勇者のパトロン

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ノア
ルナ
エイデン

■台本

夜の森の中。

焚き火の音がパチパチと鳴っている。

ノア「……」

エイデン「ふわー! あー、今日も疲れた」

ルナ「ちょっと、エイデン。簡易的な結界なんだから、そんなに気を抜かないでよ。もう、魔王の勢力圏内なんだからさ」

エイデン「はいはい。ルナちゃんは真面目だねぇ」

ルナ「エイデンが不真面目過ぎるの! ノアを見習いなさい!」

エイデン「おいおい、ノア。緊張してるのか? 少しは気を抜いてくれないと、俺がルナちゃんに怒られるだろ」

ルナ「こら! ノアをそそのかさないで!」

ノア「ああ、ごめん。ちょっと考え事してただけなんだ」

エイデン「なんだ? 柄にもなく、緊張してんのか?」

ノア「ははは……。まあ、その……」

ルナ「魔王との対決なんだから、緊張するのは当たり前でしょ!」

エイデン「そうかぁ? 今から緊張してたら、決戦のときに疲れるだろ」

ルナ「だからって、エイデンみたく気を抜きすぎるのもどうかと思うけどね」

ノア「ははは……」

そのとき、ブンという魔法の音がする。

エイデン「ん? 転送魔法か? 明日は魔王との決戦だ。パトロン様からはさぞかし、豪華な救援物資を送ってくれただろうな?」

ガチャリと宝箱を開ける音。

ルナ「えーと、エリクシル5個と、薬草10個。聖水3つと、手紙が一通だけ」

エイデン「はあ? そんだけか? 嘘だろ? 魔王との戦いだぞ、魔王との! 手紙だって、どうせ、頑張れとしか書いてないんだろ? 言葉よりも物をよこせよ、物を!」

ルナ「うーん。ちょっとがっかりだよね」

ノア「しょうがないさ。今まで、色々支援してきてくれたんだ。ギリギリでも送ってくれたことに感謝しなきゃ」

エイデン「まあ、俺達にパトロンとしてついてくれるだけ、感謝ってところか」

ルナ「まーねー。今のパトロンがいなかったら、とっくに、飢え死か野垂れ死にしてたもんね」

ノア「……二人とも、ごめん。俺がもっと、パトロンを集められれば……」

ルナ「やだ! 別に、ノアを責めたわけじゃないって。パトロンが少ないのは、全員の責任だし」

エイデン「しかしなー。やっぱ、ダースドラゴン討伐の手柄を、あの新人に譲ったのは失敗だったんじゃねーか?」

ルナ「だーかーら! あれは、全員で決めたことでしょ! 今更、文句言わない!」

エイデン「あーあ。あれから、あの坊主たちには、ルラン王国がパトロンについたらしいぞ」

ルナ「えええー! 国がパトロン? いーなー。さぞかし、豪華な旅ができるんだろうなー」

ノア「アランは、伝説の勇者ルドンの血筋の人間だからね。もし、死ぬことになったら、世界の大損失だよ」

エイデン「うーん。やっぱ、パトロンは、手柄より血筋なのかぁ?」

ルナ「まあ、期待の新人だったからね。手柄を譲らなくても、町の一つや二つはパトロンについてたかも」

エイデン「それなら、やっぱ、譲らなかった方がよかったんじゃねーか?」

ルナ「だーかーら! 今更言っても、遅いでしょ!」

エイデン「そりゃそうだけどよぉ」

ルナ「まっ、今までなんだかんだ、少ない物資でやってきたんだもん。何とかなるって」

エイデン「そうだな」

ノア「……二人とも、ごめん」

ルナ「何言ってるのよ。ノアの責任じゃないって言ってるでしょ」

エイデン「そうそう。ルナに色っぽさが足りないから、パトロンが増えないんだ」

ルナ「バカ言ってんじゃないの!」

ノア「……」

ルナ「……ノア? どうしたの?」

エイデン「最近、なんか、らしくないぞ? 何か悩みでもあるのか?」

ノア「……明日、魔王城へは俺、一人で行く」

ルナ「え? 何言ってんの?」

エイデン「お前……まさか、ルナの料理でも食わされたのか? って、いででで!」

ルナ「ど、う、い、う、意味よ!」

ノア「……実は、俺、二人に秘密にしていたことがあるんだ」

ルナ「秘密?」

エイデン「なんだ? ルナの下着を盗んだとかか? 大丈夫だ。俺も盗んだことある……いででで!」

ルナ「か、え、せ!」

ノア「……俺は、普通の人間なんだ」

ルナ「え?」

エイデン「うーん。まあ、エルフやドワーフ、天人にも見えないからな。てか、人間にしか見えないぞ」

ルナ「そうだよ。魔族やドラゴン族って言われたなら、ビックリするけど」

ノア「……光の騎士の末裔っていうのは嘘なんだ」

ルナ「……」

エイデン「……」

ノア「俺、本当はなんの血統もない、ただの一般人なんだ」

ルナ「……」

エイデン「……」

ノア「血筋もない、実績もない、コネもない俺が、パトロンを得るには、嘘を付くしかなかった」

ルナ「……」

エイデン「……」

ノア「二人とも、今まで騙しててごめん。俺には特別な力なんてないんだ」

ルナ「……ぷっ!」

エイデン「あははははははははは!」

ノア「……」

エイデン「んなこと、とっくに知ってるって」

ノア「え?」

エイデン「だって、お前が特別な力を使ってるの見たことねーしな」

ルナ「そうそう。光の騎士だったら、魔獣ギルとの戦いで覚醒しててもおかしくないもん」

エイデン「あんときも、ホントギリギリだったからなー」

ルナ「結局、ノアとエイデンで、ゴリ押しで倒したんだもんね」

エイデン「時の神殿でも反応なかったし、光の槍も岩から抜けない、そもそも、聖なる試練も、結局、クリアしてないからな」

ルナ「ははは……。そう考えると、私達、よくここまでこれたよね」

ノア「……」

エイデン「ってことで、俺達はお前の特別な力なんて、これっぽっちも期待してない」

ルナ「そうそう。逆に、魔王の戦いで覚醒するから期待しろって言われた方が、怖いよ」

ノア「二人とも……」

エイデン「それに、パトロンもわかってると思うぞ。あの人たちは、お前の、光の騎士の血じゃなく、お前自身を気に入ってくれてパトロンになってくれてるんだ」

ルナ「そうだよ。じゃなかったら、魔王が怖かったら、戻ってもいい、なんて手紙、一緒に入れて来ないよ」

ノア「……」

エイデン「ってわけだ。お前一人で、全部背負いこむなよ。俺達、パーティーだろ?」

ルナ「そうそう。3人で1つなんだから」

ノア「……ありがとう」

エイデン「さてと、そろそろ、明日に備えて寝るか」

ルナ「そうだね」

ノア「……ああ」

ルナ「……あ、ノア」

ノア「ん? なに?」

ルナ「……あー、いや、なんでもない」

エイデン「……言っておいた方がいいんじゃねーか?」

ルナ「ううん。明日、魔王を倒して、ノアが本物の勇者になったら、言う」

エイデン「ふっ、そうだな。今は普通の人間でも、明日、魔王を倒して、本物の勇者になればいいだけだもんな」

ルナ「そうだよ」

ノア「ありがとう、二人とも。俺は、明日、魔王を倒して、本物の勇者になって見せる」

終わり。

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