【フリー台本】偽善の笑顔
- 2022.06.20
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間10分
■ジャンル
ボイスドラマ、20世紀、シリアス
■キャスト
デイモン
ソフィ―
カイル
子供×3
男×2
■台本
デイモン「カイル。お前には輝かしい未来が待っている。あっちでもしっかりやりなさい」
カイル「お義父さん、今まで育ててくれてありがとうございました」
デイモン「元気でな」
デイモン(N)「私の人生は偽善にまみれている。今まで、私は多くの戦争孤児を育て、そして、見送ってきた。この偽善にまみれた笑顔を浮かべて」
場面転換。
子供1「ねえ、おとうさん。カイルから、なにか来てない?」
デイモン「カイルから? どうしてだい?」
子供1「あのね、カイルね、新しいところに行っても、私とお話してくれるって言ってたから」
デイモン「お話……? ああ、手紙のことかな?」
子供1「そうそう! お手紙! お手紙来てない?」
デイモン「カイルは遠い場所に行ったからね。もしかしたら届くのに時間がかかるかもしれない」
子供1「そっかぁ……」
そのとき、遠くから子供の争う声がする。
子供2「うるさいなぁ。別にいいだろ」
ソフィ―「ダメよ! 家事は分担してやるって、ちゃんと決めたでしょ」
子供2「でも、めんどくさいし」
デイモン「ん? どうかしたのかい?」
子供2「あ、お義父さん! あのね、ソフィーが洗濯物を干すのを手伝えって言うんだ」
ソフィ―「あなたの物も入ってるのよ。手伝うのは当然じゃない!」
デイモン「まあまあ、ソフィー、落ち着いて。私が手伝うから」
ソフィ―「でも……」
デイモン「ここにいる子供たちは、ずっと辛い思いをしてきたんだ。ここにいる間は自由に楽しく過ごしてもらいたいんだよ」ソフィー「でも、お義父さん、いつも大変そうだし、お手伝いできるならやりたいの」
デイモン「ありがとう。ソフィー。君は優しい子だ。お義父さんは、ソフィーの笑顔が見れれば、何にも辛くないんだよ」
ソフィ―「えへへ。ソフィ―ね、お義父さんのこと、大好き! お義父さんが笑っているのを見ると、嬉しくなるんだ」
デイモン「……そうか」
場面転換。
子供1「お義父さん、なーに?」
デイモン「はい、これ。カイルからだ」
子供1「あー、お手紙だー!」
デイモン「読んでごらん」
子供1「うん!」
ガサガサと手紙を開ける音。
子供1「あれえ?」
デイモン「どうかしたのかい?」
子供1「カイルの字じゃないみたい」
デイモン「……ああ、それは、きっと、カイルは新しい家に行った後、字の練習をしたんだと思うよ」
子供1「そっかぁ! ねえ、お返事書いてもいいかな?」
デイモン「ああ、構わないよ」
場面転換。
コツコツコツという足音が近づいて来る。
立ち止まり、横に座る音。
男「今回は7歳、女、AB型だ」
デイモン「……っ! あの、今は、それに該当する子供がいなくて……」
男「あの孤児院。なんのために存在しているのか、わかっているのだろう? 顧客を失望させたらどうなるか……。わからないわけではあるまい」
デイモン「……」
男「迎えは1週間後だ」
男がコツコツと歩き去って行く。
デイモン「……うう。ソフィー……」
場面転換。
デイモン「みんなー。ご飯だぞー」
バタバタと子供たちが部屋に入って来る。
子供2「うわー、すげー! ご馳走だ!」
子供3「お肉だー!」
ソフィ―「ねえ、お義父さん。何かあったの? もしかして……」
デイモン「ああ。実は里親が決まった子がいる」
子供2「えー? 誰誰? いーなー!」
デイモン「ソフィーだ」
ソフィ―「え?」
子供2「やったじゃん、ソフィー」
ソフィ―「えっと、あの……お義父さん。私、ここにいちゃダメ?」
デイモン「いいかい、ソフィー。あっちに行けば、ここよりも、もっといい生活が待っているんだ。幸せになれるんだよ」
ソフィ―「……私は、お義父さんと一緒にいられるだけで、幸せだよ」
デイモン「……ソフィー」
子供2「何言ってんだよ、ソフィー。お前、いつも、お義父さんに迷惑かけたくないって言ってだろ! ここにいたら、お金がかかるんだぞ! 新しい家に行けば、お義父さんだって助かるんだ!」
ソフィ―「……お義父さん、そうなの?」
デイモン「……ふふ。そうだね。言ってくれるかい? ソフィー」
ソフィ―「うん、わかった……」
デイモン「ありがとう」
場面転換。
子供2「うわああ!」
子供2が転んで洗濯物を地面にぶちまける。
子供2「あー、やっちゃった」
デイモン「おや? 洗濯物? どうしたんだい?」
子供2「あー、いやー、その……。ソフィ―がいなくなった分、今度は俺が洗濯物くらいやらないとなって思ってさ」
デイモン「そうか。ありがとう」
子供2「えへへ」
デイモン「でも、無理はしなくていいんだぞ。ここでは、楽しいことを考えていればいいんだ」
子供2「大丈夫だよ。洗濯も結構、たのしいよ」
デイモン「そうか……」
そのとき、ざっと、男2が現れる。
男2「……ようやく、ようやく見つけたぞ!」
デイモン「……なんの御用でしょうか?」
男2「カイル! カイルはどこだ! 頼む、返してくれ!」
デイモン「……」
子供1「カイル? カイルは新しいお家に行ったよー」
男2「新しいお家?」
デイモン「家に入ってなさい」
子供1「はーい」
男2「ま、まさか、息子は……カイルはもう……」
デイモン「……」
男2「そんな……。俺にはもうカイルしか残されていなかったのに。ようやく、あの地獄から生きて戻ってきたのに……」
デイモン「お金なら工面できます。今後、あなたが不自由なく暮らせるくらいの」
男2「金なんていらない! カイルを返してくれ!」
デイモン「不可能です」
男2「ふざけるな! ふざけるなー!」
ドスっとデイモンがナイフで刺される音。
デイモン「が……はっ……」
デイモンが倒れる音。
子供1・子供2・子供3「お義父さん!」
大勢の子供たちが駆け寄って来る音。
子供1「お義父さん!」
子供2「死なないで!」
デイモン(N)「刺された胸が焼けるように熱い。痛い。苦しい。……あの子たちも、こんな苦痛を味わったのだろうか。……いや、そんなことは無いはずだ。一流の医者によって処置を施されていた。痛みはなかったはず。……そう。この痛みは、私の罪の痛みだ。誰かの命を助けるためという偽善で、子供たちの命を奪っていた私への罪の痛み。……ああ。だが、これでもう笑顔を浮かべなくて済む。ソフィ―が好きだと言っていた、あの偽善にまみれた笑顔を」
終わり。
-
前の記事
【フリー台本】理想と現実 2022.06.19
-
次の記事
【フリー台本】壁の向こう側 2022.06.21