思い出の音

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■概要
人数:3人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
麻衣(まい)
真由(まゆ)
祖父

■台本

風鈴の音。

麻衣「どう? おじいちゃん? 凄くいい音色だよね」

祖父「……ありがとう、麻衣。うん。とってもいい音だ。懐かしいよ」

麻衣「……やっぱり、この風鈴じゃない?」

祖父「麻衣は本当に優しいね。でも、本当に、もういいんだ。無理して探さなくてもいいからね」

麻衣「……おじいちゃん」

場面転換。

大学内。

麻衣「はあ……」

真由「麻衣、大丈夫? 最近、講義、休みがちだけど」

麻衣「ほら、言ったでしょ? おじいちゃんが倒れたって」

真由「あー。そうだったね、ごめん」

麻衣「いや、別にいいんだけど……」

真由「……おじいちゃん、結構、悪いの?」

麻衣「たぶん、もう長くないと思う」

真由「そっか……」

麻衣「だからね、おじいちゃんに、思い出の音を聞かせてあげたいなって思って」

真由「どういうこと?」

麻衣「おじいちゃん、コレクターってやつでさー。結構、色々なものを集めてたんだよね」

真由「うん」

麻衣「でね、その中に風鈴があるんだ。その風鈴のコレクションの中に、おばあちゃんとの思い出の……おばあちゃんが作った風鈴があるみたいなんだ。その風鈴の音を、おじいちゃんに聞かせてあげたいってわけなんだけど……」

真由「……聞かせてあげればいいんじゃない?」

麻衣「それがね……」

場面転換。

大量の風鈴の音が交じり合って聞こえる。

真由「……なるほど」

麻衣「コレクターってだけあって、風鈴だけでも、数百個はあるんだよね……」

真由「一個一個、聞かせていくなんてしてたら、当たりにいきつくまで、気が遠くなるわね」

麻衣「一応は年代とか考えてみて、それっぽいのを聞いてもらったんだけど、違うみたいでさー」

真由「おじいちゃんに直接聞いてみたら? 持ってくのが大変なら、写真撮るとかさ」

麻衣「おじいちゃん、もう、ほとんど目も見えなくなってて……」

真由「そっか……」

麻衣「なんとかならないかな?」

真由「んー。そう言われてもなぁ……」

真由が倉庫内を歩く。

真由「……ねえ、麻衣。この人形なんだけど……」

麻衣「ん? ああ、それもおじいちゃんのコレクションだよ」

真由「なんで、同じのがあるの?」

麻衣「おじいちゃん、本当に大切なものは保存用と鑑賞用で2つ持ってたみたい」

真由「……風鈴なんだけど、保存用として箱に入ってるのとかない?」

麻衣「私も、そう思ってさ、探してみたんだよね」

真由「……ダメだったの?」

麻衣「うん。そもそもさ、思い出の風鈴はおばあちゃんの手作りだから、そもそも、箱とかがないんだよね」

真由「あー、そっか……」

麻衣「だから、手作りっぽいのを選んでみてるんだけど……。おばあちゃん、結構、風鈴を作るの、上手かったみたい」

真由「パッと見じゃ、わかんないってことか」

麻衣「……そう」

大量の風鈴の音が交じり合って聞こえる。

真由「……あれ?」

麻衣「どうしたの?」

真由「この風鈴……。栞がついてない」

麻衣「ホントだ。これじゃ、風が吹いても鳴らないよね」

真由「……あ、もしかして」

麻衣「ん?」

真由「これ、おじいちゃんのところに持って行って」

麻衣「え?」

場面転換。

風鈴の綺麗な音。

祖父「お、おお……。この音だ。この風鈴だよ。……ありがとう、麻衣。懐かしい……あのときの音……。全く、変わらないなぁ」

場面転換。

大学内。

麻衣「どうして、あの風鈴だって、わかったの?」

真由「風鈴って、金属の部分とガラスの部分が当たることで音が鳴るでしょ?」

麻衣「うん」

真由「でも、それって極論を言うと、音が鳴るたびに傷が付いてしまうってことなのよ」

麻衣「……う、うん」

真由「おじいちゃんは、大切なものは鑑賞用としてもう一つ同じのを持つくらいでしょ」

麻衣「あ、そっか! あの風鈴は同じのがないから……」

真由「そう。大事に取っておくには、金属の部分を外して音が出ないようにしてたってことね」

麻衣「音が出なければ、傷もつくことは無いってわけか」

真由「そういうこと。……で、あの風鈴、どうしてる?」

麻衣「風が吹いて、音が鳴るたび、嬉しそうにしてるよ」

綺麗な風鈴の音が鳴り響く。

終わり。

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