太陽の色

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
明(あきら)※大人
明(あきら)※子供
美咲(みさき)
母親
父親
教師
医者
子供×2

■台本

明「お、欠けてきた、欠けてきた」

美咲「あ、ホントだ」

明「皆既日食なんて、見るの、久しぶりだな。子供の頃は必ず見てたんだけど」

美咲「私は、ちゃんと見るのは初めてかも」

明「あ、絶対に直接見るなよ」

美咲「あははは。子供じゃないんだから、分かってるよ。太陽を直で見るわけないって」

明「……太陽、か」

美咲「ん? どうかした?」

明「美咲は、太陽は何色で描いてた?」

美咲「へ? 太陽? うーん。明と違って、私はあんまり絵は描かないからなぁ」

明「でも、小学校の頃とか、課題で描かされなかったか?」

美咲「あー、うん。描いたかも」

明「そのとき、何色にしてた?」

美咲「あんまり覚えてないけど、赤、かな」

明「……やっぱり、そうだよな」

美咲「あとは黄色とか? オレンジで描く人もいるよね」

明「それが普通だよな……」

美咲「それがどうかしたの?」

明「いや、俺さ、幼稚園の頃……」

場面転換(回想)。

明が幼稚園の頃。

教師「はい、みんな。絵は描き終わったかな?」

子供1「終わったー!」

子供2「あ、もう少しー」

教師「あと10分で授業が終わるからね。頑張って仕上げて」

教師が園児たちの絵を見て回っている。

明がクレヨンで、絵を描いている。

教師「……あれ? ねえ、明くん。この丸いのなにかな?」

明「太陽!」

教師「……」

場面転換。

教師「……わざわざ、来ていただいて、申し訳ありません」

父親「いえ。それはいいんですが、明が何かしましたか?」

教師「特に何かしたというわけではないのですが……」

母親「気になることでもあるんですか?」

教師「はい。……これを見てくれませんか?」

教師が一枚の絵をテーブルの上に置く。

教師「明くんが描いた絵です」

父親「……それがなにか?」

教師「見てください。この黒い丸。明くんが言うには太陽だって言うんです」

母親「……たまたま、赤色のクレヨンがなかったとかじゃないんですか?」

教師「ですが、このリンゴはちゃんと赤色を使ってます」

母親「……」

父親「まあ、子供ですから、独特な色使いとかするものですよ」

教師「私もそう思いたいのですが、他のものはちゃんとした色を使っているんです。幼稚園児とは思えないくらいの色々な色を使って描いているんです」

父親「……この際、はっきり言ってください。先生は何が言いたいんですか?」

教師「あの……その……。もしかして、明くん、心に大きな闇を抱えているかもしれません」

母親「闇……ですか?」

教師「はい。本来、明るい色のものを黒を使って描くというのは、精神的な要因がある可能性が高いんです」

父親「……明が?」

教師「ご家庭で何か思い当たることは……?」

母親「いえ、特には……」

教師「ただ、全体的に暗い色を使っているわけではありません。太陽だけ……一部分だけです。明くんが抱えている闇はそこまで深いものではないと思います。いつもより気を付けて、明くんのことを見ていてくれませんか?」

母親「わ、分かりました……」

場面転換。

リビングで絵を描いている明。

明「できた! お母さん、できたよ」

母親「へー。上手いじゃない! 明は将来絵描きさんになれるかもね」

明「えへへへ」

母親「ね、ねえ、明。幼稚園、楽しい? 何か嫌な事あったりしない?」

明「ううん。楽しいよ。……あ、でも」

母親「な、なに?」

明「もう少しお絵描きの時間、長いといいんだけどなぁ」

母親「そ、そう……」

場面転換。

父親「どうだ? 明、何か変わったことあったか?」

母親「ううん。何もないわ。全然普通」

父親「なら、先生の思い過ごしじゃないのか? たまたま、あのときは、太陽を黒く塗っちゃっただけだろ」

母親「それが……今日も、太陽の絵を描いてもらったんだけど、やっぱり黒で塗りつぶしてたの」

父親「……」

母親「ねえ、一回、明を病院で診てもらうのはどうかしら? 精神科で」

父親「いや、大げさだろ」

母親「でも……放っておいて、手遅れになったら……」

父親「……そうだな。見てもらうだけ、見てもらうか」

場面転換。

医者「それでは、検査結果を申し上げます」

母親「は、はい」

医者「結論から言いますと、特に異常はありませんでした」

父親「そ、そうですか。よかった……」

医者「様々な心理テストも問題ありませんでしたし、念のため、解離性同一症……多重人格の懸念も含めて、検査したのですが、それも特に異常は認められませんでした」

母親「じゃあ、明は正常ってことなんですね?」

医者「ええ。逆に同年代の子供から見ても、視覚的認識力が高いくらいです」

父親「では……なぜ?」

医者「そのことですが、明くんにヒアリングしてみたんです。そしたら……」

母親「……」

医者「太陽は黒色だと言うんです。つまり、他の子が、太陽と言えば、赤や黄色を使うように、明くんは太陽と言えば黒、という認識をしているということです」

母親「どうして、そんなことに?」

医者「さあ。そこまではちょっと。……ですから、明くんには、太陽は赤、もしくは黄色と教えてください」

父親「わかりました」

場面転換(回想終わり)

明「……ってことがあったんだよ。それからは、太陽は赤で塗るようになって、問題は解決したってわけだ」

美咲「ふーん。でもさ、なんで、明は太陽が黒だなんて思ってたわけ?」

明「それが未だに謎なんだよなー。なんで、よりによって、黒なんだって話だよ」

美咲「確かに、いきなり太陽を黒で塗られたら不気味よね」

明「自分のことなのに、全く、思い出せないっていうか、理解できない」

美咲「もしかして、ホントに闇を抱えてたとか?」

明「まさか。検査もしたし、それはないって」

美咲「……あっ!」

明「どうした?」

美咲「見て見て! 皆既日食! 綺麗に太陽が隠れてる」

明「ホントだ! すげーな!」

美咲「……」

明「……」

明・美咲「あっ!」

美咲「なるほど」

明「そういうことだったのか」

美咲「子供の頃、よく皆既日食見たっていってたもんね」

明「そのときの記憶が鮮明だったんだな」

美咲「確かに、太陽、黒いね」

明「ああ……。真っ黒だ」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉