【声劇台本】贖罪の切符

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ユアン
シルビア
天使
その他

■台本

汽笛の音。

子供「ユアン先生、ありがとうございました」

ユアン「薬は一か月間、飲み続けるんだぞ」

子供「はい! でも、先生。もう少し、この町でゆっくりして行けばいいのに」

ユアン「そうもいかん。次に行くところがあるからな」

子供「どこに行くの?」

ユアン「さあな」

子供「え?」

ユアン「この切符に聞いてくれ」

子供「先生、さよなら。天使の御加護がありますように」

ユアン「いいか、坊主。天使は加護なんかあたえないんだ」

場面転換。

男「うわああああー」

ユアン「うーん。やはり、この術式の組み合わせは無理があったか。じゃあ、次はこの組み合わせで……」

男「やめてくれ! もう! うがああああ! ……うう、あ」

ユアン「ん? ショックで死んだか」

コンコンとドアが開く。

兵士「ユアン大尉。次の実験体の準備ができました」

ユアン「ああ。ちょうど良かった。今、死んだばかりだ。さっそく入れ替えてくれ」

兵士「はっ!」

ユアン(N)「俺は軍医、と言ってもこの場合は研究者に近いことをしていた。研究の内容は医学と魔術の融合。十数年前に偶然見つけ出した魔術という技術。それを医学と融合させることで、使いやすい魔術を作り出す。技術は戦争時に発達するとはよく言ったものだが、人体実験に勝る研究方法はない」

天使「あなたは殺し過ぎました。悪魔以上に……」

ユアン「……はは。こいつは驚いたな。魔術、なんてものがあるから、悪魔もいるのかと思ったが、まさか、出て来たのは天使だとはな」

天使「私たちの奇跡の業を魔に陥れるなんて……。あなたには罪を償ってもらいます」

ユアン「……俺を殺すのか?」

天使「いえ、救ってもらいます」

ユアン「あん?」

天使「あなたには、これから旅に出て、行く先々で人々を救っていただきます」

ユアン「……何人救えばいいんだ?」

天使「あなたが……ユアン大尉という存在が死ぬまでです」

ユアン「……」

場面転換。

電車が揺れる音。

ユアン(N)「天使は俺に呪いをかけた。約束を破ったら、死ぬ呪い。そして、同時に、ある切符を寄越してきた。その切符は自動的に行き場所が浮き出て、その場所にいる人を救う。そして、次の場所が浮き出たら、その場所に向かう。それの繰り返しだ。俺はこんなバカげた旅をもう、10年ほど続けている……」

場面転換。

道を歩くユアン。

ユアン「随分、田舎の町だな。……こんなところにも、戦争の爪痕は残っているんだな」

ドンとぶつかる音。

ユアン「おっと」

シルビア「あ、すいません。……あれ? 見かけない方ですね」

ユアン「旅の者だ。この町にある、宿泊施設を教えてくれないか?」

シルビア「宿泊施設……ですか?」

ユアン「ああ。しばらく滞在することになるから、できればゆっくりできるところがいい」

シルビア「……困りましたね。ここにはあまり、人が来ないのでそういう場所がなくて……」

ユアン「そうなのか? まいったな。じゃあ、廃屋みたいな、誰も使ってないような場所はないか?」

シルビア「廃屋ですか……? あ、それなら、うちにきたらどうですか?」

ユアン「うち?」

シルビア「はい。教会です。孤児や難民が一緒に生活しているんです。一人くらい増えても、問題ありませんから」

ユアン「いや、そういう騒がしいところは……」

シルビア「すぐそこなんですよ。着いて来てください」

ユアン「……強引な奴だな」

場面転換。

子供2「ユアンおじさん、お腹痛い……」

ユアン「……拾い食いでもしたんだろ。ほら、見せてみろ」

子供2「う、うん……」

ユアン「……案の定、軽い食当たりだ」

ガサガサと道具を漁る音。

ユアン「これでも飲んでおけ。あと、何でもかんでも、食えそうなものを食うな」

子供2「はーい、ごめんなさい」

ドアが開く音。

シルビア「どうだった?」

子供2「あ、シルビアお姉ちゃん。おじちゃんから、薬貰った」

シルビア「ユアンさん、ありがとうございました」

ユアン「いや、宿代を考えたら、このくらい大したものじゃないさ」

ユアン(N)「この町に来てから、もう3ヶ月が経っている。今のところ、特に大きな怪我や病気をしている人間は出ていない。切符にも、変化はない」

場面転換。

森の中を歩く、ユアンとシルビア。

ユアン「……山菜ね」

シルビア「教会への寄付金には限界があります。少しでも、自炊できるところは、していきませんと」

ユアン「……子供たちも連れてくればよかったんじゃないか?」

シルビア「いえ。この山には危険な……あっ!」

ユアン「え?」

シャーという蛇の鳴き声。

ユアン「なっ! 蛇?」

シルビア「危ない!」

ユアン「シルビア!」

場面転換。

シルビア「はあ……はあ……はあ……」

子供2「ねえ、おじちゃん。シルビア姉ちゃん、治る?」

ユアン「……無理だ」

子供2「え?」

ユアン「見たことのない毒だ。俺の知識ではどうにもならない」

子供2「そんな!」

シルビア「はあ……はあ……はあ……」

子供2「シルビア姉ちゃん、死んじゃうの?」

ユアン「……」

場面転換。

ユアン(N)「見たことのない毒。俺の知識の医学では解毒は無理だ。……となれば、魔術を使うしかない。頭の中では、既に解毒の術式は構築できている。だが、あくまで理論だ。実験を重ねなければならない。かといって、シルビアを実験体にするわけにはいかない。魔術の副作用や反動は、弱ったシルビアには耐えられない。じゃあ、どうするか……」

ユアン「自分で試すしかないな」

場面転換。

ユアン「ぐあああああああ!」

子供2「おじちゃん! どうしたの?」

ユアン「近づくな。あっち行ってろ!」

子供2「でも……」

ユアン「があああああああああ」

ユアン(N)「俺は死にたくなくて、旅をして、人を助けている。それが人を助けるために、自分が死にそうになっている。まったく、お笑い草だ」

ユアン「うああああああ!」

ユアン(N)「気が狂いそうになる中、いっそ、自決を考えるほどの苦痛の中、自分の体で実験を繰り返す。……そして、夜が明ける頃……」

ユアン「……できた。成功だ」

場面転換。

汽笛の音。

シルビア「本当にありがとうございました」

ユアン「気にするな。世話になった礼だ」

シルビア「あの……ユアンさんがよかったら、このままこの町に住みませんか?」

ユアン「前にも話したが、俺は軍の命令を盾に実験と称して、人殺しをしていた人間だ。教会に住むべき人間じゃない」

シルビア「今、私の目の前に立っているのは、ユアン大尉ではありません。ただの優しいユアンさんです」

ユアン「……ありがとう。でも、俺はいかないとならないんだ」

シルビア「そうですか……。次はどこへ?」

ユアン「それはこの切符に……え?」

ユアン(N)「切符が白くなっている。どういうことだ? こんなのは今までなかった」

シルビア「天使様はこう言ったんですよね? ユアン大尉という存在が死ぬまで、と」

ユアン「ああ」

シルビア「きっと、ユアン大尉はあの夜の魔術の実験で死んだんです」

ユアン「……そういうことにしておくか」

ユアン(N)「この切符がなくても、俺はこれからも人々を助けていく。この町で」

終わり。

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