新しい星
- 2022.08.23
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー
■キャスト
哲朗(てつろう)
琢弥(たくや)
教授
女性
■台本
哲朗(N)「これはある秋に起こった出来事だ。……本当にあったことなのか、今では疑わしく感じる。あれは……本当は俺の単なる妄想だったのかもしれないと」
場面転換。
琢弥「どうだ? 綺麗だろ? ここは俺の秘密の場所なんだ。……君にしか教えてない」
女性「素敵……。こんな綺麗な星空、始めて見た」
琢弥「俺も、この星空が世界中の何よりも美しいと思っていた。……でも、今は違う」
女性「え? そうなの?」
琢弥「ああ。君に出会ってしまったからね」
女性「……もう。口だけは上手いんだから。……でも、琢弥くん、好き!」
琢弥「俺も」
場面転換。
夜の丘の上。
琢弥「……って感じで、昔は色々とやんちゃしたんだよなー」
哲朗「今も変わんねーじゃん」
琢弥「うわっ! ひでー! 今はあゆむちゃん一筋だっての!」
哲朗「去年は奈々ちゃんだったよな」
琢弥「ふっ! 俺は過去に縛られない男さ」
哲朗「……琢弥。どうでもいいけど、ちゃんと観測しろよ。教授に怒られるぞ」
琢弥「はいはい。わかってるって。……にしても、星なんて、ほとんどもう観測済みだろ? なんでわざわざ、観測しなくっちゃならないんだよ」
哲朗「そりゃ、この夜空に見える星のほとんどは誰かが発見して、記録されてる。だけど、それを観測することで新しいことがわかる可能性があるんだ」
琢弥「もう何度も聞いたよ、それは。俺が言いたいのは、俺みたいなやつがやったって、発見なんてないって話」
哲朗「そりゃそうかもしれないけど、これは教授の研究の手伝いなんだからさ」
琢弥「……少しは否定しろよ。……ん? あれ?」
哲朗「どうした?」
琢弥「あれ! あの星!」
哲朗「星がどうしたんだよ?」
琢弥「あれ、見たことねーぞ! 新しい星なんじゃね?」
哲朗「そんなわけないって。ちゃんと見ろよ」
琢弥「なら、お前も見てみろって!」
哲朗「……はあ。わかったよ」
琢弥「……どうだ?」
哲朗「……」
哲朗がノートパソコンを開き、カタカタとキーを打ち始める。
琢弥「……急にノートパソコンなんか、出して、どうしたんだよ?」
哲朗「……ない、な」
琢弥「え?」
哲朗「あんな星なんて、データベース上にない」
琢弥「な? な? だろ? ないだろ?」
哲朗「……」
琢弥「よっしゃー! 俺! 俺が見つけたんだからな!」
哲朗「まだ喜ぶのは早い。ちゃんと調べてからだ。こういう新しい星の発見の9割は誤報だからな」
琢弥「……まあ、そりゃそうだけどさ」
哲朗「もし違ってたら、俺達だけじゃなくて、教授にも恥をかかせることになる。慎重に調べるぞ」
琢弥「わかったよ……」
場面転換。
大学の研究所。
パソコンを操作している哲朗。
哲朗「うーん。やっぱり、ないなぁ」
琢弥「だろ? だろ? やっぱり、あれは新しい星なんだって!」
哲朗「……よし、教授に相談してみよう」
琢弥「ダメだ! 教授には言うな!」
哲朗「なんでだよ?」
琢弥「教授に知らせたら、教授が発見したことになるだろ?」
哲朗「まあ、そうなるかもな。だけど、教授の研究の手伝いをしてるときに見つけたんだから、教授が見つけたってなっても……」
琢弥「俺! 俺が見つけたんだよ! あの星には、俺が名前を付けるんだよ!」
哲朗「……」
琢弥「へへへ。あゆむちゃんの名前つけようかな。そしたら、あゆむちゃんは、俺にぞっこんだな」
哲朗「……くだらない理由だな」
琢弥「うるせー!」
ガチャリとドアが開き、教授が入って来る。
教授「よお、二人とも、観測データのまとめは進んでるか?」
哲朗「あ、教授、おはようございます」
琢弥「(小声で)おい、言うなよ」
哲朗「(小声で)わかってるよ」
教授「そうだ、私の私書箱に、2人宛の封筒が来てたぞ」
哲朗「手紙? 誰からですか?」
教授「うーん。……書いてないな。ほら」
哲朗「はあ……」
封筒を開けて、中の手紙を出す音。
哲朗「……」
琢弥「……」
教授「誰からだったんだ?」
哲朗「あー、いや、間違いみたいです。琢弥、ちょっと来い」
琢弥「あ、ああ……」
二人がドアを開けて研究室を出ていく。
場面転換。
大学の廊下。
琢弥「おい、これ、どういうことだよ?」
哲朗「俺にだってわかんねーよ」
琢弥「書いてあった観察を止めろって……」
哲朗「十中八九、新しい星のことだろうな」
琢弥「くそ! 手柄を横取りする気か?」
哲朗「それなら、さっさと申請すればいいだけだろ。きっと、なにかあるんだよ」
琢弥「いいよ、別に。とにかく俺はあの星を発見した手柄はぜってーに譲らねーからな」
哲朗「……」
場面転換。
研究室内。
琢弥「どういうことだよ、これ!」
哲朗「どうしたんだ?」
琢弥「星の観測データが消されてる!」
哲朗「なんだって?」
哲朗がパソコン操作する。
哲朗「本当だ。根こそぎ全部、消されてる」
琢弥「復元できねーのか?」
哲朗「やってみる……」
哲朗がパソコンを操作する。
哲朗「あれ?」
琢弥「どうした?」
哲朗「元データ自体がない。……最初からそんなデータがなかったことになってる」
琢弥「どういうことだよ?」
哲朗「……なんかヤバい感じがする。あの星のことは諦めた方がいいんじゃねーか?」
琢弥「いーや! 絶対に諦めねえ。データがなくなったなら、またやり直すだけだ!」
哲朗「……」
場面転換。
車を運転している哲朗。
そのとき、携帯に着信が入り、車を止める。
そして、通話ボタンを押す。
哲朗「琢弥か? どうした?」
琢弥「ちょっと来てくれ! あの星が!」
哲朗「おい、急に言われても……」
ブツっと通話が切れる。
哲朗「ったく……」
運転を始める哲朗。
場面転換。
夜の丘の上。
哲朗がやってくる。
哲朗「おーい、琢弥、どうした?」
琢弥「見てくれ! 星が急激に動いたん……」
パーっと光が広がるような音。
琢弥「うわ! なんだ、この光は!?」
哲朗「う! まぶしい」
琢弥「うわ! うわー! た、助けてくれ!」
哲朗「どうした、琢弥! 琢弥!」
場面転換。
哲朗「う、うん……」
哲朗が起き上がる。
哲朗「あれ? 琢弥は? おーい! 琢弥!」
場面転換。
朝の研究室。
哲朗「携帯も繋がらないし、研究室にも来ない。……一体、どこに行ったんだ?」
ドアが開き、教授が入って来る。
教授「おはよう」
哲朗「あ、教授! あの、教授の所に琢弥から連絡いってませんか?」
教授「琢弥? 誰だね?」
哲朗「え?」
教授「それより、今日から火星についての研究を始めるぞ。観測の方を頼んだぞ」
哲朗「……」
場面転換。
哲朗(N)「それから俺は、周りの人間に琢弥のことを聞いて回ったが、覚えている人間は誰一人いなかった。観測を止めろと言って来たのは、観測データを消したのは誰なのか? そして、琢弥を包んだあの光はなんだったのか? ……そもそも、琢弥という人間は本当にいたのだろうか? 今となっては調べる方法はない」
終わり。