見据える先に
- 2022.08.21
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、近未来ファンタジー、コメディ
■キャスト
アラン
母親
教授
男子学生
所長
研究員
キャロル
■台本
家の中。
アラン「お母さん、喉乾いた。飲み物持ってきてー」
母親「自分でやりなさい!」
アラン「ええー。面倒くさい」
母親「なら、喉乾いたのは我慢しなさい」
アラン「……」
母親「それより、アラン。あんた、宿題したの? 明日から学校なんでしょ?」
アラン「面倒くさいからやらないよ」
母親「……先生に怒られても知らないわよ」
アラン「怒られればいいだけなんだから、楽でしょ」
母親「あんたねぇ。そんなんじゃ、将来、困るわよ」
アラン「んー。ずっと家にいるからなんとかなるんじゃない?」
母親「……」
ツカツカと母親が近くにやってくる音。
母親「お父さんとも相談したんだけど、あんた、高校卒業したら家から追い出すからね」
ガバッと起き上がる音。
アラン「ちょ、ちょっと! どういうこと?」
母親「あんたの、その無気力は甘やかすとマズイって話になったのよ」
アラン「無気力じゃなくて、効率的って言ってよ」
母親「とにかく! あんたが甘えられるのは高校までだからね!」
アラン「急にそんなこと言われても……」
母親「残り2年あるんだから、全力で頑張りなさい」
アラン「……」
場面転換。
アランの部屋。
カチカチとパソコンを操作する音。
アラン「……うん。高校卒業後に就職はないな。効率が悪すぎる。……となると」
カチカチとパソコンを操作する音。
アラン「よし。これだな」
場面転換。
母親「なによ。やればできるじゃない。まさか、大学合格だけじゃなくて、奨学金まで貰えるなんてね。発破かけてよかったわ」
アラン「じゃあ、母さん。これからは大学の寮に入るから」
母親「うん。たまには帰ってきなさいよ」
アラン「……面倒くさい」
母親「はあ……。そういうところは変わってないわね」
場面転換。
大学の研究室。
パソコンのキーボードを打つ音。
アラン「……」
教授「おーい、アラン。私はもう帰るぞ」
アラン「教授は先に帰ってください。僕はもう少し残ってやっていきます」
教授「やれやれ。君は本当に熱心だな。ここまで凄いのは私が見てきた中でも、ダントツだ」
アラン「恐縮です」
教授「君のAI理論は最先端と言っていい」
アラン「いえ、僕なんてまだまだです」
教授「大学院には進むんだろ?」
アラン「ええ、そのつもりです」
教授「君には期待しているぞ」
アラン「はい」
場面転換。
大学内の廊下を歩いているアランと男子学生。
男子学生「いやあ、アランさんのAIについてのレポート、学界でも話題だって話ですよ」
アラン「……」
男子生徒「次の研究はどんなアプローチでいくんですか?」
アラン「いや、AIの研究はここまでだ」
男子生徒「え? なんでですか?」
アラン「これ以上は必要ないからだ」
男子生徒「何言ってるんですか!? このまま研究を続ければ、AIの分野の第一人者になれそうなんですよ」
アラン「このまま続けても、効率が悪い」
男子生徒「へ? ……いや、今更、研究分野を変える方が効率悪いですって」
アラン「……」
立ち止まってドアを開ける音。
教授「おお、アラン。ちょうどよかった。君が希望していた会社から内定が出たぞ」
アラン「僕の条件は飲んで貰えましたか?」
教授「ああ。寮は無いが、借家を用意するそうだ。手続等も会社の方でやってくれるそうだ」
アラン「そうですか」
教授「だが、本当にいいのか? 医療ロボの開発なんて、君の専門外だろ。給料だって、大分低いぞ」
男子生徒「ええ! 医療ロボの開発!?」
アラン「いいんです。最低限の生活が出来れば」
男子生徒「アランさん! 絶対、ここに残って研究した方が、いいですって!」
アラン「すまんな。決めたことなんだ」
場面転換。
機械が動く音。
アラン「……」
所長「アランさん、私はもう上がりますが……」
アラン「先に帰ってください。僕はもう少しだけ、テストしていきます」
所長「いやあ、君には参るな。ズブの素人状態でここに来て、3年でここの誰よりもロボット工学について詳しい」
アラン「恐縮です」
所長「君のおかげで、研究の進みは3倍になったよ」
アラン「ありがとうございます」
所長「これから、本格的にアンドロイドの制作に入る。君には期待しているからな」
アラン「はい」
場面転換。
スタスタと滑らかに歩く音。
研究員「おおー! 凄い!」
所長「まさか、ここまで滑らかに動くようになるなんて」
アラン「……まだまだ、これからです」
所長「そ、そうなのか。君の情熱は、本当に凄いな」
場面転換。
パソコンのキーボードを打ち込む音。
アラン「よし、これでシステムの構築は出来た。あとは、色々と教えていくだけだ」
場面転換。
アラン「キャロル。わかるか?」
キャロル「はい。アラン様」
アラン「それじゃ、あそこにある、コップを持ってきてくれないか?」
キャロル「はい。わかりました」
キャロルが滑らかに歩き、コップを取って、戻って来る。
キャロル「どうぞ」
アラン「ありがとう」
ワッと歓声と拍手が沸き起こる。
所長「すごい! 一体、これはどういうことなんだ?」
アラン「キャロルのコントロール基盤の所にAIを埋め込みました。あとは色々と教えていけば、できることも増えていきます」
所長「素晴らしい!」
研究員「凄いです、アランさん!」
アラン「……」
場面転換。
所長「医療用アンドロイドの試作品、完成だ!」
盛大な拍手が巻き起こる。
所長「これから、量産に向けて改良していくぞ。これで一気に、我が社が医療関係のシェアを奪っていく! 忙しくなるぞ!」
盛大な拍手と歓声が巻き起こる。
所長「アラン。これからも頼むぞ」
アラン「いえ、今日で退職します」
所長「は?」
アラン「退職金代わりに試作品、一体、貰っていっていいですか?」
所長「そ、それは構わんが……本当に辞めるのか? ここから我が社は急成長して、給料もグッと上がるはずだぞ」
アラン「いえ、面倒なので……」
所長「……」
場面転換。
アランの家。
アラン「キャロル。喉乾いた。飲み物持ってきてくれ」
キャロル「はい」
キャロルが歩いて来る。
キャロル「どうぞ」
アラン「ありがとう。……ふう。ようやく、これからは面倒なことをしなくて済みそうだ」
終わり。