エゴの果てに

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■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
ギルバート
モニカ
助手

貴族

■台本

ギルバートとモニカが8歳の頃。
山道を走り回っている。

ギルバート「モニカ、早く来いよ」
モニカ「ギル、待って!」

頂上まで登り切るギルバート。

ギルバート「よっしゃ、間に合った!」

モニカが息を切らせて、追いつく。

モニカ「はあ、はあ、はあ……。もう、なんでそんなに急がなきゃならなかったのよ」
ギルバート「見ろよ、モニカ」
モニカ「あ、夕日……」
ギルバート「凄いだろ? この高台からだと、夕日が町を照らして、綺麗なんだよ」
モニカ「ホントだ。キラキラしてる」
ギルバート「な? 来てよかっただろ?」
モニカ「うん。……でも」
ギルバート「ん?」
モニカ「もっと早く来れば、山道を走らなくてよかったんじゃない?」
ギルバート「うっ!」
モニカ「あははは。冗談だよ、冗談」
ギルバート「けどさ、すげえよな」
モニカ「なにが?」
ギルバート「10年前までは、焼き野原だったんだろ?」
モニカ「うん。そうみたいだね」
ギルバート「邪龍ガハルードか……」
モニカ「20年ごとにやってきて、町を破壊するんでしょ?」
ギルバート「そうみたいだな」
モニカ「怖いね」
ギルバート「はは。今度、やってきたら俺が倒してやるぜ」
モニカ「えー、でも、ギルって喧嘩弱いじゃん」
ギルバート「うっ!」
モニカ「ギルは戦わなくていいよ」
ギルバート「これから特訓して、強くなるからいいんだよ!」
モニカ「ふふふ。この前も特訓、3日坊主だったよね」
ギルバート「うっ!」
モニカ「あっ!」
ギルバート「どうした?」
モニカ「あれ、燈火(とうか)の花」
ギルバート「へー。珍しいな、こんなところに咲いてるなんて」
モニカ「ねえ、取っていかない?」
ギルバート「やめとけよ。あんな高いところにあるんだから、危ないって」
モニカ「えー。燈火の花ってどんな傷でも治すんでしょ? 持って帰ろうよ」
ギルバート「それで怪我したら意味ねーだろ」
モニカ「大丈夫だよ」

モニカが岸壁を登り始める。

ギルバート「お、おい! 危ないって」
モニカ「大丈夫、大丈夫」

登っている間に、岸壁が崩れる。

モニカ「きゃあっ!」
ギルバート「モニカ!」

場面転換。
病院。

モニカ「……」
ギルバート「モニカ。ごめん……」
モニカ「……なんで、ギルが謝るのよ」
ギルバート「モニカ! 大丈夫か!?」
モニカ「あはは……体中、痛いよ……」
ギルバート「……無理するな」
モニカ「……私の身体、傷だらけになっちゃった」
ギルバート「……」
モニカ「ねえ、もし、誰もお嫁さんに貰ってくれなかったら、ギルが貰ってくれる?」
ギルバート「ああ……」
モニカ「あはは。冗談だよ、冗談」
ギルバート「……今度は」
モニカ「え?」
ギルバート「もし、今度、お前が怪我したときは、俺が完璧に治してやるよ」
モニカ「それって、お医者さんになるってこと?」
ギルバート「ああ」
モニカ「あはは。勉強、3日坊主になるんじゃない?」
ギルバート「……今度はならねーよ」
モニカ「うっ! うう……ああっ!」
ギルバート「モニカ!?」
モニカ「痛い、痛いよ、ギル」
ギルバート「モニカ! モニカ!」
モニカ「……死にたくないよ、ギル」
ギルバート「大丈夫だ、死なないよ」
モニカ「ギル……ギル……」
ギルバート「モニカ! モニカーー!?」

場面転換。
10年後。
手術をしているギルバート。

ギルバート「よし、神経がつながった。あとは縫合して終わりだ」

周りから歓声が上がる。

場面転換。
廊下を歩くギルバートの元に助手が走り寄ってくる。

助手「さすがギルバート先生ですね。見事な手術でした」
ギルバート「お世辞はいいよ」
助手「お世辞だなんて……。先生の腕は王都の医師よりも上という噂ですよ」
ギルバート「俺なんて、まだまだだよ」

場面転換。
モニカの墓の前。

ギルバート「あれから10年か。……モニカ。俺、いつも思うんだ。今の俺なら、あのとき、お前を助けられたのかなって」

風がヒューと吹く。

ギルバート「こんなこと考えるだけ無駄だってわかってる。けど、そればかり考えちまうんだ」

そのとき、空から咆哮が響く。

ギルバート「なんだ?」

遠くから轟音が響いてくる。

ギルバート「龍? まさか、ガハルードか!?」

場面転換。
病院内。ギルバートが走ってくる。

助手「ギルバート先生!」
ギルバート「怪我人の数は?」
助手「今のところ、100人ほど運ばれてきてます」
ギルバート「よし、君が担当割り振りをしてくれ。怪我が酷い人から俺のところへ」
助手「わかりました」

そこに貴族らしき男がやってくる。

貴族「あなたが、ご高名なギルバート氏ですか?」
ギルバート「申し訳ありません。今、忙しいので後にしてくれますか?」
貴族「あなたにお願いしたい患者がいます」
ギルバート「順番はこちらで決めます」
貴族「いえ、こちらを優先してもらいましょう」
ギルバート「なにを……?」
貴族「国王からの勅諚(ちょくじょう)です」
ギルバート「……誰を手術すればいいんですか?」
貴族「あなたは何も知らなくていい。ただ、治療してくれれば、それでいいんです」
ギルバート「……」

場面転換。
手術室。

ギルバート「それでは手術を始める」
助手「酷い傷ですね。全身が傷だらけ……」
ギルバート「……ああ。だが、絶対に助ける」
助手「……何者なんでしょうね。この女性」
ギルバート「今は手術に集中しよう」
助手「はい」

場面転換。
3時間後。

ギルバート「……」
助手「先生、患者の呼吸が弱まってます」
ギルバート「くっ!」
助手「もう、ダメです」
ギルバート「諦めるな!」
助手「は、はい!」
ギルバート「(つぶやくように)モニカ。今度は俺が絶対に助けるからな」

場面転換。
さらに2時間後。

助手「先生! 患者が持ち直しました」
ギルバート「……ふう。ここまでくればもう大丈夫だ」
助手「うう……。感動しました。まさしく奇跡です」
ギルバート「大げさだよ」

ふーと一息つくギルバート。

ギルバート「……モニカ。今度は助けることができたよ」

場面転換。
町中を歩くギルバート。

男「号外号外! 町を襲った邪龍が封印されたぞ!」
ギルバート「……1部、くれるか?」
男「おう!」

一枚の紙をギルバートに渡す。

ギルバート「……え?」

場面転換。
病院。椅子に座っているギルバート。

ギルバート「……」
助手「先生……」
ギルバート「見たか?」
助手「はい。……彼女、封印のための巫女だったんですね」
ギルバート「……ただの生贄だよ」
助手「……」
ギルバート「俺は彼女を龍に食わせるために助けたのか? 殺されるために命を救ったのか?」
助手「ですが……そのおかげで大勢の人の命が救われました」
ギルバート「……そんなのは」

立ち上がり、歩き出すギルバート。

助手「先生、どこに行かれるんですか?」
ギルバート「……」

場面転換。
モニカの墓の前。

ギルバート「……モニカ。俺はずっとお前を助けたいと思って腕を磨いてきた。けど……これって意味があったのかな? もし、あのとき、お前の命を助けることができたとしても、きっと障害を負ったはずだ。……それでもお前は生きたいって思ってくれたんだろうか?」

ヒューと風が吹く。

ギルバート「けど、俺はお前に生きてて欲しかった。どんな障害を負っても、生きて欲しかったんだ。……あの巫女は、生きたかったんだろうか? 殺されるために命を助けた俺をどう思ってるんだろうな……」

空を仰ぎ見るギルバート。

ギルバート「けど、俺は進み続けるしかない。人を救うっていうエゴを……」

終わり。

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