故郷

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
辰則(たつのり)
成子(せいこ)
男性
母親
店長
面接官

■台本

町中。人が行きかっている。

その中で立ち止まり、ニュース速報を見ている、辰則。

辰則「……」

アナウンサー「……詐欺の疑いがあり、本部に対して捜査が――」

辰則「マジかよ……」

場面転換。

居酒屋。

男性がグビグビとビールを飲む。

男性「ぷはー! うめえ」

辰則「……」

男性「どうした、辰則。飲まないのか?」

辰則「そんな気分じゃなくて」

男性「あー、あのニュースか」

辰則「絶対、儲けられるって言ってたのになー」

男性「まあ、世の中、そんなに美味い話はないってことだな。これも勉強だ」

辰則「最悪、金はいいんだけどさ。起業の夢を潰されたのは痛い」

男性「……起業って、お前、商売やりたかったのか? なんの?」

辰則「いや、まだ、決まってなかったんだけど」

男性「はあ? 何をやりたいのか決まってないのに起業する気だったのか?」

辰則「だから! それを一緒に考えてくれるって話だったんだよ。俺が何に向いているのかって」

男性「……」

辰則「で、起業すれば、年収一千万はいけるって。それを信じてたのに」

男性「騙されるわけだ」

辰則「(ムッとして)どういうことだよ?」

男性「金なんて、そう簡単に稼げないんだよ。起業すれば一千万なんて、素人の考えだろ」

辰則「……それでも俺は」

辰則(N)「それでも俺は成功したかった。成功して、胸を張って故郷に帰りたかったんだ」

場面転換。

コンビニ。バイトをしている辰則。

辰則「いらっしゃいませー!」

店長「辰則くん。手、空いてるなら床掃除して」

辰則「はい……」

場面転換。

床掃除をしている辰則。

辰則「俺……何してんだろ」

辰則(N)「俺は山奥の田舎に生まれた。町に行っても、錆びれたゲームセンターがあるだけ。娯楽なんて、何もないところだった。だから、俺は高校卒業してから、都会へ出ようと決めた」

回想。

母親「辰則。あんた、都会に出て何する気なの?」

辰則「成功したいんだよ。俺はこんなところにいたら、平凡な人生になる。成功して、人とは違う人生を送りたいんだよ!」

母親「成功って……。あんた、勉強も運動も何もしてなかったし、人に誇れるほど何かやったこともないでしょ。そんなあんたが都会に行ったからって、成功するわけないでしょ」

辰則「うるさいな! 都会にはチャンスがいっぱいあるんだ。チャンスがあれば、俺だって、成功を掴むことができるんだよ!」

回想終わり。

辰則(N)「なんて言って、家を飛び出したけど、やってることは、結局、コンビニバイトだもんなぁ」

店長「辰則くん、ボーっとしない!」

辰則「あ、はい……」

場面転換。

夜の道を歩く辰則。

辰則「母さんの言うとおりだった。何もやってきてこなかった俺には、チャンスなんてやってこなかった。俺に残ったのは……いや、消費したのは時間だけだ。同級生たちはとっくに大学を卒業して、就職してるだろう。もしかしたら、役職についているやつもいるかもしれない……」

歩き続ける辰則。

辰則(N)「とにかく、成功したい。それだけを考えてた10年だった」

辰則「そんなんじゃ、成功するわけねーよなー」

ピタリと立ち止まる。

辰則「……スカイツリーか」

場面転換。

スカイツリー展望台。

辰則「……おお、綺麗だな。けど……」

辰則(N)「当たり前だが、スカイツリーの展望台の望遠鏡でも、故郷は見えない」

辰則「ま、見えたからなんだって話じゃないけど」

そこに成子が通りかかる。

成子「……あれ? 辰則くん?」

辰則「へ? あ、成子?」

成子「偶然だね。まさか、こんなところで会うなんて」

辰則「あ、ああ」

成子「元気だった?」

辰則「まあな」

成子「高校の卒業式依頼だね」

辰則「ああ……」

成子「今、何してるの、仕事」

辰則「えー、あー、まあ、それなりの会社で」

成子「ふーん」

辰則「成子は何してるんだ?」

成子「作家」

辰則「え?」

成子「ほら、学生の頃、辰則くんにからかわれたことあったでしょ?」

辰則「ああ、あの小説か」

成子「賞を取ってね、出版されることになったんだ」

辰則「へー、すごいじゃん。おめでとう」

成子「ありがとう」

辰則「なあ、どこ住んでるんだ? 今度、飲みにでも行こうぜ」

成子「……ごめん。まだ、実家住なんだよね」

辰則「え? じゃあ、なんで……」

成子「出版の打ち合わせで、昨日、東京に来ただけだよ」

辰則「……じゃあ、東京に住んでないのか?」

成子「まあ、当分は実家から原稿を送るって感じかな」

辰則「それで大丈夫なのか?」

成子「もう、辰則くん。今はネットの時代だよ。本当なら打ち合わせだって、オンラインで出来るって言われたくらいだもん。観光を含めて、直接、担当の人に会いたかったから出てきただけ」

辰則「そっか……。実家から……成功したんだな」

成子「あはは。デビューしただけで、まだまだ全然だよ。成功っていえば、洋平くんじゃない?」

辰則「え? 洋平? 洋平がなんかあったのか?」

成子「知らないの? 今、登録者数150万人の人気ユーチューバーだよ」

辰則「マジで!?」

成子「凄い稼いでるみたいだけど、生活は質素なんだよね。まあ、洋平くんらしいけど」

辰則「質素って……」

成子「ああ、洋平くんも実家住だよ。時々、高校のクラスのみんなで会うんだ」

辰則「……故郷でも、成功したのか。あいつ」

成子「今は、あんまり場所は関係ないみたいだね」

辰則「そっか……。場所は関係ない、か」

成子「うん。成功に必要なのは、何をするか、かもね」

辰則「……滑稽だな、俺は」

成子「……辰則くん」

辰則「なんだ?」

成子「一緒に帰らない?」

辰則「え?」

成子「おばさんから聞いてるよ。辰則くんのこと」

辰則「……」

成子「場所は関係ないよ。一回、帰ってみたら?」

辰則「……いや、いい」

成子「……そっか」

辰則「……ありがとな」

成子「……頑張ってね」

辰則(N)「俺に足りないことは、何をしたいか、だ。俺がしたいこと……それは」

場面転換。

面接室。

面接官「なぜ、弊社を希望したのですか?」

辰則「楽しいゲームが作りたいんです」

面接官「楽しいゲーム、ですか?」

辰則「はい。どんなに落ち込んでても夢中で楽しめるような、そんなゲームを作ってみたいんです」

辰則(N)「成功はもう二の次だ。田舎に住んでいても、つまらないって思うことがないような、そんな面白いゲームを作る。それが俺のやりたいことだ」

終わり。

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