主導権
- 2022.07.28
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、中世、コメディ
■キャスト
ヨキ
アン
ヨシュア
警部
■台本
新聞を広げる音。
ヨキ「……ふむふむ。オペラ座の女優が結婚か。ふふ。相変わらず、世間は平和そのものだな。そろそろ、刺激が欲しい所だろう」
ガチャリとドアが開く音。
アン「所長! 大変です!」
ヨキ「どうした? 予告状でも届いたか?」
アン「え? あ、はい……。入り口に、このカードが貼り付けられていました」
ヨキ「そうかそうか。じゃあ、警察と名探偵……ヨシュアに連絡を入れてくれ」
アン「あの、所長……。予告状は読まれないのですか?」
ヨキ「狙いは魔女の心臓だろ? 犯行予告は……今週末、といったところか」
アン「よ、よくわかりましたね」
ヨキ「はははは。あの怪盗とも、付き合いが長いからね。わかるさ」
アン「で、では、魔女の心臓は金庫に移しておきますね」
ヨキ「おいおい。そんな無粋な真似をするんじゃない。魔女の心臓は警察と名探偵に任せておけばいい」
アン「ですが……魔女の心臓は国宝級の宝石ですよ。万が一のことがあったら……」
ヨキ「ふふふ。心配するな。それよりも、今週末は忙しくなるぞ。展覧会の準備を頼む」
アン「わ、わかりました……」
場面転換。
警部「困りますな。客を入れるなんて、自殺行為です」
ヨキ「では、宝石は厳重な金庫に入れて、店を閉鎖し、警察官で店内を埋め尽くせと?」
警部「ええ。その通りです」
ヨキ「なるほど。それで捕まえられると?」
警部「もちろんです!」
ヨキ「ヨシュアくん、どう思うかね?」
ヨシュア「もちろん、その方が逮捕の確率は上がるでしょう。ですが、現れない方の格率の方が高くなります」
警部「……予告を破ると?」
ヨシュア「奴は怪盗であると同時に、エンターティナーを気取っています」
警部「エンターティナー? ですと?」
ヨシュア「はい。つまり、盗みを……犯行を行うことで世間を盛り上げたいという思いがあります」
警部「ま、まさか……」
ヨシュア「わざわざ予告状を送って来ることが証明です。もし、単に盗むだけが目的であれば、予告状なんて送らずに、黙って盗み出せばいい」
警部「た、確かに……」
ヨキ「つまり、私たちが店に客を入れるというのは、あの怪盗を確実におびき出すことができるというわけですよ。奴がやってくれば、今度こそ捕まえてくれる……。そうですよね? 名探偵」
ヨシュア「今回で、奴との決着を付けます! その手柄は警部、あなたのものです」
警部「……わかった。できるだけの協力はしよう。なんでも言ってくれ」
ヨシュア「ありがとうございます」
場面転換。
店内が賑わっている。
アン「所長。本当によかったのでしょうか。客を入れてしまって……」
ヨキ「ふふふふ。見てみたまえ。展覧会は大成功と言っていいほどの反響じゃないかね?」
アン「た、確かにそうですが……魔女の心臓が盗まれてしまった場合の損害は計り知れません」
ヨキ「ふふっ! それは……」
バンという爆発音と、バツンと電気が落ちる音。
アン「で、電気が消えた?」
ヨキ「現れたようだな」
アン「ま、魔女の心臓は大丈夫でしょうか?」
ヨキ「まあ、ヨシュアくんたちに任せようじゃないか」
アン「……」
場面転換。
ヨシュア「……申し訳ありませんでした」
ヨキ「盗まれてしまいましたか」
ヨシュア「……」
警部「だ、だから、客を入れるのを反対したんだ!」
ヨキ「まあまあ、警部。そう、目くじらをたてないでください。奴を取り逃がしたのは、警察の失態でもあるのですから」
警部「うっ!」
ヨキ「とはいえ、何も収穫がないわけではないですよね? ヨシュアくん」
ヨシュア「……負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、今回で奴の行動パターンを完全に把握できました。次は主導権を握れると断言できます」
ヨキ「よろしい。私としては、あなたに諦められてしまうことが、一番困るからね。これからもよろしく頼むよ」
ヨシュア「……ありがとうございます」
場面転換。
アン「あの……所長。魔女の心臓が盗まれたことでの損害についてですが……」
ヨキ「すぐに保険屋に連絡してくれ。保険金で賄う」
アン「え? あ、あの……かけてたのですか? 保険」
ヨキ「怪盗に狙われているんだ。保険くらい、かけるだろう」
アン「ですが、予告が来てから保険に入るのは無理では……?」
ヨキ「魔女の心臓を手に入れたときに入ったんだ。怪盗が狙うのはわかっていたからね……。というより、私が狙うように仕向けたんだがね」
アン「あ、あの……どういうことでしょう?」
ヨキ「怪盗は派手好きだ。どうせ盗むなら、話題になっているものを狙う。だから、こちら側から、話題となる宝を作り出してやるんだ。そうすれば、狙われる物をこちらでコントロールできる。で、その狙われる物だけ、保険に入っていれば、こちらの損害は出ない」
アン「で、では、今回のことは所長の計算通りだと?」
ヨキ「はははは。今回だけじゃないよ。ずっとさ」
アン「……どういうことでしょう?」
ヨキ「君は、一連の事件……。怪盗、警察、名探偵たちが絡んでいるが、得をしているのは誰だと思う?」
アン「……そうですね。盗みを成功させた怪盗……でしょうか?」
ヨキ「まあ、そうだな。今回、怪盗は得をした。……逆に、盗みを阻止した場合、名探偵の名声が上がる。これは名探偵が得をする」
アン「はい」
ヨキ「だが、その二人よりも、もっと得をしている人間がいる」
アン「え?」
ヨキ「私だよ」
アン「……?」
ヨキ「怪盗が予告状を出してくる。それをネタに、うちが展覧会を開く。そうすれば、怪盗を見るため、怪盗が狙う宝石を見るために客が殺到する」
アン「あっ!」
ヨキ「展覧会は大盛況で、入場料だけで大儲けだ」
アン「はい」
ヨキ「怪盗が狙うものには保険がかけてあるから、盗まれても盗まれなくても、うちが損することはない」
アン「……」
ヨキ「怪盗と名探偵。その対決で、一番得しているのは、現場となる宝石店というわけだな。願わくば、この対決がずっと続いてほしいものだ。はははははは」
終わり。
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