【声劇台本】解けない暗号
- 2021.11.26
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
田代 清志郎(たしろ きよしろう)
茂木(もぎ)
真壁(まかべ)
佐藤(さとう)
■台本
清志郎「田代清志郎です。よろしくお願いします」
真壁「我が、暗号解析サークルにようこそ。私がサークルを取り仕切ってる真壁だ」
佐藤「まあ、サークルっていう名の飲み会だけどね」
茂木「おい、佐藤。誘った初日からそんなことを言うなよ。誘った私の立つ瀬がないだろう。大丈夫だぞ、田代。ちゃんと暗号解読もやるからな」
清志郎「はい。ところで部長」
茂木「あー、ここは会社じゃないんだ。部長じゃなくて茂木で頼む」
清志郎「茂木さん……ですか。なんか言い辛いですね。ずっと部長と呼んできたので」
茂木「まあ、そのうち慣れるさ」
清志郎「それで、会費の件ですけど……」
茂木「ああ。今日は初日だから別にいい。次から払ってくれ」
佐藤「まあ、会費っていうか酒代だけどな」
茂木「さーとーう!」
真壁「いつもは乾杯から始めるんだが、今日は田代くんもいることだし、暗号解析からやろうか」
佐藤「そうだな。いつもは暗号解析に入る前に泥酔しちまうからな」
清志郎「……部長」
茂木「あー、大丈夫大丈夫。うちも暗号解析のサークルを名乗ってるんだ。ちゃんと暗号関連の資料とかあるぞ」
真壁「ここの戸棚に入ってる本は自由に読んでくれて構わない。ただ、借りていく場合は一言言ってくれ」
清志郎「はい。……うわー。本当にたくさんありますね」
茂木「高校のときから集めてるからなぁ」
佐藤「けど、最近はなかなか新しいのが手に入んなくなってなー」
真壁「こういうのは、ブームがこないとなかなかな。精々、クロスワードとかが関の山だろ」
清志郎「すいません。ちょっと、ここの机借ります」
カリカリとノートに文字を書き始める清志郎。
真壁「おお……。暗号好きなのは確かみたいだな」
茂木「昔の俺らみたいだな。ああやって、一日中、暗号とにらめっこしたもんだ」
佐藤「あの頃は楽しかったよなー。好きなだけ暗号を解いていられた」
茂木「今はちょうどいいのがなくなったからな。答えがあるような暗号なら、すぐに解けちまうし」
真壁「残ってるものといえば、有名な、何十年も解けてない暗号くらいだもんな」
佐藤「さすがになー。ああいうのは、専門家でも無理なんだから、俺らじゃ無理だろ」
茂木「だな……」
清志郎「あの、部長。これの答えってどこにのってるんですか?」
茂木「ん? もう解いたのか?」
清志郎「はい。答え合わせしたくて」
茂木「どれどれ……」
佐藤「おー。これって、かなり難しいやつじゃね? こんな短期間で解いたのか? すげーな」
真壁「どうなんだ、茂木」
茂木「うん。正解だな」
清志郎「よし!」
佐藤「やるねえ、田代くん」
真壁「けど、逆に困ったなぁ。これをあっさり解いたとなると、うちにある暗号は大体、すぐ解けそうだな」
佐藤「ならさ、あれ……解かせてみたら?」
茂木「あれって……あれか?」
真壁「んー。あれか。どうだろうな」
清志郎「あの、あれっていうのは?」
茂木「ああ。実はうちらでも長年解けない暗号があってな」
佐藤「ま、言ってしまえば、その暗号を解くために作ったサークルだからな」
清志郎「そんなに難しいんですか?」
茂木「まあ、難しいといえば難しいんだがな……」
清志郎「……?」
真壁「いうなれば、複雑、だな。裏を読めってやつだ」
清志郎「裏を……」
佐藤「どうする? 解かせてみるか?」
茂木「いや……どうだろうな……」
真壁「……いいタイミングかもしれんな。うちらも、こんなむさ苦しいおっさん3人でサークルとかやってる場合じゃないっていう神の啓示かもしれん」
佐藤「大げさだな」
清志郎「あの……ぜひ、解いてみたいです」
茂木「ん。わかった」
茂木が戸棚から本を出す。
茂木「これだ」
清志郎「さっそく解いてみますね」
場面転換。
カリカリとノートに文字を書く清志郎。
清志郎「……うーん。確かに部長たちが解けないっていうのもわかるな。全然、とっかかりも見えないや」
茂木「おーい、田代。休憩して、こっちで飲まないか?」
清志郎「ありがとうございます。でも、もう少しやらせてください」
佐藤「おーおー。すごい集中力だな」
真壁「田代くん。もし、何かヒントが欲しかったら、最後のページを見てごらん。俺たちの所感が書いてある」
清志郎「あ、はい」
ペラペラとページをめくる。
清志郎「……なるほど。ただ、どれも正解には遠いな……。これだと参考には……え?」
ペラペラと勢いよくページをめくる清志郎。
清志郎「ちょっと待って。最後のページの所感を消していくと……。あ、もしかして」
ガリガリと文字を書いていく清志郎。
清志郎「……あ!」
茂木「どうした?」
清志郎「あ、いや、なんでもないです」
清志郎(N)「ヤバい。解けちゃったぞ。けど、どうする? 部長たちが長年取り組んできた暗号を、新参者の俺があっさりと解いちゃっていいものなんだろうか……?」
佐藤「あんまり根詰めるなよ」
清志郎(N)「でも、どうだろう? 部長たちは、もう解くことを諦めているような印象も受けるんだよな。確かにこれはひらめきが必須だ。このひらめきがないかぎり、何年たっても解けないだろう。なら、ここで俺が解いたと言った方がいいのかもしれない」
清志郎「あの、部長……」
茂木「ん? どうした?」
清志郎「あ……いえ、その……」
清志郎(N)「あれ? ちょっと待てよ。部長の暗号を解く力はかなり上だと思う。おそらく、佐藤さんや真壁さんも同じくらいのはずだ。……果たして、その3人が集まっているのに、本当に解けなかったのか?」
茂木「……田代?」
清志郎(N)「もし、諦めて解くのを止めたのではなく、解いたからこそ、解くのをやめたのだとしたら……?」
回想。
真壁「いうなれば、複雑、だな。裏を読めってやつだ」
佐藤「まあ、サークルっていう名の飲み会だけどね」
回想終わり。
清志郎(N)「あ、そうか! そういうことか!」
茂木「大丈夫か、田代」
清志郎「はい。大丈夫です。ただ、この暗号難しくて、全然解けませんでした」
茂木「……そう、か」
清志郎(N)「部長たちは既にこの暗号を解いている。だけど、解けていないフリをすることで、こうやってみんなで集まって飲む理由にしてるんだ」
清志郎「あの、部長。僕もそっちで飲んでいいですか?」
茂木「ああ。もちろんだ」
清志郎「ありがとうございます」
真壁「茂木……。いいやつ連れて来たな」
茂木「だろう?」
清志郎「それじゃ、いただきます」
お酒を飲む清志郎。
終わり。
-
前の記事
【声劇台本】言い訳 2021.11.25
-
次の記事
【声劇台本】遅れて来た英雄 2021.11.27