【声劇台本】真逆の二人

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
翠(すい)
魁聖(かいせい)
花音(かのん)
その他

■台本

翠「……」

花音「翠―。テストどうだった? ……って、うわ……」

翠「ちょっと、勝手に見ないでよ! それにガチ引きしないで!」

花音「なんていうかその……。生きてればいいことあるよ」

翠「変な慰め方しないで!」

翠(N)「私は昔から勉強も運動も、なんなら、掃除も洗濯も、料理もダメだ。お母さんが、お願いだから手伝おうとしないで、と言うレベル。友達からは手伝わなくていいから楽でいいじゃん、と言われるが、これはこれで凹むのだ。そして、私は考える。私の得意なものはなんなのか、と。うーん……。こんな私でも受け入れて生きてるってところかな。正直、自分でも、自分に入れられるフォローはこれくらい。こんな私だから、この先もずっと、あの人とは関わらない人生を送るのだと思っていた。私と真逆のあの人とは……」

場面転換。

花音「ねえ、聞いた? 魁聖くん、テスト学年一位だって」

翠「何をいまさら……。いつものことでしょ」

花音「それがね、今回は五科目とも、全部一位だって。完全勝利ってやつ」

翠「はあ……。なんか、同じクラスの人間なのに同じ人間って感じがしないね」

花音「翠は特にね」

翠「うっさいから!」

場面転換。

体育のバスケの授業。

黄色い歓声が沸き上がる。

女子1「魁聖くん! 格好いい!」

女子2「いけー!」

魁聖がシュートを決める。

一気に歓声が沸く。

男子1「ったく、なんで部活もやってねえやつが、バスケ部より上手いんだよ」

花音「文武両道ってやつだねー」

翠「まあ、私もだけどね」

花音「……ああ、ダメな方でか。なるほど」

翠「納得するんじゃなくて、突っ込んでほしかったんだけど……」

翠(N)「御剣魁聖くん。この学校どころか、この地域で知らない人はいないというくらいの、完璧人間。勉強も運動も、何をやらせても常に上位をキープする。ああいう人は、きっと私みたいな人間の気持ちはわからないんだろうなぁ」

場面転換。

チャイムの音。

花音「ホントに帰らないの?」

翠「うん。今回はマジでヤバいから、残って勉強してく」

花音「そ、頑張って……」

場面転換。

翠「(寝息)……」

魁聖「おい、風邪ひくぞ」

翠「ほえ? ……あ、魁聖くん」

魁聖「こんな時間まで残って何やってんだ?」

翠「勉強……。この前のテストがヤバかったから」

魁聖「家でやれよ」

翠「学校の方が集中できるから」

魁聖「寝てたじゃん」

翠「……睡眠学習?」

魁聖「それこそ家の方が集中できるだろ」

翠「むっ! 話してる時間なんてないんだった。勉強勉強」

魁聖「ったく」

魁聖が椅子に座り、教科書を手に取る。

魁聖「テスト範囲は? どこからだ?」

翠「え?」

魁聖「暇だから教えてやるよ」

翠「……30ページから」

魁聖「よし、じゃあ、説明するぞ」

場面転換。

魁聖「ってわけだ。わかったか?」

翠「うん。難しいってことがわかった」

魁聖「……わかった。もう少し、学力レベルを落として教えてやる。九九は覚えてるか?」

翠「そこまで下げんの!?」

場面転換。

魁聖「……ってなる。どうだ? わかったか?」

翠「……スゴイ! この私に物を教えられるなんて、魁聖くんは先生のプロなの?」

魁聖「学生だけどな」

翠「ありがとう! これで赤点は免れそうだよ」

魁聖「それでも、赤点ギリギリなのかよ」

翠「あっ! もうこんな時間! 帰らなきゃ! ホント、ありがとね。今度お礼する! バイバイ!」

魁聖「お、おう……」

翠が走り去っていく。

場面転換。

魁聖「……なんだ、こりゃ?」

翠「えっと、この前のお礼?」

魁聖「いや、この物体がなんなのかを聞いてんだよ」

翠「お弁当」

魁聖「ちょっと待て。俺、お前に勉強を教えたんだよな? それで、お前は俺に感謝してたんだろ?」

翠「うん、そうだね。だから、そのお礼」

魁聖「いやいやいや……。これ、お礼じゃなくて、仕返しって感じだろ。なんで拷問受けなきゃなんねーんだよ」

翠「でも、ほら。料理は見た目だけじゃないでしょ? 意外と食べたら美味しいって。ゲテモノ料理とかいうじゃない」

魁聖「……」

パクっと食べる。

魁聖「おえっ! しっかりマジいよ!」

翠「やっぱりか……」

魁聖「なに? お前、俺に恨みでもあんの?」

場面転換。

翠「えーっと、なんですかね、コレ」

魁聖「俺が料理を教えてやる」

翠「いや、無理だって。今日の弁当、食べて、まだそんなこ言えるの?」

魁聖「大丈夫だ。頑張れば、ゆで卵くらい、作れるようになる」

翠「志、低くね?」

魁聖「冗談はさておき、今日はオムレツだ。ビシビシいくから覚悟しろ」

翠「ええ……」

場面転換。

魁聖「違う!」

場面転換。

魁聖「いや、違うだろ。こうだって」

場面転換。

魁聖「いや、今の逆にどうやった?」

場面転換。

翠「で、できた……本当に」

魁聖「俺、オムレツで感動したの始めてだ」

翠(N)「思えば、この頃からだろうか。魁聖くんがやたらと、私に構ってくるようになったのは」

場面転換。

魁聖「おい、翠!」

場面転換。

魁聖「翠、ちょっとこい!」

場面転換。

魁聖「翠。遅ぇぞ。いつまで待たせんだ」

翠「ねえ、魁聖くん。なんで、私にそんなに構うの?」

魁聖「あん?」

翠「私、頭も悪いし、運動もダメだし、何やってもダメでしょ? 魁聖くんとは真逆だよ」

魁聖「ああ、そうだな」

翠「いや、少しはフォローして欲しかったんだけど……。まあ、いいや。そんな私と一緒にいて楽しい?」

魁聖「……」

翠「私なんかより、いい子はいっぱいいるよ。私は魁聖くんの隣には相応しくない」

魁聖「……相応しくない、か」

翠「……」

魁聖「俺がお前と一緒にいるのは……真逆だからだ」

翠「え?」

魁聖「同じような奴と一緒にいても面白くねーだろ。何考えてるかわからないような、そんな真逆な奴の方が、一緒にいて楽しい。それだけだ」

翠「いいの? こんな私なのに、一緒にいてくれるの?」

魁聖「そんなお前だから、だ」

翠「……」

翠(N)「前までは、私は私の得意なところはすぐに答えられなかったけど、今ならはっきり、こういえる。私の得意で好きなところは勉強も運動も、掃除も洗濯も、料理もダメダメなところだ」

終わり。

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