憎悪するほど愛してる
- 2022.10.03
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
昌行(まさゆき)
優美(ゆみ)
啓子(けいこ)
医者
■台本
病室内。
弱弱しく心電図の音が響く。
啓子「……昌行さん。優美のこと、お願いしてもいい?」
昌行「当たり前だろ」
啓子「優美……。ごめんね」
優美「嫌だよ、お母さん! お願いだから死なないで」
啓子「……幸せに……なってね」
ピーっと心電図の音が響く。
優実「いやあああああああ!」
昌行「……啓子」
場面転換。
昌行の家。
時計の針がチッチッチと鳴る音。
昌行「……あいつ、何やってんだ」
そのとき、ガチャっと玄関のドアが開く音。
昌行「あ、帰ってきた!」
昌行が玄関まで駆けていく。
昌行「おい! 優美! 何やってたんだ、こんな時間まで!」
優美「こんな時間って、まだ9時じゃん」
昌行「まだ、じゃなくて、もうだ! 大体、遅くなるなら、連絡入れろって言って……」
優美「はいはい。わかったわかった」
昌行「いい加減にしろ!」
優美「……」
昌行「お前のこと、心配してるってわからないのか!?」
優美「いいよ。別に心配してくれなくても」
昌行「な、何言ってんだ!」
優美「ウザいんだよね、そういうの」
昌行「っ!?」
パンと、昌行が優美の頬を叩く。
優美「痛いなぁ。あんた、何様!?」
昌行「俺はお前の父親だぞ!」
優美「違うよ」
昌行「っ!」
優美「もういいじゃん。お母さん、死んだんだからさ。さっさと再婚でもすれば?」
昌行「……お前がいるのに、できるわけないだろ」
優美「だーかーら。そういうのがウザいっていうんだよね。あんたの偽善に、私を巻き込まないでくれる?」
昌行「……父親が娘を心配するのが、そんなにいけないことなのか?」
優美「普通だと思うよ。本当の父親ならね」
昌行「……」
優美「あ、そうだ。私、高校卒業したら、就職するから」
昌行「は? お前、大学、どうするんだよ!」
優美「行くわけないじゃん」
昌行「金なら心配ないって言ってるだろ」
優美「違う違う。あんたから早く遠ざかりたいだけ」
昌行「……優美」
優美「晩御飯、食べてきたから。もう寝るから」
歩き出し、ドアを開けて部屋に入っていく優美。
昌行「……」
場面転換。
啓子の遺影の前でお酒を飲む昌行。
昌行「……啓子。ごめん。やっぱり、俺なんかが、父親の代わりなんてむりだったんだ」
お酒をグイっと飲む昌行。
昌行「優美が何を考えているのか、さっぱりわからない。……あいつ、大学行かないってさ」
はあーとため息をつく昌行。
昌行「お前なら、こんなとき、なんて言うんだろうな」
もう一度、グイっとお酒を飲む昌行。
昌行「……俺。もう、あいつのこと……優美のこと……子供だって思うの、無理かもしれない……」
場面転換。
優美の部屋。
昌行のつぶやきが聞こえている。
優美「……ようやく、か」
場面転換。
昌行の家のリビング。
時計の針のチッチッチという音が響く。
昌行「はあ……。今日もか」
すると突然、昌行の携帯に着信が入る。
昌行「お。さすがに今日は連絡してきたか?」
通話ボタンを押す昌行。
昌行「もしもし、優美か。連絡するにしても……。え? す、すぐに行きます!」
場面転換。
病院の病室。
昌行が走ってくる。
昌行「優美! 大丈夫か!?」
優美「……あのさ、大騒ぎしないでくれる? ちょっと貧血起こしただけだから」
昌行「倒れたって聞いたぞ! ……それに、お前、俺に黙ってバイトなんかして……」
優美「言ったら、反対したでしょ?」
昌行「当たり前だ」
優美「だから言わなかったの」
昌行「……」
そこに医者がやってくる。
医者「……患者のお父さんですね?」
昌行「あ、先生。娘は大丈夫なんですか?」
医者「……ちょっと、こちらに来てくれますか?」
場面転換。
別室。
医者「――というわけです」
昌行「……そうですか」
場面転換。
昌行の家。
啓子の遺影に向かっている昌行。
昌行「啓子。俺さ、もう疲れたよ。……ごめんな。お前との約束、破ることになるよ」
場面転換。
昌行の家。
ガチャリと玄関のドアが開く。
優美「(小声で)たただいま……」
靴を脱ぐ優美。
優美「あれ? 今日は来ないな。……さすがに呆れたかな」
廊下を歩く優美。だが、すぐに立ち止まる。
昌行「……優美」
優美「きゃあっ! なっ! なに!?」
昌行「ごめん……。ごめんな」
優美「ちょ、ちょっと。包丁なんて持って、何する気?」
昌行「うわああああああ!」
優美「きゃあああ!」
ドスっと包丁が優美のお腹に刺さる。
優美「ううっ!」
ドサリと倒れる優美。
昌行「……さようなら、優美」
携帯で電話を掛け始める昌行。
場面転換。
病室。
優美「はっ!?」
医者「気付きましたか」
優美「え? ここは……?」
医者「手術は成功しました。拒否反応もないですし、大丈夫でしょう」
優美「えっと、あの……」
医者「あなたの父親から手紙を預かってます」
優美「……いりません。私を刺した人のなんか。それより、逮捕されました?」
医者「父親のおかげで、あなたは助かりました。感謝してあげてください」
手紙を優美の膝の上に置いて、医者が立ち去る。
優美「……手紙?」
手紙を開いて読み始める。
※以降、手紙の内容。
昌行の声「突然、ごめんな。あんなことして。怖がらせたよな。……実はお前の肝臓に癌が見つかったんだ。しかも、末期の。医者にさ、完全移植しかないって言われて……。だから、父さんのを使って貰うことにした。黙っててごめん。でもさ、言ったら、お前、受け取らないだろ? だから、黙ってやった。……お前が黙ってバイトやってた気持ちが、今なら少しわかるよ。そうそう、完全移植には脳死状態じゃないとダメみたいでさ……。闇ルートで薬を手に入れたんだけど……実はちょっと、飲むのが怖いんだ。だけど、優美のことを思えば、そんなの吹き飛んだよ。……ごめんな。お前に父親らしいこと、全然できなかった。だから、せめて、父さんの肝臓を受け取ってくれ。……あと、お前のこと、一人にしちゃうのが、心残りだ。でも、お前のことだから、一人でもしっかり生きてくれるって信じてる。俺はお前の本当の父親じゃなかったけど、ずっとお前のことは本当の子供だと思ってる。これからも、ずっと優美のこと、見守ってるからな」
ポタポタと涙が落ちる音。
優美「……どうして? どうしてよ! 私こそ、何もできなかった! お父さんに……何も。だから、せめて、お父さんには幸せになって欲しいって思って……。私さえいなければいいって……。うあああああ!」
場面転換。
病院前。
医者「退院おめでとうございます」
優美「ありがとうございます」
医者「……これから、一人で大変だと思いますが、頑張ってください」
優美「大丈夫です。お母さんとお父さんが、見守っててくれますから」
終わり。
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