私は名探偵 7話
- 2023.01.15
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
ライリー
ティーナ
ギル
■台本
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている。……はずなのだが」
パーティー会場。
周りはザワザワとしている。
ティーナ「先生、ウーロン茶です」
ライリー「ありがとう」
ティーナ「でも、いいんですか? ウィスキーやワインもありましたよ」
ライリー「いいんだ。こんな時間から飲むのはどうも、な」
ティーナ「さすが先生! いつ、なんどき事件が起きるかわからないから飲まないというわけですね」
ライリー「……ティーナくん。私の話を聞いていたのか?」
ティーナ「はい! 勉強させてもらってます」
ライリー「……」
ティーナ「……あれ?」
ライリー「ん? どうかしたのか?」
ティーナ「あの人……どこかで」
ライリー「……あの人? ……ああ、ギル・ハワードだな」
ティーナ「ギル・ハワード? ……ギル・ハワード。あっ! 狂鎖殺人事件の!?」
ライリー「ああ。……あの事件は実に難解だった。もしかすると、私が担当した事件の中で、五指に入るほどかもしれん」
ティーナ「……なんで、あの人がここにいるんでしょう?」
ライリー「なんでって、呼ばれたからじゃないのか。このパーティーに」
ティーナ「いえ、そうではなく、なんで出てきてるんですかね」
ライリー「裁判で情状酌量が認められているからな。模範囚であれば、出所していても不思議ではない」
ティーナ「でも……先生を恨んでいるのでは?」
ライリー「……どうだろうな」
ティーナ「あ、こっちに気づいたようですよ。近づいてきます」
ギルが歩み寄ってくる。
ギル「どうも、ライリーさん。ご無沙汰してます。……俺のこと、覚えてますか?」
ライリー「もちろんだよ、ギル・ハワードくん」
ギル「覚えていてくださったんですね」
ティーナ「……」
ギル「ん? ああ、あなたは助手の人でしたね。俺になにか?」
ティーナ「あなたは先生のこと、恨んでないんですか?」
ライリー「ティーナくん」
ギル「ふふっ。そうですね。恨んでいるというより、悔しいという感情の方が正しいですね」
ティーナ「悔しい?」
ギル「まさか、あのトリックを見破られるとは思ってませんでしたからね。それほど、あのトリックには自信があったんです」
ライリー「……」
ギル「それを解いたライリーさんには、尊敬の意さえ感じています」
ティーナ「ええ。先生は凄いんです!」
ライリー「ティーナくん、空気を読みたまえ」
ギル「そういえば、ライリーさんは探偵を辞めたとか?」
ライリー「まあ、私も年だからね。引退したんだ」
ギル「……では、リベンジは難しいというわけですね」
ライリー「リベンジ?」
ギル「実は塀の中で渾身のトリックを思い浮かんだんですよ」
ティーナ「やっぱり! 犯罪者は犯罪者というわけですね」
ギル「……」
ライリー「止めなさい、ティーナくん」
ティーナ「ですが、先生。これは犯行予告です」
ギル「……」
ライリー「ギルくんは、そんなことしないさ」
ギル「っ!?」
ティーナ「どういうことですか?」
ライリー「落ち着き給え。ギルくんはトリックを思いついたと言っただけで、実行するとは言ってないだろう」
ティーナ「でも、リベンジしたいと……」
ライリー「いいかい、ギルくん。あの事件は本当にギリギリだった。いや、運が私に味方しただけだ」
ギル「……」
ライリー「あのとき、ほんの少し私の方に運が向かなければ、あの事件は解けなかった。だから、勝負としては君の勝ちだ」
ティーナ「そんなことありません! 事件を解決した先生の勝ちです!」
ライリー「ティーナくん。本当に空気読みたまえ」
ギル「……」
ライリー「ギルくん。私が言いたいのは、君は罪を犯して、それを償った。それだけだ。そもそも犯罪に勝負なんて、存在しないんだ」
ギル「っ!?」
ライリー「君が思いついたトリックというのはきっと凄いものだろう。だが、それを試したいがために犯罪を犯さないでほしい」
ティーナ「でも、犯罪を犯さなければトリックは使えません。まあ、使ったとしても先生ならサッと解いてしまうと思いますが」
ライリー「ティーナくん、煽るようなことを言うのはやめなさい」
ティーナ「……」
ライリー「ギルくん。君の頭脳は素晴らしい。だから、その才能を犯罪などに使わないでくれ」
ギル「……負けました」
ライリー「え?」
ギル「人間としても、あなたには完敗です」
ライリー「……」
ギル「では、俺はこれで失礼します」
ライリー「……ああ」
ギル「……リベンジ、してみたかったです」
歩き去っていくギル。
ティーナ「なんだったんですかね?」
ライリー「……」
場面転換。
ライリー「……」
バンとドアが開き、ティーナが入ってくる。
ティーナ「先生! この本のことですがっ!」
ライリー「ティーナくん。インターフォン……せめてノックをしてくれ。というより、どうやって私の家に入ってきたんだね?」
ティーナ「え? 合鍵でですが」
ライリー「……回収したはずだが?」
ティーナ「また作りました。助手ですから」
ライリー「……」
ティーナ「それより、先生、この本」
ライリー「流して欲しくない話題だが……まあいい。あの本なら、直接ギルくんから送られてきたよ」
ティーナ「まさか、推理小説にするなんて思いませんでしたね」
ライリー「犯罪を犯さず、トリックを実行する。実にいい考えだ」
ティーナ「ベストセラーらしいですよ」
ライリー「ほー、それは凄いな」
ティーナ「そういえば先生。あの日のパーティーのことなんですか……」
ライリー「なんだね?」
ティーナ「あの日、ギルはパーティーに呼ばれてなかったみたいです」
ライリー「……そうか」
ティーナ「なんのために来てたんですかね?」
ライリー「さあな。それより、本を読みたいのだが……」
ティーナ「じゃあ、コーヒーを淹れますね」
ライリー「いや、そうじゃなく……帰って……」
ティーナがキッチンの方へ向かっていく。
ライリー「はあ……。まるで自分の家のように振舞うな、ティーナくんは」
本を手に取る。
ライリー「さて。ギルくん。勝負だ」
本のページをめくるライリー。
ライリー(N)「私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。現在は探偵を引退し、毎日を気ままに過ごしている」
終わり。
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