【声劇台本】例え俺を殺す人だとしても

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人以上
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、戦争、シリアス

■キャスト
モーガン
ホーク・リッパ―
リチャード
その他

■台本

モーガン(N)「そいつの名前は、末端の兵士の俺の耳にも届いていた。物凄い狙撃手がいる。そいつに撃たれた我が軍の兵士は100人以上とのことだ。ホーク・リッパ―。そいつの目に映った者は皆、死を免れることがないのだという……」

場面転換。

戦場の音。

激しい撃ち合いが続く。

リチャード「モーガン、突撃命令だ。3分後に特攻をかけるぞ」

モーガン「上は、俺達に死ねっていうのか?」

リチャード「さあな。まあ、まともな作戦がないことだけは確かだ。突撃させるしか思い浮かばないんだろな」

モーガン「お前は怖くないのか?」

リチャード「死ぬのがか? どうだろうな。死と隣り合わせの状況が長かったせいか、感覚がおかしくなっているのかもな」

モーガン「……」

リチャード「それに今まで多くの命を奪ってきたんだ。今更、自分の命だけ失いたくないとは言えないさ」

モーガン「……俺は、俺は……死にたくない」

リチャード「娘は何歳になったんだ?」

モーガン「5歳だ。もう3年以上、顔も見てない」

リチャード「……悪かったな。事情は人それぞれだ。お前が死にたくないと思っても、誰も攻めたりはしないさ」

モーガン「……」

リチャード「とはいえ、そろそろ時間だ。行くぞ」

モーガン「ああ……」

リチャード「みんな、行くぞ! ゴー!」

多くの兵士たちが戦場を走る。

兵士1「うっ!」

兵士2「がっ!」

ドンドンと兵士たちが撃たれて倒れていく。

モーガン「なんだ? どこから撃ってきてるんだ?」

リチャード「あいつだ。ホーク・リッパ―だ」

モーガン「どうする? 一旦、隠れるか?」

リチャード「いや、突っ込もう。もうすぐ基地に辿り着く」

兵士3「うわっ!」

次々と兵士たちが倒れていく。

リチャード「化物か。もう、俺達しか残ってないぞ。走れ!」

モーガン「うおおお!」

モーガン「うわっ!」

モーガンが転ぶ。

リチャード「モーガン!」

モーガン「俺に構うな! 行け!」

リチャード「つかまれ! 早く!」

モーガン「くっ!」

リチャードの腕を掴んで立ち上がるモーガン。

リチャード「よし、行く……うっ!」

ドンと胸を撃たれるリチャード。

モーガン「リチャード!」

リチャード「うう……」

モーガン「頑張れ! もうすぐ、敵の基地に着く。そこなら隠れられる」

リチャードを引きづって、基地に到着するモーガン。

モーガン「大丈夫か、リチャード」

リチャード「はあ、はあ、はあ……」

モーガン「しっかりしろ!」

リチャード「俺はもう駄目だ。モーガン。俺の代わりに頼む。この爆弾を使えば、基地を風穴を開けられる。そうすれば、味方がなだれ込んでくるはず……だ」

モーガン「……わかった。任せろ」

場面転換。

モーガン「よし! 設置できた。行くぞ」

ボタンを押す音と巨大な爆発音。

そして、破壊音が響く。

モーガン「うまく……いったみたいだな」

モーガンが敵の基地内を歩く。

モーガン「凄い威力だな。これでは、基地の機能も無効になった。敵も撤退を初めている……」

リッパ―「うっ……」

モーガン「敵か!」

銃を構えるモーガン。

リッパ―「くっ!」

リッパ―が銃のトリガーを引くが、壊れているせいか弾は出ない。

モーガン「女……か」

リッパ―「……」

モーガン「そのライフルは爆発の衝撃で壊れたみたいだな。諦めろ」

リッパ―「……くっ」

モーガン「……ライフル? お前、もしかして、ホーク・リッパ―か?」

リッパ―「……」

モーガン「お前には、仲間を多く殺されている。ここで撃たれても文句はないな?」

リッパ―「……早く撃て」

モーガン「……」

リッパ―「どうした? 早く撃て」

モーガン「俺には娘がいる」

リッパ―「……?」

モーガン「例え、敵だったとしても、お前を撃てば、娘に顔向けできない気がする」

リッパ―「呆れたな。敵兵に情けをかけるのか? それが、単に女ってだけで」

モーガン「……」

リッパ―「私は先ほども多くの兵を撃った。お前の知り合いも撃ったはずだ」

モーガン「……」

リッパ―「撃て。私は多くの人間の命を奪ってきた。今更、自分の命が惜しいとは思っていない」

モーガン「……リチャード」

リッパ―「私は単なる敵だ。それに、私は有名だ。そんな私を撃ったとなれば、お前には報酬が出るだろう。もしかすると、家に帰れるのではないのか? そしたら、娘にも会える」

モーガン「……」

リッパ―「お前に撃たないメリットは何もない」

モーガン「……立てるか?」

モーガンがリッパ―の腕をつかみ、起き上がらせる。

リッパ―「何を考えている?」

モーガン「もうすぐ、ここには仲間の隊が押し寄せてくる。早く逃げろ」

リッパ―「ここで私を逃がせば、お前の仲間をまた撃つことになるぞ」

モーガン「兵を抜けてくれというのは無理か?」

リッパ―「無理だな。嫌なら、撃て」

モーガン「……一つ、頼みがある」

リッパ―「……」

モーガン「次に戦場で俺を見たら、俺を最初に撃ってくれないか? 仲間の誰よりも先に俺を……」

リッパ―「なぜだ?」

モーガン「あんたを逃がすんだ。それくらいの罪滅ぼしをさせてくれ」

リッパ―「くだらんな」

モーガン「頼む……」

リッパ―「……次は私がお前を撃つ」

モーガン「ああ」

リッパ―「せいぜい、後悔しろ」

リッパ―が走って行く。

モーガン「……」

場面転換。

モーガン(N)「それから、一年ほど経った頃、戦争は終結する。あれから、彼女は戦場で多くの兵を撃った。俺と同じ隊の奴らも、彼女の手にかかって死んでいる。だが、俺は彼女に撃たれることはなかった……。そして、戦争終結から1週間後、彼女の方は戦死したという噂を耳にした。……俺は今でも考える。果たして、あのとき、俺がしたことに意味はあったのか? ……いや、単に仲間の犠牲者を増やしただけだったのではないだろうか。でも……それでも……」

場面転換。

ナタリー「パパー!」

モーガン「ナタリー!」

ナタリーを抱きしめるモーガン。

モーガン(N)「あのとき、彼女を撃っていれば、きっと、娘に顔向けできなかっただろう」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉