最適解
- 2022.08.18
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
暁(あきら)
遥香(はるか)
教師
■台本
暁(N)「世の中は理論で動いている。何気なく転がるボールにだって、物理法則という理論でなりたっている。それはこの人間の生活でも同じだ」
場面転換。
教室内の授業。
暁「5Aの2乗です」
教師「正解だ」
教室内から「おー」という歓声が上がる。
教師「ったく。お前は数学と物理だけは凄いな。もっと他の教科も頑張れば、もっと上の大学だって狙えるんじゃないか?」
暁「上の大学に行くことは、俺にとっての最適解じゃありません」
教師「はあ……」
場面転換。
通学路。
暁と遥香が歩いている。
遥香「ねえ、暁。今度の土曜日に、買い物付き合ってよ」
暁「無理だ」
遥香「えー。なんでよ?」
暁「土曜は18時までゲームをする予定だ」
遥香「ゲームなんていつでもいいじゃん」
暁「土曜にイベントをやるんだ。その日が一番効率がいい」
遥香「暁は相変わらず、効率廚だね」
暁「違う。最適解なだけだ」
遥香「はいはい。わかりましたよーだ」
暁「……遥香」
遥香「なによ?」
暁「日曜なら、一日、付き合ってやる」
遥香「……ホント!? じゃあ、日曜日で!」
場面転換。
店内。
遥香「ねえ、暁、これ、どっちがいいと思う?」
暁「その大きさのコップなら、あそこの店で、もっと安く手に入る」
遥香「えー。値段じゃないよー」
暁「ん? コップに値段以外の価値があるのか? 液体を入れれば、要件は満たせている」
遥香「もう! デザインも大事でしょ、デザインも」
暁「そうか? 家計のことを考えれば、安さを重視するのが当然だ」
遥香「限られたお小遣いだからこそ、少し高くても、気に入ったものを使いたいの!」
暁「……よくわからんな」
遥香「ったく、相変わらず効率厨なんだから」
暁「違う。最適解だ」
遥香「はいはい」
場面転換。
学校入り口前。
教師「うおおお! 先生はお前らの担任になってよかったぞ! 卒業、おめでとう!」
生徒たちの鳴き声と笑い声が入り混じる。
場面転換。
道を歩く暁と遥香。
遥香「あははは。先生、最後まで暑苦しかったねー」
暁「あそこまで感情を高ぶらせられる理由が理解できん。たかが、卒業式だろ」
遥香「……3年間、あっと言う間だったね」
暁「時間の概念はすべての人間が同じだ」
遥香「もう! そういうことじゃないってば! 色々、思い出とかないの?」
暁「あるぞ。だが、それと時間の概念がどう関係あるんだ?」
遥香「はあ……。暁に聞いた私がバカだった」
暁「……だが」
遥香「ん?」
暁「3年間は楽しかった」
遥香「もうー! それを最初に言いなさいよ! 少しは雰囲気を大事にしてよね!」
暁「雰囲気? 論理的ではないものに興味はない」
遥香「はあ……。相変わらず、効率厨なんだから」
暁「違う。最適解だ」
遥香「あっそう。暁が空気読まないなら、私も読まないからね」
暁「勝手にしろ」
遥香「ねえ、暁。結婚を前提に付き合ってよ」
暁「……は?」
遥香「だーかーら! 付き合ってって言ったの!」
暁「な、なぜ、このタイミングなんだ? もっと、こう、あるだろ。色々と」
遥香「暁が、その台詞言う?」
暁「……」
遥香「……で? どうなの?」
暁「……本気、なのか?」
遥香「冗談で言うほど、空気読めてないわけじゃないから」
暁「……では、俺も本気で答える」
遥香「う、うん……」
暁「俺はお前の最適解じゃない」
遥香「え? どういうこと?」
暁「……お前の家は、多額の借金がある」
遥香「……そうだよね。借金を背負うのは嫌だよね」
暁「そうじゃない」
遥香「……」
暁「俺が進学するのは2流大学だ。卒業しても、一般の平均値の給料しか稼げないだろう」
遥香「……」
暁「だが、遥香。お前は器量がいい。性格も人を惹きつけるものがある。つまり、モテるということだ」
遥香「……それがなによ?」
暁「つまり、俺なんかと結婚するよりも、もっと所得の高い、いわゆる富裕層と結婚した方がいいってことだ」
遥香「はあ……。結婚に関しても、効率厨かぁ」
暁「違う。最適解だ」
遥香「そんなことよりも、暁の気持ちが知りたいの! 私のこと好きなの? 嫌いなの?」
暁「その二択なら、好きだ」
遥香「なら!」
暁「しっかりしろ! これからのお前の人生なんだぞ! 一時の感情でものを決めるな! お前にとって、最適解を選べ!」
遥香「……わかった。最適解を選ぶよ」
暁「ああ。それでいい」
場面転換。
夜道を歩く暁。
暁「はあ……。今日も残業、疲れたな」
立ち止まり、鍵を開ける。
ガチャリとドアを開ける。
暁「……ただいま」
呟いて、家の中まで歩く暁。
ドサリと、椅子に座る。
暁「ふう……」
家の中はシーンとしている。
暁「……」
ガバッと後ろから抱き着かれる。
暁「うわっ!」
遥香「暁―!
暁「遥香、今日は遅くなるから、寝てろって言っただろ」
遥香「聞いてよー! 借金、返し終わったー!」
暁「ホントか?」
遥香「うん! 暁、ご苦労様でした。……ありがとうね」
暁「俺一人の力じゃない。遥香だって、働いてたし、俺を支えてくれてただろ? お前の方がよっぽど苦労しただろ」
遥香「うん……。でもね、私が頑張れたのは暁のおかげ」
暁「……そうか」
遥香「私ね、幸せだよ」
暁「……そうか」
遥香「暁は?」
暁「もちろん、幸せだ」
遥香「……ね? 言った通りでしょ?」
暁「何がだ?」
遥香「これが私の最適解」
暁「……そうだな」
終わり。
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