もう一人の僕
- 2022.06.29
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
蒼(あおい)
茜(あかね)
男の子×2
女の子
■台本
蒼(N)「僕には、もう一人の僕がいる。……それは双子の茜ちゃんのことじゃなくて、僕の中にもう一人、違う僕がいるってことだ。ただ、そのもう一人の僕が出てきてるときは僕は眠っている状態になるから、もう一人の僕がどんな僕なのかはわからない。でも、もう一人の僕は、僕が苦手なことをしてくれるから、僕にとってはヒーローなんだ」
場面転換。
茜(N)「私には蒼っていう、双子の弟がいる。蒼は私とは全然性格が違っていて、弱虫で勉強ができなくて、運動もダメで、何をしても失敗ばかり。そんな蒼にも良いところはいっぱいある。でも、最近、蒼は自分の中にもう一人の自分がいると言い出した。……まあ、私のせいなんだけど」
場面転換。
教室内。
男の子1「はい! リレーの代表は蒼が良いと思います」
蒼「え?」
男の子2「うんうん。蒼、この前、凄かったもんな」
教師「他に誰か、立候補か、推薦はない? それなら運動会のリレー代表は決定しちゃうけど」
男の子1「大丈夫でーす」
男の子2「蒼、今回も頼むな! 絶対に優勝しようぜ!」
蒼「う、うん……」
場面転換。
ゴンゴンと壁に頭を打ち付ける音。
蒼「えい! えい!」
ガチャリとドアが開く音。
茜「ただいまー……って、蒼、あんた、なにやってんの!」
蒼「あ、茜ちゃん……」
茜「おでこ、真っ赤じゃない」
蒼「うう……」
場面転換。
茜「ふーん。リレーの選手ねぇ。でも、あんた、そんなに足、速かったっけ?」
蒼「それが、その……もう一人の僕が速かったから、それで……」
茜「え?」
蒼「えっと、サッカーの練習試合で人数が足りなくて、無理やり出ることになったことがあったでしょ?」
茜「……ああー。あったわね。うん、うん。覚えてる覚えてる」
蒼「あのとき、みんなが言うんだ。物凄く速かったって。誰も追いつけなかったって」
茜「あー。なるほど……。でも、それと、あんたが壁に頭突きしてるのと、なんの関係があるの?」
蒼「もう一人の僕なんだけど、自由に出てきてもらうことはできないんだ。僕が寝てるときとかじゃないと、もう一人の僕は出てこれないみたい」
茜「あー、まあ、そうだね」
蒼「だから、いつもの、茜ちゃんに気合入れてもらうようにすれば、寝られるかなって。その練習」
茜「あれは寝るんじゃなくて、気絶なんだけどね。じゃあ、気絶する練習をしてるってこと?」
蒼「う、うん……」
茜「はあ……。あのさ。そんな遠回しなことしないで、走る練習したらどうなの?」
蒼「無理だよ。僕なんかが速く走れるわけないもん。それに、みんな、今回は絶対優勝するって盛り上がってるし」
茜「いい、蒼。あんたの中のもう一人の自分だって、結局はあんたの体を使ってるってことでしょ?」
蒼「う、うん」
茜「ってことは、本当は、蒼は速く走れるってことなんじゃないの?」
蒼「え? ……そ、そうかもしれないけど。自信ないな。だって、みんながっかりしちゃうし」
茜「その気持ちはわかるけど、やってみないとわからないじゃない。やってみようよ」
蒼「……」
茜「いつまでも、もう一人の自分に頼りっぱなしでいいの?」
蒼「……ねえ、茜ちゃん。僕でも……できるかな?」
茜「うん。できるよ、絶対! 頑張ろう!」
蒼「僕、やってみる!」
場面転換。
走っている蒼がばたりと倒れ込む。
蒼「ううー。もうダメ……」
茜「……やっぱり、急には無理か」
蒼「やっぱり、僕じゃダメなんだ……」
茜「蒼……」
場面転換。
運動会で盛り上がったグラウンド。
蒼「……」
男の子1「蒼。借り物競争がダメだったからってそんなに落ち込むなって」
男の子2「そうだよ。大丈夫大丈夫。蒼はリレーに集中してくれればいいんだから」
蒼「う、うん……」
場面転換。
女の子「でも、勿体ないなー。茜なら、今年もリレーでぶっちぎりだと思うんだけど」
茜「はは。リレーは去年出たし、今年はいいかな」
女の子「まあ、茜がそういうならいいんだけど」
すると、ゴン、ゴンという音が響く。
女の子「あれ? なんの音だろ? あ、あそこ! 男の子が壁に頭、ぶつけてる!」
茜「……あ、蒼!」
茜が駆け出す。
茜「蒼、やめなさい! なにしてるの!」
蒼「茜ちゃん、僕……どうしても、リレーに勝ちたいんだ」
茜「……そっか。うん。わかった。リレーになったら、私が気合入れてあげるから待ってなさい」
蒼「ありがとう、茜ちゃん……」
場面転換。
運動会の競技中。
女の子「茜―! 頑張って!」
茜「はっ、はっ、はっ! きゃっ!」
茜が転ぶ。
女の子「茜!」
茜「……いたたた」
場面転換。
女の子「茜、大丈夫?」
茜「ちょっと、足をくじいちゃったみたい」
女の子「でも凄いよね。足をくじいても、3位なんだもん」
茜「あはは……。でも、もうひと踏ん張りかな」
女の子「え? 茜、もう出る競技ないんじゃない?」
茜「あ、そ、そうだったね。じゃあ、ちょっと、保健室行って来るから。バイバイ」
場面転換。
静かな場所。
茜「それじゃ、いくよ、蒼」
蒼「う、うん! お願い」
茜「えい!」
バチンと蒼を思い切り叩く茜。
蒼「うわーー!」
蒼が吹き飛ぶ。
茜「よし。いつも通り、これで気絶しただろうから、私が代わりに……」
蒼「いてて……」
茜「え?」
蒼「あれ? もう一人の僕が出てこない。なんで?」
茜「……そっか。足に力が入らないから、威力が半減しちゃったんだ」
蒼「……」
茜「じゃあ、もう一回行くよ」
蒼「……やっぱり、いい」
茜「え?」
蒼「茜ちゃん、転んだのに、最後まで頑張ってたよね」
茜「う、うん……」
蒼「……僕も、ダメかもしれないけど、諦めないでやってみるよ」
茜「で、でも、クラスのみんなにはなんて言うの?」
蒼「頑張れるだけ頑張って、ダメなら謝るよ」
茜「……そっか。うん。頑張って、蒼!」
蒼「うん! 頑張る!」
場面転換。
蒼(N)「あの日、結局、リレーは僕のせいで最下位になってしまった。でも、一生懸命走った僕を怒る人はいなかった。そう。ただ、頑張ればよかったんだ。もう一人の僕に頼らずに。きっと、もう、もう一人の僕が出てくることは無いだろう」
場面転換。
茜(N)「あの日以来、蒼はもう一人の自分を出そうとはしなくなった。どんなに嫌なことがあっても、自分で頑張っている。もう、私が蒼の代わりに何かをやってあげることもないと思う。それに、もう蒼の方が私より凄いし。前に蒼は、もう一人の自分……つまり、私のことをヒーローと言ったけど、今では蒼の方が私のヒーローだ」
終わり。
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