魔王と勇者は忙しい7
- 2023.02.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
グドラス
魔王
村人1~2
■台本
魔王の城。
玉座の間。
グドラス「お呼びですか、魔王様」
魔王「……おお、来たか。グドラス」
グドラス「随分とお疲れのようですね」
魔王「……ん? ああ、まあな。ここ500年の中で一番疲れた」
グドラス「何をやってたのですか?」
魔王「これ、作ってたんだ」
魔王がノートをグドラスに渡す。
魔王「今回の侵略計画書」
グドラス「っ!? まさか、これを魔王様自ら書かれたのですか?」
魔王「ふふ。まあな」
グドラス「うう……」
魔王「なぜ、泣く?」
グドラス「ご立派になられましたな。いつもは無茶苦茶な命令をするだけの、駄々っ子のようなことばかりされていたのに」
魔王「……お前、減俸な」
グドラス「褒めたのに、なぜ!?」
魔王「今回は気合を入れろよ。しっかりと計画書を読み込んでおくんだ。いいな?」
グドラス「承知しました」
ペラペラとページをめくるグドラス。
グドラス「あの……魔王様」
魔王「なんだ?」
グドラス「この計画書なのですが……」
魔王「ふふ。よくできてるだろう? 2日間徹夜して作ったのだ」
グドラス「我々、魔族側の動きを指定しているのは良いのですが、人間側の動きも指定されてますが?」
魔王「それがどうした?」
グドラス「……いえ、その……。この通りに人間たちが動くとは限らないのでは?」
魔王「……そこは、あれだよ。……お前が何とかしろよ」
グドラス「いやいやいや。敵側の動きをこちらが決められるわけないじゃないですか」
魔王「優れた軍師は、敵の動きを読むと言うぞ」
グドラス「それはニュアンスが違いますし、そもそも、魔王様は優れた軍師ではなく、愚鈍な軍師ですよね?」
魔王「お前、今月の給料なしな」
グドラス「本当のことを言っただけなのにっ!?」
魔王「と、とにかく、その計画書通りにやれ! これは命令だ!」
グドラス「ですが、その、台詞まで書かれてるのはさすがに無理です。これは計画書というより、台本です」
魔王「……」
グドラス「しかも、勇者の台詞まで書いてますが、勇者が現れるかもわかりません」
魔王「あ、それは大丈夫」
グドラス「なぜですか?」
魔王「そりゃ、お前……。あれだよ。来るって言ってたんだよ」
グドラス「……勇者がですか?」
魔王「そう」
グドラス「えーと、それはいつですか? というより、魔王様、勇者と話したことがあるのですか?」
魔王「あー、いや、あれだよ。面倒くさいな。ビビッと来たの! 絶対来るから!」
グドラス「ですが」
魔王「うるさいうるさいうるさい! 俺は疲れてんの! もう寝るから!」
グドラス「あっ、魔王様!」
魔王がツカツカと歩いて行ってしまう。
グドラス「はあ……。どうしたものか……」
場面転換。
村の広場。
村人1「魔王軍が攻めてくるって、大変じゃないですか!? すぐに逃げる準備を……」
グドラス「大丈夫だ。落ち着いてくれ」
村人1「ですけど……」
村人2「グドラスさん、なにか策でもあるのかい?」
グドラス「うむ。実はこういうものを手に入れた」
村人1「……魔王軍侵略計画書?」
グドラス「そうだ。ここには魔王軍がどう攻めてくるのかが事細かく記されている。これを逆手に取れば、撃退できるはずだ」
村人2「さすがグドラスさんだ。まさか、そんな凄い物を手に入れるなんて……」
村人たちがページをペラペラとめくる。
村人2「あの……グドラスさん」
グドラス「なんだ?」
村人2「これ、台詞とかも書いてあるんだけど。しかも村人1とかの指定が……」
グドラス「はあ……。そうなのだ。これを書いたのは無能で馬鹿でどうしようもない奴なんだ。だが、だからこそ、裏がかけるというものだ」
村人2「ほおー。さすがグドラスさんだ」
グドラス「ということで、お前たちはこの計画書通りに動いてくれ。もちろん、台詞もそのまま言うんだ」
村人2「それだと、村が潰されるんじゃないかい? これ、侵略計画書だろ?」
グドラス「……はあ。最後まで読んで見ろ」
村人1「え?」
ペラペラとページをめくる村人たち。
村人2「……これって」
グドラス「ああ。計画書の内容では、魔王軍の侵略は失敗する、つまり勇者が勝つという内容になっている」
村人1「あの、これって、『魔王軍の』計画書ですよね? なんで、魔王軍が負ける結果になってるんですか?」
グドラス「……知らん。あの馬鹿の思考がどうなってるのかなんて、千年かかってもわかる訳がない」
村人1「あの……ただ、ここには勇者が来ることが前提で書かれてますが、来なかったら終わりなのではないでしょうか?」
グドラス「……その点は大丈夫だ」
村人1「といいますと?」
グドラス「……呼んでおいた」
村人2「おおお! さすがグドラスさん! まさか、勇者と話が通ってるなんて」
グドラス「と、とにかく、お前らはなにも心配することなく、その台本……計画書に沿って行動するんだ。いいな?」
村人1「わかりました」
場面転換。
魔王軍が侵攻している。
ドドドという魔物たちの足音が響く。
グドラス(N)「負けるために進軍するというのも、妙な感じだな。とはいえ、そっちの方が私にとっては都合がいいのだが……。あとは、勇者が来るかどうかだな。まあ、来なかったら、計画通りにいかなかったということで引き返すか」
グドラス「よし、そろそろ、人間たちの村だ。各々、計画書通りに動けよ!」
村の入り口まで進んだ時、村の中がザワザワとしているのに気づくグドラス。
グドラス「ん? なんだ? 人間たちがなんか騒がしいな。台本ではそんなことは書かれていなかったのだが……。まあ、いい。とにかく、台本通りに行くか」
魔王軍の侵攻がピタリと止まる。
村人1「……なんで、こんなところに?」
村人2「どうする、こんなこと台本にはなかったぞ」
村人1「それより、勇者はどこだ? 勇者が着てないぞ!」
グドラス「愚かなる人間共よ! 今日こそは滅んでもらうぞ!」
魔王「……ふふふふ! 愚かなのは貴様らの方だ、魔王軍。ソフィアちゃんのために死んでくれ」
グドラス「……あの」
魔王「ん? なんだよ?」
グドラス「なんで、こんなところにいるのですか?」
魔王「……なにが?」
グドラス「なぜ、魔王様が人間の村にいるのですか?」
魔王「……は? 魔王?」
村人1「うわあああ! やっぱり、魔王だったのか!?」
村人2「こんなの台本にはなかったぞ!」
魔王「しまった! 疲れて寝ぼけてたせいで、変装するの忘れてた!」
グドラス「……あの?」
魔王「あー、えっと、これはあれだよ、侵入捜査ってやつだ」
グドラス「そんなことは計画書にはなかったと思うのですが?」
魔王「うるさい! 俺は、もう帰る! さらばだ!」
ドロンと消えてしまう魔王。
村人1「あっ! 消えた」
グドラス「はあ……。一体、なんなんだ」
場面転換。
廊下を歩く魔王。
魔王「あー、くそ。やっぱ2日連続で徹夜はヤバいな。頭が働かねー。……と、そろそろグドラスが文句を言いに来る頃か。変装から戻らないと」
ドロンと音を立てて姿を変える魔王。
同時にドアが開く。
グドラス「魔王様。計画書について……」
魔王「ご苦労だったな、グドラス」
グドラス「……なっ!」
魔王「どうした?」
グドラス「おのれ、勇者! いつの間に城に!」
魔王「しまった! 頭がボケてて、どっちがどっちかわからなくなってた!」
グドラス「ここであったが100年目! 覚悟しろ!」
魔王「くそ! さらばだ!」
ドロンと音を立てて逃げる魔王。
グドラス「……一体、なんなんだ。はあ……」
終わり。