【フリー台本】みにくいアヒルの子?

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■概要
人数:5人以上
時間:5分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ

■キャスト
ジョー
母親
アヒル×2
おばあさん
ニワトリ
白鳥

■台本

ジョー(N)「俺の名前はジョー。世間ではアヒルということになっている。……なっている、なんて歯切れの悪い言い方をしているのには、もちろん理由がある。それは、俺はおそらく、アヒルではないからだ」

場面転換。

ジョー「ねえ、母さん。俺が生まれたときのことを、もう一回教えて」

母親「まあまあ。またその話? いいわよ。あなたは、他の兄弟よりも大きな卵だったの。そのせいか、なかなか卵が孵らなくてね。心配だったのよ」

ジョー「それでそれで?」

母親「それから数日経って、ようやく卵が孵ったわ。それで、あなたが生まれたの」

ジョー「でも、俺は他の兄弟とは違ったんだよね?」

母親「そうねぇ。あなたは他の兄弟よりも、羽が大きくて、綺麗だったわ」

ジョー「えへへへ。俺って、他の奴とは、生まれたときから違うってことだよね?」

母親「いい? よく聞いて。あなたが他の子と違っていても、あなたはお母さんの子供なんだからね。それを忘れないで」

ジョー「いいよ。お母さん。そういうのは。俺は他の奴らと違う。俺はこのことは受け入れている。違うなら、違う生き方をしないとね」

場面転換。

アヒル1「ねえ、ジョー。これからドジョウを獲りに行くんだけど一緒に行かない?」

ジョー「は? ドジョウ獲り? そんな貧乏くさいことできねーよ」

場面転換。

アヒル2「ねー、ジョー。一緒に遊ばない?」

ジョー「俺と遊びたい? ダメダメ。お前みたいな意識低い奴と遊ぶわけないだろ」

アヒル2「意識低いってなにー?」

ジョー「なんつーか、お前、アヒルって感じじゃん」

アヒル2「えー、だって、アヒルだもん」

ジョー「俺はアヒルの枠には収まらないんだよ。じゃあな」

場面転換。

ジョー「……周りの奴らは意識が低すぎる。あんなにみにくいなら、少しは美しくなる努力はしろよ。そうじゃないと、俺と一緒にいる資格ねーっての。……はあ。このままじゃ、俺は埋もれてしまう。やっぱり、俺には俺に相応しい世界に行くべきだ。……よし、旅に出よう」

場面転換。

ペタペタと歩く音。

ジョー「はあ……疲れた」

お婆さん「おやおや。こんなところに、大きな鳥が……。迷子かい? おばあちゃんと一緒に帰ろうっか?」

ジョー「うわ! ちょ、なんだよ! 離せー」

場面転換。

ニワトリのコッコッコという声。

ジョー「……」

お婆さん「おやおや。今日も、卵を産んでないわねぇ。どこか、悪いのかしら」

ジョー「いやいや。俺、ニワトリじゃねーし」

ニワトリ「よお、新入り。そんなに気を落とすなよ。いつか、卵だって産めるようになるさ」

ジョー「あのなぁ。俺はお前らとは違うんだよ。卵なんて産むわけねーだろ」

ニワトリ「イライラしないで、一緒にエサでも食べよ」

ジョー「けっ! 冗談じゃねー。こんなところにいたら、俺はダメになる。俺はもっと意識が高い奴らのところが相応しいんだ」

ペタペタと歩き出す。

ニワトリ「え? ちょっと、どこ行くの?」

ジョー「うっせー! 出ていくんだよ!」

ニワトリ「そっかー。気を付けてね」

ジョー「ふん」

場面転換。

ペタペタと歩く。

ジョー(N)「家を出てから、どのくらい経ったのだろうか。長い時間は俺の体を大きく、美しくした。すれ違う奴はみんな、俺の美しさに振り替える。ふふ。当然だ。そのくらい、俺は美しい。……そして、そんなときだった。俺はついに見つけた。究極に美しい存在を。湖を優雅に泳ぐ美しい姿。そこには、まさしく俺が目指した世界が広がっていた」

ジョー「あ、あの! ちょっといいですか?」

白鳥「あら、なにかしら?」

ジョー「あなたたちは何者なんですか?」

白鳥「何者? えーっと、私たちは白鳥よ」

ジョー「白鳥……」

ジョー(N)「そのとき、俺の体に電撃が走った。……ずっとおかしいと思っていた。俺ほどの美しいアヒルなんているわけがない。そう。そうなのだ。俺はアヒルではなく白鳥だったんだ」

ジョー「あの、俺も連れて行ってください」

白鳥「え?」

ジョー「俺の居場所をやっと見つけました。それは白鳥の世界です!」

白鳥「……いや、無理だと思うわよ」

ジョー「ど、どうしてですか?」

白鳥「だって、あなた、アヒルじゃない」

ジョー「え?」

ジョー(N)「どうやら、俺は普通にアヒルだったらしい……」

終わり。

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