【フリー台本】偽善の笑顔

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■概要
人数:5人以上
時間10分

■ジャンル
ボイスドラマ、20世紀、シリアス

■キャスト
デイモン
ソフィ―
カイル
子供×3
男×2

■台本

デイモン「カイル。お前には輝かしい未来が待っている。あっちでもしっかりやりなさい」

カイル「お義父さん、今まで育ててくれてありがとうございました」

デイモン「元気でな」

デイモン(N)「私の人生は偽善にまみれている。今まで、私は多くの戦争孤児を育て、そして、見送ってきた。この偽善にまみれた笑顔を浮かべて」

場面転換。

子供1「ねえ、おとうさん。カイルから、なにか来てない?」

デイモン「カイルから? どうしてだい?」

子供1「あのね、カイルね、新しいところに行っても、私とお話してくれるって言ってたから」

デイモン「お話……? ああ、手紙のことかな?」

子供1「そうそう! お手紙! お手紙来てない?」

デイモン「カイルは遠い場所に行ったからね。もしかしたら届くのに時間がかかるかもしれない」

子供1「そっかぁ……」

そのとき、遠くから子供の争う声がする。

子供2「うるさいなぁ。別にいいだろ」

ソフィ―「ダメよ! 家事は分担してやるって、ちゃんと決めたでしょ」

子供2「でも、めんどくさいし」

デイモン「ん? どうかしたのかい?」

子供2「あ、お義父さん! あのね、ソフィーが洗濯物を干すのを手伝えって言うんだ」

ソフィ―「あなたの物も入ってるのよ。手伝うのは当然じゃない!」

デイモン「まあまあ、ソフィー、落ち着いて。私が手伝うから」

ソフィ―「でも……」

デイモン「ここにいる子供たちは、ずっと辛い思いをしてきたんだ。ここにいる間は自由に楽しく過ごしてもらいたいんだよ」ソフィー「でも、お義父さん、いつも大変そうだし、お手伝いできるならやりたいの」

デイモン「ありがとう。ソフィー。君は優しい子だ。お義父さんは、ソフィーの笑顔が見れれば、何にも辛くないんだよ」

ソフィ―「えへへ。ソフィ―ね、お義父さんのこと、大好き! お義父さんが笑っているのを見ると、嬉しくなるんだ」

デイモン「……そうか」

場面転換。

子供1「お義父さん、なーに?」

デイモン「はい、これ。カイルからだ」

子供1「あー、お手紙だー!」

デイモン「読んでごらん」

子供1「うん!」

ガサガサと手紙を開ける音。

子供1「あれえ?」

デイモン「どうかしたのかい?」

子供1「カイルの字じゃないみたい」

デイモン「……ああ、それは、きっと、カイルは新しい家に行った後、字の練習をしたんだと思うよ」

子供1「そっかぁ! ねえ、お返事書いてもいいかな?」

デイモン「ああ、構わないよ」

場面転換。

コツコツコツという足音が近づいて来る。

立ち止まり、横に座る音。

男「今回は7歳、女、AB型だ」

デイモン「……っ! あの、今は、それに該当する子供がいなくて……」

男「あの孤児院。なんのために存在しているのか、わかっているのだろう? 顧客を失望させたらどうなるか……。わからないわけではあるまい」

デイモン「……」

男「迎えは1週間後だ」

男がコツコツと歩き去って行く。

デイモン「……うう。ソフィー……」

場面転換。

デイモン「みんなー。ご飯だぞー」

バタバタと子供たちが部屋に入って来る。

子供2「うわー、すげー! ご馳走だ!」

子供3「お肉だー!」

ソフィ―「ねえ、お義父さん。何かあったの? もしかして……」

デイモン「ああ。実は里親が決まった子がいる」

子供2「えー? 誰誰? いーなー!」

デイモン「ソフィーだ」

ソフィ―「え?」

子供2「やったじゃん、ソフィー」

ソフィ―「えっと、あの……お義父さん。私、ここにいちゃダメ?」

デイモン「いいかい、ソフィー。あっちに行けば、ここよりも、もっといい生活が待っているんだ。幸せになれるんだよ」

ソフィ―「……私は、お義父さんと一緒にいられるだけで、幸せだよ」

デイモン「……ソフィー」

子供2「何言ってんだよ、ソフィー。お前、いつも、お義父さんに迷惑かけたくないって言ってだろ! ここにいたら、お金がかかるんだぞ! 新しい家に行けば、お義父さんだって助かるんだ!」

ソフィ―「……お義父さん、そうなの?」

デイモン「……ふふ。そうだね。言ってくれるかい? ソフィー」

ソフィ―「うん、わかった……」

デイモン「ありがとう」

場面転換。

子供2「うわああ!」

子供2が転んで洗濯物を地面にぶちまける。

子供2「あー、やっちゃった」

デイモン「おや? 洗濯物? どうしたんだい?」

子供2「あー、いやー、その……。ソフィ―がいなくなった分、今度は俺が洗濯物くらいやらないとなって思ってさ」

デイモン「そうか。ありがとう」

子供2「えへへ」

デイモン「でも、無理はしなくていいんだぞ。ここでは、楽しいことを考えていればいいんだ」

子供2「大丈夫だよ。洗濯も結構、たのしいよ」

デイモン「そうか……」

そのとき、ざっと、男2が現れる。

男2「……ようやく、ようやく見つけたぞ!」

デイモン「……なんの御用でしょうか?」

男2「カイル! カイルはどこだ! 頼む、返してくれ!」

デイモン「……」

子供1「カイル? カイルは新しいお家に行ったよー」

男2「新しいお家?」

デイモン「家に入ってなさい」

子供1「はーい」

男2「ま、まさか、息子は……カイルはもう……」

デイモン「……」

男2「そんな……。俺にはもうカイルしか残されていなかったのに。ようやく、あの地獄から生きて戻ってきたのに……」

デイモン「お金なら工面できます。今後、あなたが不自由なく暮らせるくらいの」

男2「金なんていらない! カイルを返してくれ!」

デイモン「不可能です」

男2「ふざけるな! ふざけるなー!」

ドスっとデイモンがナイフで刺される音。

デイモン「が……はっ……」

デイモンが倒れる音。

子供1・子供2・子供3「お義父さん!」

大勢の子供たちが駆け寄って来る音。

子供1「お義父さん!」

子供2「死なないで!」

デイモン(N)「刺された胸が焼けるように熱い。痛い。苦しい。……あの子たちも、こんな苦痛を味わったのだろうか。……いや、そんなことは無いはずだ。一流の医者によって処置を施されていた。痛みはなかったはず。……そう。この痛みは、私の罪の痛みだ。誰かの命を助けるためという偽善で、子供たちの命を奪っていた私への罪の痛み。……ああ。だが、これでもう笑顔を浮かべなくて済む。ソフィ―が好きだと言っていた、あの偽善にまみれた笑顔を」

終わり。

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