【声劇台本】譲れない正義

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
旭(あさひ)
母親
その他

■台本

ピッピッピッピという心電図の音。

段々と弱弱しくなり、ピーと音を立てる。

医師「……ご臨終です」

旭「う、うう……おばあちゃーん!」

旭(N)「世界的にまん延した感染症。ニュースで見ていた時は、他人事のようで現実味がなかった。だけど、身内が感染しすれば話は別だ。大好きなおばあちゃん。大切な人を奪っていったこのウイルスを、僕は許すことはできなさそうだ」

場面転換。

旭の部屋。

母親の声「旭? ねえ、旭!?」

ガバッと起き上がり、部屋のドアを開ける。

旭「そんなに大きな声出さなくても聞こえるって、母さん」

母親「ちょっと買い物行って来てくれない?」

旭「……気が乗らないんだけど」

母親「あのねえ。おばあちゃんが亡くなってショックなのはわかるけど、いつまでも引きずってても仕方ないでしょ」

旭「……」

母親「放っておいたら、あんた、一週間以上、外に出ないじゃない。無理にでも外に出て、気分を変えた方がいいわよ」

旭「外に出ると、感染リスクが高くなるから」

母親「はあ……。あのねえ、そんなこと言って、ずーっと家に閉じこもってるつもり? そんなんじゃ、おばあちゃんもあの世で安心できないんじゃないの?」

旭「……」

場面転換。

道路を歩く旭。

犬の吠える声が聞こえる。

中年男性「旭くん、こんにちは。久しぶりだね」

旭「……こんにちは」

中年男性「おばあちゃん、大変だったね」

旭「……」

犬の吠える声。

中年男性「こら、静かにしなさい」

旭「あの……マスク、しないんですか?」

中年男性「ん? ああ、いや、まあ……。僕らの年代はまだ重症化する確率は低いし、うちに高齢者はいないしさ」

旭「それでも、他の人に移さないようにマスクはした方がいいと思います」

中年男性「はは。まあ、そうだね。考えておくよ」

旭「……」

旭(N)「結局、この人は次の日も、その次の日も、マスクをすることはなかった。……いつも、犬の散歩で近くに来るから、おばあちゃんとも挨拶はする仲だった。……おばあちゃんが接した人間は限られていた。……もしかしたら、この人は無自覚で、感染してたとしたら……。それで、そのせいでおばあちゃんに感染したとしたら……。僕は絶対に許せない」

場面転換。

夜の道。周りは静かの中、歩く旭。

そして立ち止まると、犬が吠え始める。

旭「しー。君に、いいものを持ってきたよ」

容器にエサを入れる音と、それを地面に置く音。

旭「ほら、食べな」

犬が一度吠えてから、エサを食べ始める。

旭「……」

場面転換。

旭の家。

母親「旭、知ってる? いつも家の近くに犬の散歩で来るおじさん」

旭「うん」

母親「……なんか、急に犬が死んじゃったみたいなのよ。すごく落ち込んでて、見てられなかったわ」

旭「……少しは大切なものが奪われる気持ち、わかっただろ」

母親「え? なんか言った?」

旭「ううん。なんでもない」

母親「ああ、そういえば、三丁目の田代さんの旦那さん、退院してきたみたいね」

旭「退院?」

母親「あら、知らなかったの? 感染して入院してたみたいなのよ」

旭「へー」

母親「田代さんの家って、息子さんからクラスターになったみたいね。一家で感染するなんて、大変だったでしょうね」

旭「……」

場面転換。

夜の道を歩く旭。

旭(N)「田代っていう家の子供は大学生で、国が自粛を促していた中、キャンプに行って、感染している。こういうわがままな奴が感染を拡大させたんだ。……こいつがいなければ、おばあちゃんは感染しなかったかもしれない……」

立ち止まる旭。

スプレーを取り出し、プシューと壁に向かって吹き付ける。

場面転換。

道を歩く旭。

女性1「ねえ、聞いた? 田代さんの家のこと」

女性2「あれでしょ? 家にスプレーで、クラスター発生、責任取って出て行け、って書かれてたことでしょ?」

女性1「しかも、息子さんが感染したときの記事も貼られてたみたい。それで、近所の人たちがまた騒ぎ出したって話よ」

女性2「怖いわねー」

旭「……」

旭(N)「自業自得だ。自分勝手なことをして、周りに迷惑をかけるような奴は断崖されるべきだ」

ピタリと足を止める旭。

旭「……この車、他県ナンバーだ。県をまたいでの移動は止めろって言われてるのに……」

硬貨で、ギギギギギと傷をつける旭。

旭(N)「天誅」

場面転換。

中学生1「めっちゃウケるよな」

中学生2「でもさ、あいつ……」

パシュパシュとガス銃を撃つ音。

中学生1「痛いっ!」

中学生2「え? どしたの?」

パシュとガス銃を撃つ音。

中学生2「いがっ! 痛い! 血が出てる」

中学生1「おい、逃げるぞ」

二人が走り去っていく。

旭(N)「不要不急の外出な上に、マスクもしてない。当然、排除されるべきだ」

場面転換。

男1「ぎゃははははは」

女「お肉焼けたよー」

男2「うまそー! 食おうぜ食おうぜ!」

男1「酒ってどこに置いてたっけ?」

女「あー、車の中かも」

そのとき、缶が転がって来る。

男2「ん? なんだ? カン?」

そして、缶からシューっと音を立てる。

女「これって、ガスコンロのやつじゃない?」

突如、炎が上がる音。

男1「ぎゃああああ!」

女「きゃああああ!」

旭(N)「バーベキューに飲酒。絶対に許されることじゃない」

場面転換。

道路を歩く旭。

旭「……あ、あいつ、マスクしてない。罰が必要だな」

そのとき、後ろからバットを振る音と、ガンという大きな音が響く。

旭「あがっ!」

旭が倒れる。

青年1「おー、こいつ、こいつ! 噂の正義マン」

青年2「お前さ、うぜえよ」

旭「あ……が……」

青年1「別にいいじゃん。感染するのはそいつの責任なんだからさ」

青年2「それに、お前だって、不要不急の用事で外に出てんじゃん」

旭「ち、ちが……う。僕は……みんなの……ために……」

青年1「うっぜー! 自分のこと、正義だって信じちゃってるよ」

青年2「お前の正義、押し付けんな」

青年1「ま、俺たちが、勘違いした正義マンを成敗してやるよ! それが、俺たちの正義だ」

もう一度、バットで頭を殴られる。

旭「あがっ……あ……」

旭(N)「僕は単に、おばあちゃんみたいな人をこれ以上出したくなかっただけなんだ。みんなが気を付けていれば、おばあちゃんは感染することはなかった。僕はみんなのためにやってきたのに……。ねえ、おばあちゃん。僕、何か、間違ってたのかな?」

終わり。

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