【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 思いやりと同情

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「……いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ……」

亜梨珠「……え? 今日は元気がない? そうかしら? 私自身は普通だと思うのだけれど」

亜梨珠「……え? 目の下にクマがでてきてる? それは……光の加減でそう見えるだけだと思うわよ」

亜梨珠「……はあ。わかったわ。正直に言うから、心配そうな目で見るのを止めてもらえるかしら」

亜梨珠「白状すると……。今、ハマっているゲームがあって、ちょっと……寝不足なのよ」

亜梨珠「ほら、やっぱり、そんな目をするのよね。はあー。お兄様も同じ目で見て来たわ。だから言いたくなかったのだけれど」

亜梨珠「いえ、別にあなたが謝ることはないわ。あなたは純粋に私を心配してくれただけでしょう?」

亜梨珠「それ自体はいいことだとはおもうのだけれど……」

亜梨珠「……いえ、違うわね」

亜梨珠「いいこと、なんていうのは一概には言えないわね」

亜梨珠「心配することがいいことか悪いことかなんていうのは、実に曖昧なものなのよ」

亜梨珠「今回の例で言うと、あなたは私の健康状態を心配したのよね?」

亜梨珠「それで、あなたは、私のゲームが原因だと知って、呆れた……」

亜梨珠「あなたは、ゲームを止めて体を休めることが正しいと思ったのよね?」

亜梨珠「確かにあなたから見た場合は、それは正しいと思うわ」

亜梨珠「けれど、私から見た場合は違うわ」

亜梨珠「私はゲームが面白いからやっているの。睡眠時間を削ってでもやりたいと思ったから、多少の寝不足よりも、楽しい時間の方が大切だったから、やったのよ」

亜梨珠「つまり、私は睡眠時間よりも楽しいと思える時間の方を優先したというわけよ。」

亜梨珠「確かに睡眠時間は大切だし、健康であることがよいことだというのに異論はないわ。でも、それを踏まえた上で、私は楽しい時間の方を取っただけ。……どう? これでも間違いだと言えるかしら?」

亜梨珠「これはギャングに暴力は悪いことだから止めた方がいい、というのと同じだわ」

亜梨珠「本人だって、多少は罪悪感を感じているかもしれない。でも、その罪悪感よりも大事な物の為に、ギャングをやっているだけ……」

亜梨珠「つまり、いいことかわるいことなんていうのは、曖昧で不確かなものなのよ」

亜梨珠「これはある、お客様の視点での話なのだけど……」

亜梨珠「その男は三日ほど何も食べてなくて、限界が近い状態だったの。路上の端で蹲っていた男に、通りかかった人が心配して、お金を恵んだの。これで何か買って食べるように、ってね」

亜梨珠「これはいいことだと思うかしら?」

亜梨珠「ええ。そうね。私も、どちらかというと、正しいことだと思うわ」

亜梨珠「けれど、その男は激高して、お金を恵んでくれた人を殴りつけたの」

亜梨珠「なぜかって?」

亜梨珠「その男はずっと一人で生きてきたの。一時期は成功をおさめて、裕福だったときもあったわ。その男は決して他人を頼らず、自分自身の力で生きて来たの。それがその男のプライドだったのよ」

亜梨珠「男は落ちぶれ、路上生活になった現状でも、誰にも頼らずに一人で生きていくというプライドだけは捨てなかったわ。他人に頼るくらいなら死んだ方がマシというほどだったの」

亜梨珠「そんなとき、お金を施されたのよ。今まで、何十年も、ずっと自分だけの力で生きて来たのに、ほんの少しの哀れみで出して来たお金を見て、つい、カッとなってしまったみたい」

亜梨珠「……どう? この話を聞いて、お金を恵んであげるのが、絶対に正しいと言えるのかしら?」

亜梨珠「……もう一つ、こんな話があるわ」

亜梨珠「ある少年が道の真ん中で、ボーっと立っていたの。そんなとき、不良が通りかかって、邪魔な少年を後ろから蹴ったのよ」

亜梨珠「蹴られた少年は倒れて、地面に頭をぶつけたの。少年は痛くて、地面を転げまわったわ」

亜梨珠「どうかしら? その蹴った不良のしたことはいいことだと思うかしら?」

亜梨珠「ええ。もちろん、私もいいことだとは思わないわ。でも……その少年は立ち上がった後、その不良にお礼を言ったの。本当にありがとうって」

亜梨珠「その少年は、裕福な家に生まれ、何不自由なく過ごしていたわ。両親も一人息子を溺愛し、なんでも我儘を聞いていたみたいなの」

亜梨珠「そんな少年が学校でも我儘だったことは言うまでもないわね」

亜梨珠「少年の我儘は両親がお金を使って、押し通していたの。だから、少年の我儘に文句を言う人もいなかったわ」

亜梨珠「だから、周りは自然と少年から離れていったの。でも、少年にはなぜなのかがずっとわからなかったみたいね」

亜梨珠「そんなとき、後ろから蹴られたの。邪魔だと言われて」

亜梨珠「少年はそのとき、痛みと、嫌な思いというのを始めて知ったの」

亜梨珠「今まで生きて来た中で、蹴られるなんてことはなかったから……」

亜梨珠「そして、蹴られて地面に頭をぶつけて初めて、体と心の痛みを知ることができたわ」

亜梨珠「少年はこの思いを知ることで、どうして周りから人がいなくなったのかが、わかったみたい」

亜梨珠「自分が今までやってきたことは、相手に対して心と体に痛みを与えていたのだと気づくことができたの」

亜梨珠「この経験は、少年からしたらかけがえのない大切なものだったわ」

亜梨珠「どうかしら? これでも、不良がやった行為は絶対に悪いこと、と言えるのかしら?」

亜梨珠「つまり、何が言いたいかというと、いいとか悪いとかは、決められないってことよ」

亜梨珠「例え、本人が善意や悪意を持っていたとしても」

亜梨珠「きっと、相手がどう思うか、というのが重要なのかもしれないわね」

亜梨珠「あなたも気を付けた方がいいわ」

亜梨珠「でも、まあ、私のことを心配してくれたことは、嬉しかったわ」

亜梨珠「これでお話は終わりよ。よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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