【フリー台本】憧れの姿

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
武司(たけし)
将(まさる)

■台本

武司(N)「子供なら必ず一度は憧れるものができるはずだ。野球選手、医者、ユーチューバー、エトセトラ。俺の場合はサラリーマンだった。というより、スーツ姿に憧れた。白いワイシャツにネクタイ。ピシッとした格好で、颯爽と歩く姿はまさしく出来る人間そのものだ。だから、俺は一刻も早くワイシャツにネクタイをしたかった」

場面転換。

カリカリカリと勉強している音。

将「なあ、武司。勉強してないで、遊びに行こうぜ」

武司「邪魔するなよ。大体、お前は大丈夫なのかよ、勉強しなくて。受験日近いんだぞ」

将「へーきへーき。もう推薦貰ってるから」

武司「お前……自分が決まってるからって、俺の邪魔するとか、最低だな」

武司「いやいや。お前だって、余裕だろ。この前の模試でA判定だっただろ?」

武司「俺、志望校変えたんだよ」

将「マジで!? おまっ! 一緒の高校行くって約束、破るのかよ!」

武司「悪いな。もっといい高校を見つけたんだ」

将「どこ?」

武司「緑林(りょくりん)」

将「ええー。めっちゃ遠いじゃん。なんでわざわざあそこなんだ?」

武司「制服だ」

将「ああー。確かに、女子の制服可愛いもんな。って、お前、制服フェチかよ」

武司「ちがーう! 男子の制服!」

将「男子の制服だぁ? ……おま、まさか、目覚めちまったのか? あっち側に」

武司「アホ! あそこの制服ブレザーだろ」

将「それが?」

武司「ワイシャツにネクタイってことだ」

将「……それが?」

武司「はあ……。お前なぁ。格好いいと思わないか? ワイシャツにネクタイだぞ! 出来る男って感じだろー」

将「わからん」

武司「……とにかく、邪魔をするな。俺は徹夜続きで気が立ってるんだ」

将「んー。あんまり根詰めてやっても、逆効果だぞ」

武司「うるさいな。俺は合格して、絶対にワイシャツにネクタイをするんだ」

将「……変な奴」

場面転換。

学校内。

将「よお、武司。お前、部活決めた?」

武司「くそ……。どうして、どうして落ちたんだ」

将「はあ……。そりゃお前、一週間徹夜した状態でテスト受けても、実力出せるわけねーだろ」

武司「くそー。ワイシャツとネクタイがー」

将「まあまあ、切り替えていこうぜ。で、部活は何にする?」

武司「サラリーマン部とかねーかな」

将「ねーよ」

場面転換。

武司「ちくしょー! なんでだ! なんでなんだー!」

将「しょうがねーだろ。火事で大学の体育館が燃えたんだから」

武司「オンラインってなんだよ、オンラインって! そんなんで入学式の気分が出るわけねーだろ」

将「別にいいじゃねーか。どうせ入学式なんて言っても、お偉いさんのなげー話、聞くだけだし」

武司「いやいや。大学の入学式と言えばスーツだろ。入学式が潰れるってことは、スーツが着れないってことだぞ」

将「面倒くさい奴だな。じゃあ、着ればいいじゃん。パソコンの前で」

武司「お前なぁ。それじゃただのコスプレみたいなもんだろ。スーツを着て、ビシッと外を歩く。それで初めてスーツを着たってことになるんだよ」

将「じゃあ、外に出ればいいじゃん」

武司「いや、用もないのに、スーツで外に出るって、俺、痛い奴みたいだろ」

将「……十分、今も痛い奴だよ」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

将「よお。卒業証書、持ってきてやったぞ」

武司「うう……。すまん……」

将「で? インフルはどうなんだ?」

武司「もう熱は下がってるから、全然平気」

将「にしても、卒業式の3日前にインフルにかかるか、普通」

武司「くそ……。1週間家にいないといけなくなるなんて……。あーあ、こんなことなら、成人式はやっぱりスーツにするべきだった」

将「お前なぁ。しつこいぞ。みんなで着物って決めたじゃねーかよ」

武司「わ、わかってるって……」

将「それに、大体、スーツなんて就職したら、嫌でも毎日着るだろ」

武司「……」

将「あれ? そういえば、お前、就職、どこだっけ?」

武司「ベンチャー系で、私服で出勤」

将「……おお、そっか。けど、私服ってことは自由ってことだろ? ならスーツで出勤すれば?」

武司「あのなぁ。周りは私服だけなのに、新人の俺だけスーツってヤバいだろ」

将「……まーな」

武司「将! 頼む、就職先、変わってくれ!」

将「できるわけねーだろ。大体、お前、営業が嫌だからって、今の会社にしたんだろ」

武司「うっ! そ、そりゃそうだけどさ……」

将「大体さー、お前、スーツは出来る人間みたいで格好いいとかいうけど、実際に仕事できればそれでいいじゃん。十分、格好いいんじゃねーか?」

武司「お前は何もわかってない。例えば、サッカーの日本代表っているだろ? サッカー少年たちは、あのユニフォームに憧れるわけだ。もし、あれがTシャツ短パンだったら、どうだ? 憧れるか?」

将「……いや、それ、例になってなくないか?」

武司「とにかく、俺はあの、スーツ姿に憧れてるんだよ!」

将「……」

場面転換。

武司「それじゃ、今までお世話になりました」

ガチャリとドアを開けて、歩き出す武司。

ポケットからスマホを取り出して、電話を掛ける。

将「おう、どうした、武司」

武司「今日、最終出社日だったんだ」

将「ああー。そういえば、転職するって言ってたな。次ってどんな会社だったっけ?」

武司「結構、大きな会社。そこでシステムエンジニアをやるんだ」

将「ってことは……」

武司「ああ! ついに! ついに、俺は、スーツを着て、仕事することになるんだ!」

将「大丈夫か? 会社のユニフォームとかってオチじゃないか?」

武司「大丈夫だ。事前にリサーチ済み。みんなスーツ着て出社してる」

将「おお、よかったな。ついに念願が叶ったな。頑張れよ!」

武司「おう!」

場面転換。

ガチャリとドアが開く。

将「おーっす。転職祝いに来てやったぞー」

武司「……おう。いらっしゃい」

将「なんだよ、随分とテンション低いな。てか、もう、寝間着に着替えたのかよ。早いな」

武司「ん? ああ。いや、これはもう着替えたんじゃなくて、着替えてないの間違いだ」

将「……あれ? お前、今日、仕事は?」

武司「あったよ」

将「……仕事があったのに、寝間着から着替えてない……? はっ! まさか!」

武司「リモートワークだ」

将「そ、そうか。ご愁傷様」

武司「うおーーー! なんでだよーーー!」

終わり。

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