私の推しが兄の件について
- 2022.12.27
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
葵(あおい)
蒼(あおい)
麗香(れいか)
豪(ごう)
■台本
ライブ会場。
舞台の上で、アイドルたちが踊りながら歌っていて、大勢の観客がそれを見て熱狂している。
蒼「僕の~瞳に映るのは~君だけー!」
歓声が沸き上がる。
葵「きゃー! 蒼く~ん!」
葵(N)「私は今、あるアイドルにハマっている。ワールド・ブルーの蒼くん。――そして」
場面転換。
葵の家。
ガチャリとドアが開く。
葵「ただいまー」
蒼「お帰り、葵」
葵(N)「私のお兄ちゃんだ」
葵「あれ? なんかいい匂いするね」
蒼「カレー作ったんだよ」
葵「お兄ちゃんが?」
蒼「ふっふっふ。今回はスパイスからこだわってみた」
葵「……ってことは、またお母さん、旅行行っちゃったの?」
蒼「今回はサイパンに1週間だってさ。親父と」
葵「……ったく! いつまで新婚気分なのよ!」
蒼「ははは。まあ、新婚だし」
葵「そのたびに、家事を押し付けられるこっちの身にもなってほしいよね」
蒼「でも、俺は親父が、母さんと結婚してくれてよかったと思ってるよ」
葵「え?」
蒼「だって、こうして可愛い妹ができたんだからさ」
葵「ちょっ! お兄ちゃん、そういうこと真顔で言うの、反則だよ……」
蒼「それに、俺は家事好きだし」
葵「……うう」
蒼「どうした、葵?」
葵「お兄ちゃん、家事、完璧だから、女の私の立場が……」
蒼「何言ってるんだよ。今時、女が家事をするなんて時代遅れだって」
葵「でも……」
蒼「それより、ご飯食べようぜ」
葵「うん。サッと着替えてくるね」
場面転換。
リビング。
カレーを食べている葵と蒼。
葵「美味しー!」
蒼「だろ?」
葵「お兄ちゃん、お店出せるんじゃない?」
蒼「はははは。お世辞でも嬉しいよ」
葵「えー、お世辞じゃないよー」
蒼「ありがと。……あ、そうだ。明後日からライ……大学のゼミで泊りだから」
葵「知ってる」
蒼「え?」
葵「ああ、いや、その、うん。わかった。だから、カレーにしたんだね?」
蒼「うん。そうなんだ。カレーが連続になってごめんな」
葵「ううん。このカレーなら、一ヶ月連続でも大丈夫!」
蒼「ははは。大げさだなぁ」
場面転換。
葵の自室。
葵「さてと。掲示板チェックチェック」
パソコンの前に座る葵。
葵「あ、この前のライブのこと、書き込まれてる」
サイトの文字「この前の、ワールド・ブルーのライブはサイコーだったよねー!」
サイトの文字「豪くんと目が合ったんだよ!」
サイトの文字「明後日のライブもホント楽しみ!」
葵「私は最前列のチケット、入手済み……と」
パソコンのキーを打つ葵。
そのとき、ドアがノックされる。
蒼の声「葵、ちょっといいか?」
葵がパソコンのモニターの電源を消す。
葵「うん。いいよ」
ドアが開き、蒼が部屋に入ってくる。
蒼「なあ、葵。明日、なんか用事あるか?」
葵「ううん。別にないけど」
蒼「じゃあ、買い物でも行かないか?」
葵「え?」
蒼「ほら、俺も色々と忙しくてさ、あんまり葵と過ごせてないだろ? だから、買い物どうかなって」
葵「すごく嬉しいけど……お兄ちゃんだって、忙しいんだから休めるときに休んだ方がいいよ」
蒼「休むより、葵と一緒にいる方が、俺にとっては気持ちの気分転換になるんだよ」
葵「……本当に、いいの?」
蒼「もちろん」
葵「じゃあ……行く!」
蒼「よし、じゃあ、10時に家出ようか」
葵「うん」
蒼「それじゃ、お休み」
葵「お休み」
パタンとドアが閉まる。
葵「……っしゃー! 明日、お兄ちゃん……蒼くんと買い物だー!」
場面転換。
リビング。
蒼「葵、準備できたか―?」
葵「うん、ばっちり……」
蒼「うわ、どうしたんだ? 目の下、すごいクマだぞ」
葵「ははは……。楽しみ過ぎて、眠れなくって」
蒼「葵は小学生みたいで可愛いな」
葵「それって、褒めてるのかな?」
蒼「もちろん。じゃあ、行こうか」
葵「ちょ、ちょっと待って、お兄ちゃん!」
蒼「ん?」
葵「そのままで行くの?」
蒼「え? そのつもりだけど」
葵「ダメだよ! そのままなんて! ファンに……じゃなくて、今日は紫外線が強いから、サングラスしたら?」
蒼「あ、そ、そうだな。うん。ありがとう」
葵「……ふう」
葵(N)「お兄ちゃんは少し、アイドルとしての自覚が足りない……。私はいつも、そのことでドキドキしてばかりだ」
場面転換。
葵と蒼が楽しそうに過ごすシーン。
場面転換。
葵の部屋。
葵「あー! 今日はホント、楽しかったぁ! ……蒼くん。……私だけのお兄ちゃんの蒼くん。……ふふふ。最高」
葵「あ、そうだ。掲示板チェックしておくか」
パソコンを付ける葵。
葵「……え!?」
サイトの文字「今日、町でワールド・ブルーの蒼くん見た」
サイトの文字「マジ?」
サイトの文字「しかも、女の子と一緒に歩いてた」
サイトの文字「うっそ!」
サイトの文字「証拠の画像」
サイトの文字「ホントだ。サングラスしてるけど、絶対、蒼くんだ」
サイトの文字「まさか、彼女?」
サイトの文字「それは許されないよ!」
サイトの文字「私、明日、この写真持って事務所に凸してくる」
サイトの文字「それより、SNSに流した方がよくない?」
サイトの文字「隠れて彼女と付き合うなんて、裏切りだよ!」
葵「やばいやばいやばい! サングラスくらいじゃダメだったんだ……。このままじゃ蒼くんが……。あ、そうだ」
パソコンを打ち込む。
葵「待って! まだ、彼女と決まったわけじゃないんじゃない?」
サイトの文字「確かに」
サイトの文字「SNSに流すのは事務所に凸してからでも遅くないかもね」
葵「……どうしよう。私のせいで、蒼くんが……」
場面転換。
朝。葵の部屋。
葵(N)「全然、眠れなかった。でも、そんなことなんかどうでもいい。とにかく、なんとかしないと……」
場面転換。
事務所前。
葵「……とにかく、大騒ぎになる前に事務所に説明しないと」
場面転換。
部屋の一室。
ガチャリとドアが開いて、麗香が入ってくる。
麗香「待たせたわね」
葵「……いえ。こちらこそ、急に来てしまってすみません」
麗香「……蒼の妹さんだって?」
葵「はい。義理の、ですが」
麗香「それで、お話って?」
葵「この掲示板のことなんですけど」
スマホを麗香に見せる。
麗香「このサイトは?」
葵「ワールド・ブルーのファンクラブが秘密で情報をやり取りするための掲示板です」
麗香「じゃあ、オープンな情報ってわけじゃないのね?」
葵「はい。このサイトを知ってるのはごく限られたファンだけです」
麗香「それなら、この写真はまだ表に出ていないってことね」
葵「なので、この隣にいるのは私……妹だと説明してくれませんか?」
麗香「それは得策じゃないわね」
葵「え?」
麗香「それだと蒼の情報を出すということになるわ。そうなれば、あなたがいくら妹でも、血がつながってないということもバレる」
葵「……」
麗香「となると、邪推するファンも出てくるわ。そうなったら、彼女がいるのと変わらない……もしくはそれ以上のスキャンダルになる可能性があるわ」
葵「じゃあ、どうすれば……」
麗香「……」
葵「な、なんですか?」
麗香「私に考えがあるわ」
場面転換。
部屋の一室。
麗香「今日から彼女に、ワールド・ブルーのマネージャをやってもらうから」
豪「おー、やっとかぁ」
圭太「ずっと不在だったもんね」
葵「今日から、マネージャをやらせていただく、葵……澪です。よろしくお願いいたします」
蒼「……」
葵「(ごくり)」
回想。
葵「ええええー! 私がマネージャーですか?」
麗香「そう。マネージャーなら、取材のために同行してたと言えば、自然だわ」
葵「で、でも……蒼くん……お兄ちゃんに私だってバレちゃいますよ」
麗香「……ああ、そっか。蒼、家族に隠してるんだっけ?」
葵「はい」
麗香「余計な心配を家族にかけたくないって言ってたわね」
葵「なので……」
麗香「ふふふふ。その点は大丈夫よ。化粧すれば」
葵「いやいやいや。絶対、バレますよ」
麗香「甘いわね。化けてよそおうと書いて、化粧。完璧に別人に仕上げて見せるわ」
回想。
葵「ごくり」
蒼「よろしく、蒼さん」
葵(N)「ほっ。バレなかった……」
葵「よ、よろしくお願いいたします!」
場面転換。
ライブ会場。
ワールド・ブルーのメンバーが歌い、踊っている。
観客たちが歓声を上げる。
葵「……」
葵(N)「こうして私は、お兄ちゃんにバレないように蒼くんたちのマネージャーになった」
葵「近くにいられるのは嬉しいけど……ファンとして騒ぎたかったなぁ……」
終わり。