将を射んとする者はまず馬を射よ

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ

■キャスト
凌平(りょうへい)※子供
凌平(りょうへい)
麻美(まみ)※子供時代兼ね役
一翔(かずと)
母親
女の人

■台本

凌平「将を射んとする者はまず馬を射よ?」

麻美「しょ、将をいん……?」

一翔「「将を射んとする者はまず馬を射よ。つまり、敵の大将をやっつけるには、まずはその馬を倒せってことだね」

凌平「そんな遠回りなことして、何の意味があるの?」

一翔「例えば、鬼ごっこしてて、凄い足の速い子がいたとするだろ? 凌平がどんなに全力で走っても追いつけない奴だ。その場合どうする?」

凌平「どうするって言われても……」

一翔「じゃあ、もし、その子が転んで膝を擦りむいて、走れなくなったらどうだ?」

凌平「……簡単に捕まえられる」

麻美「おおー」

一翔「そういうこと。遠回りに見えて、実は一番、効率がいいってことなんだよ。普通にやったら難しいことでも、工夫次第で出来るってことだよ」

麻美「へー。すごーい! 一翔くんは、ホント物知りだよね」

凌平「……」

一翔「麻美ちゃん、覚えておくと、絶対に得するから忘れないようにね」

麻美「うん! わかった!」

場面転換。

10年後。

凌平と麻美が並んで歩いている。

凌平「……」

麻美「ねえ、凌平。聞いてる? 夏休み、どうするのさ?」

凌平「どうするも何も、どうもしないって」

麻美「ええー。大学最後の夏休みなんだよ? なんか派手なことしようよ! 泊まりで温泉行くとかさ」

凌平「……地味じゃねーか。それに、大体、麻美んとこのおばさんが泊まりなんか、許してくれないだろ」

麻美「そんなことないよ。凌平や一翔くんと一緒なら、絶対、大丈夫だから」

凌平「……ったく、俺をダシに使うなよ。それに兄貴はバスケの合宿があるからって、夏休み中はずっといないって言ってたぞ」

麻美「ふーん。で、行くとしたら熱海と草津どっちがいいかな?」

凌平「人の話を聞けよ……」

そのとき、女の人がやってくる。

女の子1「あ、凌平くんだ。今、学校帰り?」

凌平「ん? ああ……はい」

麻美「……」

女の子1「ちょうど、今、そこのお店でケーキ買って来たんだけど、一緒に食べない?」

凌平「今日、兄貴は家にいないですよ」

女の子1「え? あ、そうなんだ……。じゃあ、これ渡しておくね。一翔さんと一緒に食べてね。……あ、私から貰ったって、言っておいてもらえるかな?」

凌平「はいはい……」

女の人1「じゃあね」

女の人が行ってしまう。

麻美「……誰?」

凌平「誰だっけな」

麻美「しらばっくれて。随分と仲良さそうだったじゃない」

凌平「……ホントにそう見えたか? あれはどう見ても、兄貴を狙ってるだけだろ。最近、そういうのすげー多いんだよ」

麻美「……ん? なんで、一翔くん狙いで、凌平と仲良くするのよ?」

凌平「あれだろ。将を射んとする者はまず馬を射よ、って奴だろ」

麻美「ああー、なるほど。でも、そんなの何か気分悪くない?」

凌平「お前も人のこと言えねーだろうが」

麻美「……あはは。まあ、そりゃそうなんだけどさ」

凌平「……ちっ」

麻美「あ、そうだ。これから買い物するから付き合ってよ」

凌平「何買うんだ?」

麻美「晩御飯の材料」

凌平「なんで、その買い物に俺が付き合わないとならねーんだよ?」

麻美「だって、凌平ん家の晩御飯だもん」

凌平「はあ?」

麻美「おばさん、最近、仕事忙しいって言ってたでしょ? だから、今度、晩御飯作りに行くって約束したのよ」

凌平「……なんでそこまですんだよ?」

麻美「ほら、あれだよ。将を射んとする者はまず馬を射よ、ってやつ」

凌平「……はあ」

場面転換。

凌平の家のキッチン。

母親「いやー。麻美ちゃん、美人で料理が上手くて、気が利いて、ホントいいお嫁さんになるわー」

凌平「……」

麻美「ありがとうございますー。でも、私なんてまだまだですよー」

母親「あらあら、謙遜しちゃって。あーあ。麻美ちゃん、うちにお嫁に来てくれないかしら」

麻美「えー。いいんですか? 来ちゃっても」

母親「もちろん! 大歓迎よ!」

麻美「ホントですか? 本気にしちゃいますよ」

母親「どうぞどうぞ。ぜひ、本気で考えてみて」

凌平「……ちっ!」

凌平が立ち上がる。

凌平「母さん。飯出来たら読んで。部屋にいるから」

母親「あんた、麻美ちゃんがせっかく、料理作りに来てくれたんだから、少しは手伝いなさいよ」

麻美「いいんですよ、別に」

凌平「俺が手伝ったら、返って邪魔になるだろ」

母親「……まあ、そうね」

凌平「……じゃあ、部屋にいるから」

ガチャリとドアを開け、凌平が出ていく。

場面転換。

バフッとベッドの上に寝転がる凌平。

凌平「ったく、どいつもこいつも兄貴ばっかり……。誰も俺のことなんか見やしねえ……」

コンコンとドアをノックする音。

麻美「……凌平、ちょっといい?」

凌平「ああ」

ガチャリとドアが開いて麻美が入って来る。

凌平「なんだ、もう飯出来たのか?」

麻美「もう煮込むだけだから、お義母さんに見て貰ってる」

凌平「お義母さんって、お前なぁ……」

麻美「それより、旅行、どこ行く?」

凌平「はあ?」

麻美「夏休みの話。忘れたの?」

凌平「だから、それはお前ん家のおばさんがオッケー出さないだろ」

麻美「ううん。もう、貰ってるよ」

凌平「あー、あと、あれだ。兄貴は来れない……」

麻美「知ってる」

凌平「え?」

麻美「ちなみに、お義母さんのオッケーもさっき、貰った」

凌平「へ?」

麻美「宿泊代も出してくれるって。だから、凌平が断る理由はないんだよ」

凌平「え? いや、でも。……え?」

麻美「行くの!? 行かないの!?」

凌平「い、行きます……」

麻美「よし! えへへ。将を射んとする者はまず馬を射よ、成功!」

凌平「……なあ?」

麻美「なに?」

凌平「……も、もしかして、狙ってた将は俺だったのか?」

麻美「え? うん。そうだけど……」

凌平「……それなら、直接、将を狙っても射れるだろ」

麻美「へ?」

終わり。

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