自分のために

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ゼクス
少年
キース

■台本

ドスという、杭が胸に深々と刺さる音。

キース「ぐあああああああ!」

ヴァンパイアが消滅する。

ゼクス「はあ、はあ、はあ……」

そこにエクソシストの少年が駆け寄ってくる。

少年「ゼクスさん、大丈夫ですか?」
ゼクス「ああ。全部かすり傷だ」
少年「……今回のヴァンパイアは強かったですね」
ゼクス「キースだ」
少年「え?」
ゼクス「彼の名前はキースだよ」
少年「……」
ゼクス「ヴァンパイアを名前で呼ぶのに違和感があるか?」
少年「……はい」
ゼクス「君だって、エクソシストと一括りで呼ばれるのは嫌だろう?」
少年「……訓練所では名前を呼ぶなと、そもそも名前を知る必要はないと教わりました」
ゼクス「蛆の一匹一匹に名前を付けないように」
少年「はい。そう習いました」
ゼクス「……なぜ、教会がそう教えるかわかるか?」
少年「え? えっと……ヴァンパイアは駆除対象ですから、わざわざ名前なんて知っても意味がない、ということなのではないですか?」
ゼクス「罪悪感に潰されないためだ」
少年「罪悪感……? どういうことですか?」
ゼクス「君は人を殺したことがあるか?」
少年「あ、あるわけないじゃないですか!?」
ゼクス「もし、殺すことになったとしたら……教会からそんな命令が出たら、どうする?」
少年「……とても悩むと思います」
ゼクス「その相手が極悪人だったとしたら?」
少年「それでも悩むと思います」
ゼクス「だろう?」
少年「人間とヴァンパイアは違います! 奴らは人間の敵で、駆除対象ですよ!」
ゼクス「同じだよ」
少年「……」
ゼクス「彼らにだって感情があり、愛があり、優しさもある」
少年「でも、人間を殺します」
ゼクス「人間だって同じさ。……人は人を殺す」
少年「ヴァンパイアとは人数が違います。人が人を殺す確率とヴァンパイアが人を殺す確率は全然違います」
ゼクス「そうだな。……彼らは生きるため、食べるために人を殺すんだ」
少年「人を捕食する時点で、人の敵です。敵に同情すれば、命を落としますよ」
ゼクス「ふふふ。君は優等生だな。訓練所でも成績が良かったんだろ?」
少年「首席で卒業しました」
ゼクス「ふふっ。そんな君を私に付けるだなんて、教会も随分と意地の悪いことをするものだ」
少年「……一つ、聞いていいですか?」
ゼクス「なんだ?」
少年「ゼクスさんはなんで、ヴァンパイアと戦っているんですか?」
ゼクス「……」
少年「ゼクスさんの話ぶりだと、ヴァンパイアを人として……いや、一個体として認識しているように感じます」
ゼクス「私が殺したヴァンパイアの名前は全員、覚えているよ」
少年「……そんなの辛くないですか?」
ゼクス「私は私の意志でヴァンパイアを殺している。私のエゴで、だ。それなのに、つらいなんて言うのはおこがましいと思わないか?」
少年「ゼクスさんはどうして、エクソシストになったんですか?」
ゼクス「私は子供の頃、ヴァンパイアと一緒に暮らしていた」
少年「え? そ、そんなことっ!?」
ゼクス「もちろん、当時は彼女がヴァンパイアだと知らなかった」
少年「……」
ゼクス「私は生まれてすぐに捨てられ、孤児院に拾われた。その施設には20人の子供が暮らしていた」
少年「その中にヴァンパイアがいたんですか?」
ゼクス「そうだ。そのときの院長が彼女のことを知っていて、裏で何とかしていたようだ」
少年「そんなの、犯罪ですよ!」
ゼクス「ああ。だから、院長は捕まって取り調べを受けた。……そして、食料が無くなった彼女は暴走した」
少年「……」
ゼクス「それでもギリギリまで我慢したんだろうな。だが、やがて限界が訪れる。彼女は空腹を満たすために、施設の人間全員を食い殺した」
少年「……全員」
ゼクス「いや、私以外の全員だな」
少年「……どうしてゼクスさんは助かったんですか?」
ゼクス「愛していたからだ」
少年「え?」
ゼクス「私と彼女は両想いだった。……まあ、子供の間の愛情だ。他愛のないものさ」
少年「……」
ゼクス「施設のみんなの死体の上で、血にまみれた彼女は言ったよ。『ゼクスくんだけは殺さない。愛してるから。だから、一緒に逃げよう』ってな」
少年「……ゼクスさんは、どうしたんですか?」
ゼクス「彼女を殺した」
少年「え?」
ゼクス「杭を胸に深々と刺してな」
少年「……ゼクスさんは愛してなかったんですか? 彼女を」
ゼクス「愛していたさ。とても。そして、今でも」
少年「……なら、どうして?」
ゼクス「だからさ。私は彼女にこれ以上、人を殺してほしくなかったんだ。愛する人が人間を殺すなんて耐えられなかった」
少年「……でも、それって」
ゼクス「はは。言っただろ? 私は自分のエゴでヴァンパイアを殺しているって」
少年「……」
ゼクス「私が戦う理由は、人が殺されて欲しくないし、ヴァンパイアも人を殺してほしくない」
少年「でも、ヴァンパイアは生きていくために人を殺すしかないんですよね」
ゼクス「だから、ヴァンパイアを殺すしかないんだ」
少年「……」
ゼクス「すべては私のエゴさ。だから、私は今まで殺してきたヴァンパイアをすべて覚えている。……それくらいしないと彼らに失礼……いや、それも私の自己満足でしかない」
少年「……」
ゼクス「君は私を見習わなくていい。……いや、見習うべきではない。ヴァンパイアをヴァンパイアとして殺すべきだ」
少年「……なぜ、話してくれたんですか?」
ゼクス「それも自己満足なんだろうな。懺悔することで……自分の行いを正当化することで、心を保ちたかったのかもしれない」
少年「……」
ゼクス「話を聞いてくれて、ありがとう。忘れてくれると嬉しい」

ゼクスが歩き出す。

ゼクス「きっと私はいつかヴァンパイアに殺してもらいたのかもしれない」
少年「え?」
ゼクス「そのときは、君が私の仇……いや、駆除対象として始末してくれ」
少年「……」

スタスタと歩き続けるゼクス。

終わり。

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