勇者のパトロン
- 2022.10.13
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ノア
ルナ
エイデン
■台本
夜の森の中。
焚き火の音がパチパチと鳴っている。
ノア「……」
エイデン「ふわー! あー、今日も疲れた」
ルナ「ちょっと、エイデン。簡易的な結界なんだから、そんなに気を抜かないでよ。もう、魔王の勢力圏内なんだからさ」
エイデン「はいはい。ルナちゃんは真面目だねぇ」
ルナ「エイデンが不真面目過ぎるの! ノアを見習いなさい!」
エイデン「おいおい、ノア。緊張してるのか? 少しは気を抜いてくれないと、俺がルナちゃんに怒られるだろ」
ルナ「こら! ノアをそそのかさないで!」
ノア「ああ、ごめん。ちょっと考え事してただけなんだ」
エイデン「なんだ? 柄にもなく、緊張してんのか?」
ノア「ははは……。まあ、その……」
ルナ「魔王との対決なんだから、緊張するのは当たり前でしょ!」
エイデン「そうかぁ? 今から緊張してたら、決戦のときに疲れるだろ」
ルナ「だからって、エイデンみたく気を抜きすぎるのもどうかと思うけどね」
ノア「ははは……」
そのとき、ブンという魔法の音がする。
エイデン「ん? 転送魔法か? 明日は魔王との決戦だ。パトロン様からはさぞかし、豪華な救援物資を送ってくれただろうな?」
ガチャリと宝箱を開ける音。
ルナ「えーと、エリクシル5個と、薬草10個。聖水3つと、手紙が一通だけ」
エイデン「はあ? そんだけか? 嘘だろ? 魔王との戦いだぞ、魔王との! 手紙だって、どうせ、頑張れとしか書いてないんだろ? 言葉よりも物をよこせよ、物を!」
ルナ「うーん。ちょっとがっかりだよね」
ノア「しょうがないさ。今まで、色々支援してきてくれたんだ。ギリギリでも送ってくれたことに感謝しなきゃ」
エイデン「まあ、俺達にパトロンとしてついてくれるだけ、感謝ってところか」
ルナ「まーねー。今のパトロンがいなかったら、とっくに、飢え死か野垂れ死にしてたもんね」
ノア「……二人とも、ごめん。俺がもっと、パトロンを集められれば……」
ルナ「やだ! 別に、ノアを責めたわけじゃないって。パトロンが少ないのは、全員の責任だし」
エイデン「しかしなー。やっぱ、ダースドラゴン討伐の手柄を、あの新人に譲ったのは失敗だったんじゃねーか?」
ルナ「だーかーら! あれは、全員で決めたことでしょ! 今更、文句言わない!」
エイデン「あーあ。あれから、あの坊主たちには、ルラン王国がパトロンについたらしいぞ」
ルナ「えええー! 国がパトロン? いーなー。さぞかし、豪華な旅ができるんだろうなー」
ノア「アランは、伝説の勇者ルドンの血筋の人間だからね。もし、死ぬことになったら、世界の大損失だよ」
エイデン「うーん。やっぱ、パトロンは、手柄より血筋なのかぁ?」
ルナ「まあ、期待の新人だったからね。手柄を譲らなくても、町の一つや二つはパトロンについてたかも」
エイデン「それなら、やっぱ、譲らなかった方がよかったんじゃねーか?」
ルナ「だーかーら! 今更言っても、遅いでしょ!」
エイデン「そりゃそうだけどよぉ」
ルナ「まっ、今までなんだかんだ、少ない物資でやってきたんだもん。何とかなるって」
エイデン「そうだな」
ノア「……二人とも、ごめん」
ルナ「何言ってるのよ。ノアの責任じゃないって言ってるでしょ」
エイデン「そうそう。ルナに色っぽさが足りないから、パトロンが増えないんだ」
ルナ「バカ言ってんじゃないの!」
ノア「……」
ルナ「……ノア? どうしたの?」
エイデン「最近、なんか、らしくないぞ? 何か悩みでもあるのか?」
ノア「……明日、魔王城へは俺、一人で行く」
ルナ「え? 何言ってんの?」
エイデン「お前……まさか、ルナの料理でも食わされたのか? って、いででで!」
ルナ「ど、う、い、う、意味よ!」
ノア「……実は、俺、二人に秘密にしていたことがあるんだ」
ルナ「秘密?」
エイデン「なんだ? ルナの下着を盗んだとかか? 大丈夫だ。俺も盗んだことある……いででで!」
ルナ「か、え、せ!」
ノア「……俺は、普通の人間なんだ」
ルナ「え?」
エイデン「うーん。まあ、エルフやドワーフ、天人にも見えないからな。てか、人間にしか見えないぞ」
ルナ「そうだよ。魔族やドラゴン族って言われたなら、ビックリするけど」
ノア「……光の騎士の末裔っていうのは嘘なんだ」
ルナ「……」
エイデン「……」
ノア「俺、本当はなんの血統もない、ただの一般人なんだ」
ルナ「……」
エイデン「……」
ノア「血筋もない、実績もない、コネもない俺が、パトロンを得るには、嘘を付くしかなかった」
ルナ「……」
エイデン「……」
ノア「二人とも、今まで騙しててごめん。俺には特別な力なんてないんだ」
ルナ「……ぷっ!」
エイデン「あははははははははは!」
ノア「……」
エイデン「んなこと、とっくに知ってるって」
ノア「え?」
エイデン「だって、お前が特別な力を使ってるの見たことねーしな」
ルナ「そうそう。光の騎士だったら、魔獣ギルとの戦いで覚醒しててもおかしくないもん」
エイデン「あんときも、ホントギリギリだったからなー」
ルナ「結局、ノアとエイデンで、ゴリ押しで倒したんだもんね」
エイデン「時の神殿でも反応なかったし、光の槍も岩から抜けない、そもそも、聖なる試練も、結局、クリアしてないからな」
ルナ「ははは……。そう考えると、私達、よくここまでこれたよね」
ノア「……」
エイデン「ってことで、俺達はお前の特別な力なんて、これっぽっちも期待してない」
ルナ「そうそう。逆に、魔王の戦いで覚醒するから期待しろって言われた方が、怖いよ」
ノア「二人とも……」
エイデン「それに、パトロンもわかってると思うぞ。あの人たちは、お前の、光の騎士の血じゃなく、お前自身を気に入ってくれてパトロンになってくれてるんだ」
ルナ「そうだよ。じゃなかったら、魔王が怖かったら、戻ってもいい、なんて手紙、一緒に入れて来ないよ」
ノア「……」
エイデン「ってわけだ。お前一人で、全部背負いこむなよ。俺達、パーティーだろ?」
ルナ「そうそう。3人で1つなんだから」
ノア「……ありがとう」
エイデン「さてと、そろそろ、明日に備えて寝るか」
ルナ「そうだね」
ノア「……ああ」
ルナ「……あ、ノア」
ノア「ん? なに?」
ルナ「……あー、いや、なんでもない」
エイデン「……言っておいた方がいいんじゃねーか?」
ルナ「ううん。明日、魔王を倒して、ノアが本物の勇者になったら、言う」
エイデン「ふっ、そうだな。今は普通の人間でも、明日、魔王を倒して、本物の勇者になればいいだけだもんな」
ルナ「そうだよ」
ノア「ありがとう、二人とも。俺は、明日、魔王を倒して、本物の勇者になって見せる」
終わり。