長いんだしさ。もしかしたら、真一君の空いたピースにハマる人が出てくるかもしれないし」

真一「どうだろうな……」

寛子「もし、そんな人が現れたら、私のことは気にせずに、その人と一緒になってね」

真一「……考えておくよ」

寛子「ええー。そこはそんなことしないって、拒否するところでしょ」

真一「さっきのお返しだ」

寛子「あはははは。やられた。でも、ホントに私のことは気にしなくていいからね」

真一(N)「今から考えれば、寛子はどこか、予感がしていたのかもしれない。自分に対して、何か起こるのではないかと……」

キキ―と車の急ブレーキ音。

そして、ドンという音。

真一(N)「即死だった。酔っ払いの車に轢かれて、寛子はあっさりとこの世を去った」

場面転換。

道を歩く真一。

真一「寛子……」

真一(N)「ぽっかりと穴が開いた感覚。この感覚はどこか、覚えがある。……そうだ。寛子と出会う前。心の欠けたピースを探していたときの、あの感覚だ。……そう。つまり、俺は完成していたんだ。寛子こそが、心の欠けたピースだった。だから、寛子と一緒にいるときは、あの感覚がなかったんだ」

回想。

寛子「真一君の空いたピースにハマる人が出てくるかもしれないし」

寛子「もし、そんな人が現れたら、私のことは気にせずに、その人と一緒になってね」

回想終わり。

真一「寛子……お前だったよ。俺の欠けたピースは」

場面転換。

母親「ねえ、真一。あんたもいい年なんだから、結婚とかは考えないの?」

真一「何度も言ってるだろ、母さん。孫の顔を見るのは諦めてくれって」

母親「……はあ。まあ、あんたの人生だから、いいけど……」

真一(N)「心の中でどこか欠けている感覚は今でもある。すっぽりと抜け落ちたピース。でも、それを埋めようとは思わない。だって、未完成っていうのもいいものだ。だろ? 寛子」

終わり。

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