少し怖い花咲かじいさん

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■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、童話、シリアス

■キャスト
耕三(こうぞう)
十蔵(じゅうぞう)
梅(うめ)
村人1~2
男性
女性

■台本

家の中。

耕三「はあ……」
梅「どうしたんだい、じいさん。ため息なんてついて」
耕三「三丁目の為吉(ためきち)の倅が亡くなったんだよ」
梅「え? どうしてだい?」
耕三「餓死だってさ」
梅「……まだ、5歳だってのに」
耕三「もう、この村も終わりだな。……いや、村の桜が枯れた始めた時に、もう終わっていたのかもしれないな」
梅「旅人が全く来なくなりましたからね」
耕三「桜は村の名物。それを見に来る客に頼った政策をしたのが間違いだったのかもな」
梅「でも、観光に頼らなかったら、とっくにこの村は立ち行かなくなってたんじゃないのかい?」
耕三「まあ、な。農作物もほとんど採れんし、特産品と呼べるものもない」
梅「桜が唯一、誇れるものだったからねぇ」
耕三「若ければ、違う村でやり直すっていう手もあるだろうが、この年じゃなぁ」
梅「そうねぇ」

そのとき、外から犬の吠える声が聞こえる。

梅「あら、犬なんて珍しいわね」
耕三「野良犬かな?」

ドアを開ける耕三。
犬の鳴き声。

耕三「ほう、真っ白な犬か。可愛いな」
梅「……飼うのかい? 自分たちが食うのも困ってるのに」
耕三「……家畜として飼おうか」
梅「……私は嫌だからね。捌くのはじいさんがやってよ」
耕三「ああ」
梅「なら、いいけど……」

犬の鳴き声。

耕三「ふふ。よかったな。飼ってもいいってさ」

場面転換。
村の中をシロと一緒に散歩している耕三。
犬の鳴き声。

村人1「お? 耕三さん、犬を飼ったのかい?」
耕三「ああ。シロっていうんだ。可愛いだろ?」
十蔵「けっ! 食べるために飼ってるんだろ? 美味そうじゃないか」
耕三「……」
村人1「おいおい。十蔵さん、滅多なこというんじゃないよ」
十蔵「ふん。そうに決まってる。だろ?」
耕三「……」

スタスタと歩く耕三。

場面転換。
散歩している耕三とシロ。

耕三「シロ。ここが桜並木だよ。……今は枯れてしまったけどな。でも、綺麗だったんだ」

シロの鳴き声。

耕三「なんで枯れてしまったんだろうか。昔はたくさんの旅人が村に訪れてたんだよ。本当にたくさんの人がね」

シロが激しく鳴き始める。

耕三「ん? どうしたんだ、シロ?」

さらに激しく鳴くシロ。
そして、木の根を掘り始める。

耕三「どうしたんだ、シロ? そんなところを掘って……」

掘り続けるシロ。

耕三「……ここを掘りたいのか? なんだかわからんが、手伝ってやろう」

場面転換。
鍬でザクザクと土を掘る耕三。

耕三「ほっ! ほっ! ほっ! シロ、まだか? まだ掘るのか?」

シロが吠える。
そのとき、ガキンと金属音が響く。

耕三「ん? なんだ、今の音は?」

鍬を置いて、手で土を掘る。

耕三「……これは、小判と丁銀(ちょうぎん)?」

場面転換。
家の前で炊き出しをやっている耕三と梅。
そこに大勢の村人たちが集まっている。

耕三「どうぞ、おにぎりだよ」
村人1「いいのかい? 白飯なんてずいぶんと久しぶりだよ」
耕三「困ったときはお互い様だよ」
村人2「いやいや。困ってるのは耕三さんたちもだろ?」
耕三「それが、そうでもないんだ」
村人1「というと?」
耕三「ぜーんぶ、シロのおかげさ。な?」

シロが吠える。

場面転換。
庭。
シロと戯れている耕三。

耕三「ははは。よかったな、シロ。これで食べられなくて済むぞ」
梅「最初から食べる気なかったくせに」
耕三「ああ言わないと飼うの反対してただろ?」
梅「……まあ、ね」
耕三「シロ。お前は自分の食い扶持以上の働きをしたんだ。これからは堂々と、ご飯を要望していいんだからな」

シロが吠える。

梅「それにしても、シロが財宝を掘り当てるなんて、凄いわね」
耕三「そうなんだ。桜並木の中心あたりの木の根元だったんだがね」
梅「誰が埋めたのかしら?」
耕三「んー。もしかしたら誰かの隠し財産だったのかも」
梅「ええ?」
耕三「昔はたくさん旅人が来てただろ?」
梅「でも、いろんな人が通るところに隠すかね?」
耕三「意外と盲点かもな。現に、シロが掘るまで誰も掘ろうとしなかったわけだし」
梅「そうねぇ」
耕三「シロはもしかしたら、財宝を探り当てる鼻を持ってるのかもな」

シロが吠える。

十蔵「……」

会話を聞き耳を立てている十蔵。

場面転換。
庭に降り立つ十蔵。

十蔵「よし、耕三たちはいないな」

シロが吠える。

十蔵「お前、財宝を探り当てるそうだな。俺のために、もう一回、掘り当ててくれよ」

シロが吠える。

十蔵「うるせえ! いいから来い!」

シロを蹴り上げる十蔵。

場面転換。
シロを連れている十蔵。

十蔵「おら! 早く、探り当てろよ!」

シロがキューンと鳴く。

十蔵「いいから、早くしろ!」

もう一度、蹴り上げる十蔵。
シロがキューと鳴き、地面を掘り始める。

十蔵「お? そこか? そこに財宝があるんだな?」

場面転換。
ザクザクと土を掘る十蔵。

十蔵「……なっ! なんだ、これは? 肥溜めを埋めた立てた場所じゃねーか。汚いな!」

シロが吠える。

十蔵「えーい! この馬鹿犬が!」

思わず鍬でシロを殴りつける十蔵。
シロがギャンと鳴き、死んでしまう。

十蔵「しまった! ……殺しちまった。ヤバいな。……そうだ。埋めちまおう。……バレないように桜並木のところにな」

場面転換。
村中を歩いている耕三。

耕三「シロ! シロ! どこだい!?」
村人1「どうしたんだい?」
耕三「シロがいなくなったんだ、見てないかい?」
村人1「……そういえば十蔵さんが連れてたような」
耕三「え?」

場面転換。
十蔵の家。

十蔵「悪いな。逃げちまったよ」
耕三「そんな!」
十蔵「まあ、腹減ったら帰って来るんじゃないないか?」
耕三「なんで、連れだしたりしたんだ!」
十蔵「違う違う! 逃げだしてたのを捕まえたんだ。で、返そうと思ったら、また逃げちまったんだよ」
耕三「そんなの嘘だ!」
十蔵「帰りたくなかったみたいだぞ。まあ、元々は野良だったわけだし。森に帰った方が幸せだろ」
耕三「……」

場面転換。
村の中。

耕三「シロー! シロ―!」
村人1「耕三さん、今日もやってるよ」
村人2「いなくなって1年だろ? 相当可愛がってたんだもんな」

その後ろを十蔵が通る。

村人1「あれ? 十蔵さん、今日も行くのかい?」
十蔵「ああ」

歩き去る十蔵。

村人2「まったく、十蔵さんも1年前から俺も財宝を見つけるって言って、あっちこっち穴掘ってばかりだよ」
村人1「いい加減に諦めればいいのに」

場面転換。
桜並木を歩く耕三。

耕三「うう……。シロ。シロ。今、幸せに暮らしてるんだろ? 顔だけでも見せておくれ」

ピタリと足を止める耕三。

耕三「ん? なんで、この木だけ、桜が咲いているんだ? ……ま、まさか」

耕三が土を掘り始める。
すると。

耕三「こ、これは……シロのシロの……。うう、うわーーー!」

場面転換。
村の外れ。
ザクザクと土を掘っている十蔵。

十蔵「くそ。またダメか。……ついカッとなって、あの犬を殺さなけりゃ、今頃、俺も大金持ちだったのによぉ」

そこに現れる耕三。

耕三「シロのことか?」
十蔵「へ? あ、耕三」
耕三「カッとなって殺したのはお前だな?」
十蔵「ちょっと待ってくれよ。犬一匹くらい大したことないだろ? どうせ食べるつもりだったんだから」
耕三「……」
十蔵「あー、ごめんごめん。死体をお前に渡せばよかったな。食えなくて残念だったな」
耕三「……」
十蔵「え? おい、止めろ! うわー!」

耕三が鍬で十蔵の頭を打ち、殺してしまう。

場面転換。
ザクザクと土を掘っている耕三。

場面転換。
桜並木に人が行き交う。

男性「いやー、見事な桜だな」
女性「綺麗ねー」
男性「この村の桜って、一時期、咲かなくなってたんだってよ」
女性「そうなの?」
男性「なんでも、金属が埋められてて、その影響で枯れそうになってたとかなんとか聞いたぞ」
女性「ふーん。そうなんだ? それなら、私も噂を1つ知ってるよ」
男性「なんだ?」
女性「この桜がこんなに綺麗なのは養分がいいからなんだって」
男性「養分って、いい肥料使ってるとか?」
女性「ううん。人間の死体が埋まってるらしいよ」
男性「……え? まさか」
女性「あははは。そんなわけないよね」
男性「あはははは」

そのとき、犬の鳴き声聞こえる。

男性「あれ? 今、犬の鳴き声聞こえなかったか?」
女性「え? そう? でも、犬なんていないよね?」
男性「そうだな。……聞き違いかな?」

桜並木の道は大勢の観光客でにぎわっている。

終わり。

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