【フリー台本】不思議な館の亜梨珠 道

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「今日は予約していた時間より、随分と遅かったわね」

亜梨珠「え? たまに違う道を通ったら迷った? ふふふ。まあ、うちは入り込んだ場所にあるからね。それで、新しいルートは開拓できたかしら?」

亜梨珠「……ふふ。なんとか辿り着いたけれど、来た順序は覚えてない、というわけね」

亜梨珠「……次はちゃんといつもの道を使う? そうね。それなら迷うことはないと思うわ」

亜梨珠「確かに、道というものは便利よね。道は時として、人の道しるべになると言われているわ」

亜梨珠「逆に、その道から外れると、外道と言われることがあるのよ」

亜梨珠「でも……本当に、道に従うことだけが、いいことなのかしら?」

亜梨珠「……じゃあ、今日はある小さな村の、変わった男の子の話をするわ」

亜梨珠「その男の子は村では頑固だと有名だったみたいね」

亜梨珠「一度決めたことは、どんなことがあってもやり抜く性格だったみたい」

亜梨珠「その男の子は、ある日、変な形のドングリを拾ったの」

亜梨珠「男の子は、そのドングリに魅入られてしまい、ドングリ集めにハマったらしいの」

亜梨珠「その集めるドングリの量が10個や20個程度なら、なにも問題がなかったわ」

亜梨珠「でも、その男の子は、山中のドングリを取ってしまうほどの量だったわ」

亜梨珠「そして、ただ、集めるだけだけじゃなく、形や色の種類を分けて収集していたの」

亜梨珠「膨大な量のドングリで、家の中に置いておくことができなくなったくらい」

亜梨珠「それで、親はもちろん、友人や周りの人間は、男の子のドングリ集めを止めたわ」

亜梨珠「それでも男の子は集めるのを止めなかった……」

亜梨珠「やがて、もう、その男の子を止めることをしなくなったわ」

亜梨珠「そして、男の子を変人と言って、距離をとるようになったの」

亜梨珠「それから数十年、ずっと男の子はドングリを集め続けたわ」

亜梨珠「……周りも、その男の子……いえ、その男を忘れてしまった頃、男はあることに気づいたの」

亜梨珠「それはドングリとは似て非なるものだったことに」

亜梨珠「それはドングリとは比べものにならないほどの高たんぱくで、さらに水に溶かすことで、独特な風味を出すものだとわかったわ」

亜梨珠「男はそのドングリに似た木を育て、実を収穫するようになったの」

亜梨珠「そして……あるとき、その実を使って、お菓子を作ったわ」

亜梨珠「それを周りに配ったら、瞬く間に人気になったの」

亜梨珠「そして、そのお菓子は世界中に広がり、そのドングリに似た木は大人気になったわ」

亜梨珠「そのドングリに似た木は、その男しか育て方が分からなかったから、その男の元に、教えを乞うために多くの人が訪れたの」

亜梨珠「……どうかしら?」

亜梨珠「ドングリを集めるなんて、誰も感がなかった。つまり、誰もその道を通る人はいなかった……。いえ、そんな道は存在しなかったわ」

亜梨珠「でも、その男は、道を外れて、歩き出したわ。道なき道を」

亜梨珠「そして、その道なき道は多くの人が通り、やがて大きな道になったわ」

亜梨珠「誰もが知る、大きな道に」

亜梨珠「どうかしら?」

亜梨珠「道があるところを通るのは、安全で、確実だわ。それに、道がないところを進むのは……道を外れることは嫌われてしまう」

亜梨珠「でも、道のない道を進むことは、もしかしたら誰かの道になる可能性がある、ということよ」

亜梨珠「そう考えると、まんざら、道のない道を進む意味はあるのじゃないのかしら?」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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