【声劇台本】不思議な館のアリス 真実

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……え? 妹の方に話を聞きたかった、ですか?」

アリス「そうですか。それは少し、妬(や)けてしまいますね」

アリス「ですが、申し訳ありません。妹は、本日は話ができる状態ではありませんので、私で我慢していただけないでしょうか?」

アリス「……ああ、いえいえ。大したことではありません。誤解を招く言い方をしてしまいましたね」

アリス「いえ。本当に他愛もないことですので、お気になさらず」

アリス「……そうですよね。こんなことを言われると、逆にきになってしまいますよね」

アリス「わかりました。理由をお話しましょう。ですが、妹には理由を聞いたことを黙っておいてください」

アリス「実は妹は今、寝込んでいましてね」

アリス「風邪ではありません。精神的なものからです」

アリス「……それで、その理由なのですが……」

アリス「先日、ある男性アイドルが逮捕された事件は知っていますか?」

アリス「……ええ。その通りです。妹はそのアイドルのファンだったんです」

アリス「……意外でしたか? 妹も結構、俗っぽい、ミーハーというやつなんです」

アリス「妹は、そのアイドルがあんなことをするなんて思わなかったと、ショックを受けたようでして……」

アリス「まあ、厳しいことを言いますが、私からしたら、テレビなんていう一部の側面しか見せていない人間に対して、人物像を決めつけること自体、おかしい話なのですが」

アリス「もちろん、私だって、あなたに見せていない一面は存在しますよ」

アリス「ふふ……。見たい、ですか?」

アリス「まあ、やめておきましょう。あなたが見る、私の人物像が、あなたにとっての私、ということでいいじゃないですか」

アリス「私の違う側面を見て、幻滅するよりはよっぽどマシです。妹が、今、ショックを受けているようなことになりかねませんよ?」

アリス「そう考えると、アイドルというのは、見て欲しい一面を作り出し、ファンに夢を持たせるという職業なのでしょうね。……であれば、妹が、そう思い込んでいたということも仕方がない……と、いうことにしておきましょうか」

アリス「目に見えることだけが、この世の真実ではありません。ですが、あなたの見えることがあなたの中での真実になることはあります」

アリス「私はそれで幸せなら、いいと思います」

アリス「……それでは、本日はこんなお話をいたしましょう」

アリス「それはある、男のお話です」

アリス「男は独り身で、親に亡くなり、兄弟もいないという、天涯孤独な状態でした」

アリス「そんな中、捨て子を拾い育てることにしました」

アリス「最初は気まぐれ、もしくは寂しさを紛らわすためだったのかもしれません」

アリス「ですが、その子供は、男にとってかけがえのない存在になったのです」

アリス「子供が10歳になったとき、不景気の波に飲まれ、男は職を失いました」

アリス「それでも男は子供を手放すようなことはしませんでした」

アリス「では、どうやって生活をしていのたのか……」

アリス「それは犯罪に手を染めることでした。お金を得るために、男は様々な犯罪に手を染めます。もちろん、子供にはそのことは話しませんでした」

アリス「そして、男は言います。どんなに貧しくても、人の道を外れてはいけない、と」

アリス「男にとっては、子供に自分と同じ道に落ちて欲しくないという思いで言った言葉だったのでしょう」

アリス「ですが、子供は男が清廉潔白な人間として見えていたのでしょう」

アリス「子供は男を尊敬していました。理想の父親だとさえ思っていたそうです」

アリス「そんなある日、男が人に襲われて怪我を負います」

アリス「それでなくても貧しかったのに、男が働けなくなると、二人は生活できなくなります」

アリス「そこで子供は働くことにしました。ですが、不況時に子供が働けるような場所はありませんでした」

アリス「それでもお金を得なければなりません」

アリス「……それで、その子供はどうしたと思いますか?」

アリス「……盗みという方法でお金を得る方法を選びました」

アリス「男の、どんなに貧しくても人の道を外れてはいけないという言葉よりも、男そのものを助けるためなら、人の道を踏み外す方がいいと考えたのでしょう」

アリス「子供はもちろん、男には盗みのことは黙っていました。給料は安いが、ちゃんとした仕事をしていると嘘をついたのです」

アリス「ですが、男は疑いもしませんでした。男の目には子供は純粋で、真っ直ぐ育ってくれたと信じていました」

アリス「男の怪我が治り、男がまた犯罪に手を染め始めてからも、子供は家計の助けになると、盗みをやめることはありませんでした」

アリス「そんな中、子供は事故に遭い、亡くなってしまいます」

アリス「男は悲しみました。絶望に暮れました。生きる気力さえも失ったほどだったそうです」

アリス「ですが、心のどこかでホッとしたそうです」

アリス「子供に、自分が犯罪を犯していたことがバレずに済んだ、と」

アリス「子供には、自分が理想の父親であるままでいて欲しかったのでしょう」

アリス「子供の方も、男の裏の顔に気づくことなく、最後まで男は理想の父親でした」

アリス「そして、子供の方も、男にとっては純粋で真っ直ぐな子に育ったと思い込まれたまま亡くなりました」

アリス「お互いが、お互いを最後まで理想の親子だと思っていたのです」

アリス「もちろん、二人がしたことは絶対に許されることではありません」

アリス「ですが、二人の中ではお互いが清廉潔白だったのです」

アリス「どうでしょう?」

アリス「目に見えることだけが真実ではありません。ですが、真実を知ることが必ずしも幸せとも限りません」

アリス「目に見えていることが幸せであれば、それをあなたの中の真実としてもよいのではないでしょうか?」

アリス「目に見えない、真実の部分に目を向け過ぎても、辛くなるだけかもしれません」

アリス「これで、今回のお話は終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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