【フリー台本】不思議な館の亜梨珠 唄に込める想い

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」

亜梨珠「……あら、珍しいわね。その胸の花はどうしたのかしら?」

亜梨珠「ふうん。同僚からの贈り物、ね」

亜梨珠「……え? 反応が微妙だって?」

亜梨珠「ごめんなさい。ちょっと気になったことがあったのだけど……気にしないでちょうだい」

亜梨珠「……ふふ。逆に気になるかしら?」

亜梨珠「いえ、本当にそれは、あなたにとってよいことなのかなって気になっただけなの」

亜梨珠「ええ、そうよね。もちろん、その花は贈り物に使われるものだわ」

亜梨珠「……でも、表向きには贈り物のように見えて、実はその裏には違う想いが込められているということもあるのよ」

亜梨珠「……どういうときかって?」

亜梨珠「いいわ。じゃあ、今日は、想いについてのお話をしようかしら」

亜梨珠「……それは神に仕えると言われている、村の巫女のお話」

亜梨珠「その村は神に仕え、神の声を聴く巫女の力によって豊かになったの」

亜梨珠「周りの村も、巫女の声に耳を傾けることで、災いを回避してきたわ」

亜梨珠「だから、いくらその村が豊だといっても、侵略しようと考える人はいなかったの」

亜梨珠「でも、そんなある日、遠方からやってきたある王国の兵士たちが、その村を侵略したのよ」

亜梨珠「そもそも、戦うことを考えもしなかった村はあっさりと滅ぼされたそうよ」

亜梨珠「村の人間のほとんどの命を奪った兵士たちだったのだけれど、さすがに神に仕える巫女の命を奪うのは気がひけたようね」

亜梨珠「巫女の一族だけは生かしてもらえたの」

亜梨珠「でも、その代わりに、王国の祝い事の際には、王国までやってきて、祝うように言われたわ」

亜梨珠「逆らったら始末されると考えた巫女の一族は従うことにしたの」

亜梨珠「そして、約束通り、王国でめでたいことがあった際は、王国へと訪れ、生かしてくれたことの感謝と、王国の繁栄を願った唄を歌ったの」

亜梨珠「王は喜び、巫女が唄った後の数年は王国にとって良いことばかりが起こったわ」

亜梨珠「王は巫女の一族を重宝し、地位と財を与えたのよ」

亜梨珠「巫女たちは喜び、王への忠誠を誓ったわ」

亜梨珠「……でも、それは表向きだけだったの」

亜梨珠「巫女の唄は、王国への感謝と繁栄を願ったものだったのだけれど、ある法則にのっとって、唄の言葉を消していくと、怨嗟の言葉になっていたのよ」

亜梨珠「その唄の効果かはわからないけれど、王国は飢饉や災害に見舞われたわ」

亜梨珠「でも、巫女が唄った後の数年は良いことが起こっていたから、巫女の唄が怪しまれることはなかったの」

亜梨珠「巫女の唄は繁栄と衰退を願ったもの……。これはその王国が亡びるのではなく、長く長く苦しめるための唄だったってわけね」

亜梨珠「ふふ。ここまでくると、恐ろしいわね」

亜梨珠「人の怨念というものは、長い年月が経っても、決して消えることなく、継承されていくものなのかしらね」

亜梨珠「そして、その唄は、今でも王国で歌われているみたいよ」

亜梨珠「人の心には光と闇が混在するものよ」

亜梨珠「例え、表では祝ってくれていても、裏では呪いの言葉を掛けられているかもしれないわね」

亜梨珠「気を付けた方がいいわよ」

亜梨珠「……って、ごめんなさい。あなたが、あまりにも、その胸の花のことを喜んでいたから、つい、意地悪をしてしまいたくなったのよ」

亜梨珠「だから、あまり気にしないで頂戴ね」

亜梨珠「私は、あなたが祝ってもらったことに対して、おめでとうと、心から祝福しているのよ」

亜梨珠「だから、安心してね」

亜梨珠「……ああ、そうだ。最後に一つだけ。人の心には光と闇が混在すること、わすれないようにね」

亜梨珠「これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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