君の声

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
英弘(えいこう)
衣茉莉(いまり)
正輝(まさき)
タレント1~3

■台本

ライブ会場。

衣茉莉「みんな、今日は来てくれてありがとー。最後まで楽しんでいってねー!」

ワーッと観客が盛り上がる。

英弘「うおおおおおおお! 衣茉莉ちゃーん!」

場面転換。
英弘の部屋。
テレビの番組が流れている。

英弘「いやー、最高だったぁ」
正輝「ふーん」

正輝は漫画を読んでいる。

英弘「やっぱさ、衣茉莉が一番だよな。最高のアイドルだと思うんだよ」
正輝「なるほどなー」
英弘「やっぱさー、笑顔が最高だよ。なんていうか、純真無垢なんだ。嘘をつかないっていうか、正直って言うか、そんなのが全身から伝わってくるんだよ」
正輝「やったじゃん」
英弘「……」
正輝「……」

ページをめくる正輝。

英弘「お前、真面目に聞けよ」
正輝「わかるわかる」
英弘「……」

パッと漫画を取り上げる英弘。

正輝「あっ! なにすんだよ、返せよ!」
英弘「お前さー、人ん家来て、ずっとマンガ読んでるってどうなんだよ」
正輝「はいはい。悪かったよ。で、なんだって? 衣茉莉が可愛いって話だっけ?」
英弘「そうそう。最高って話だよ」
正輝「もう、何回も聞いたよ」
英弘「もっと聞け!」

そのとき、テレビから衣茉莉の声が聞こえてくる。

衣茉莉の声「みんなー、よろしくねー」
英弘「む? 衣茉莉の声だ!」

テレビの画面内。

タレント1「すごい!」
タレント2「全然、わからなかった」
衣茉莉の声「こんにちは。衣茉莉です」
タレント1「えっと、衣茉莉ちゃんは何歳だっけ?」
衣茉莉の声「18歳ですよ」
タレント2「ホント凄いな」

そこに衣茉莉が登場する。

衣茉莉「っていうのがあるみたいなんです。みなさん、気を付けてくださいね」

ここまで。

正輝「おお、お前、完全にテレビの方見てなかったのによく、わかったな」
英弘「ふっふっふ。俺は衣茉莉の声なら完璧に聞き分けられるのだ。たとえ、どんなに小さくても、色々な人間の声に混じっていてもな」
正輝「へー、凄いな」
英弘「これこそ、愛の力だよ、愛の」
正輝「んー。キモイな」
英弘「なんでだよ!」

場面転換。
大学内。

英弘「聞いてくれ!」
正輝「うおっ! ビックリした! なんだよ」
英弘「……衣茉莉ちゃんの電話番号をゲットした」
正輝「は? いやいやいや、嘘つけよ」
英弘「マジだって。昨日、俺のスマホに連絡が来たんだよ」
正輝「……いや、なんでだよ。アイドルが一般オタクに連絡してくるわけねーだろ」
英弘「俺はただのオタクではない」
正輝「ああ、変態でオタクだもんな」
英弘「違う! 俺はファンクラブ1号だぞ! 誰よりも衣茉莉ちゃんを応援している俺に、やっと気づいてくれたんだ」
正輝「……ホントに、それ、衣茉莉ちゃんの番号なのか?」
英弘「マジだって。昨日も少し話したんだ」
正輝「……それ、なんかの詐欺なんじゃねーの?」
英弘「違うって。だって、ホントに衣茉莉ちゃんの声なんだって」
正輝「うーん……」
英弘「俺が衣茉莉ちゃんの声を聞き違えるわけないだろ」
正輝「まあ、それはそうだけどさー……」

場面転換。
英弘の部屋。
電話をしている英弘。

英弘「あ、あのさ、衣茉莉ちゃん」
衣茉莉「なあに?」
英弘「今日のお昼は何食べたの?」
衣茉莉「今日はねー、オムレツ」
英弘「オムレツかー。可愛いね」
衣茉莉「ありがとう」
英弘「そうだ。今度のライブなんだけど……」
衣茉莉「あ、そうそう」
英弘「え? なに?」
衣茉莉「今度、友達と遊びに行くんだけどさー」
英弘「うんうん」

場面転換。
大学の講義室。

英弘がやってきて、崩れるように机に倒れこむ。

英弘「うう……」
正輝「最近、随分と疲れてるな」
英弘「いや、バイト増やしてさ。ほとんど寝てねーんだよ」
正輝「あ? また増やしたのか。お前、死ぬぞ」
英弘「……なあ」
正輝「ん?」
英弘「金貸してくんね?」
正輝「……お前さ、最近、おかしいぞ。なんで、そんなにバイトしてて金がねーんだよ」
英弘「いや、それが……その……」
正輝「なんだよ。早く言え」
英弘「いや、ここじゃちょっと……」
正輝「しゃーない、お前んち行くぞ」

場面転換。
英弘の家。
BGM代わりにテレビが付いている。

正輝「はあ? 衣茉莉ちゃんに貢いでる?」
英弘「違うって。応援してるの!」
正輝「いや、金品送ってるって、十分、貢いでるだろ」
英弘「けど、本人から頼まれたら、断れねーって」
正輝「……あのさ、おかしいと思わないか?」
英弘「なにがだよ?」
正輝「普通、アイドルがファンから直接、金品をねだるか?」
英弘「それは……きっと俺がただのファンじゃなくて、特別だからだよ」
正輝「ホントに、それ、衣茉莉ちゃんのか?」
英弘「だーかーら! 俺が衣茉莉ちゃんの声を間違えるわけねーって」
正輝「……なあ、今、ちょっとかけてみてくれよ」
英弘「……いいよ。この時間だから出てくれるかわからないけど」

英弘が電話を掛ける。

衣茉莉「もしもし?」
英弘「あ、衣茉莉ちゃん?」
衣茉莉「どうしたの?」
英弘「いや、ちょっと話したくなってさ」
正輝「ちょっと、俺に代われ」
英弘「いや、それはちょっと……」

そのとき、テレビから衣茉莉の声が聞こえてくる。

衣茉莉「こんにちはー」
正輝「あれ? おい、今、テレビに衣茉莉ちゃんが出てるぞ」
英弘「ん? 録画だろ」
正輝「いや、これ、生放送」
英弘「……どういうことだ?」

テレビ番組内。

タレント3「今日は衣茉莉ちゃんのAIを使った詐欺が流行してるので、注意喚起しに来てくれたんですよね?」
衣茉莉「はい。そうです」
タレント3「衣茉莉ちゃんにそっくりな声で電話してくれるんですよね?」
衣茉莉「はい。でも、よく聞いてくれたら、機械だってわかると思います。ファンの方から、ファンなら絶対に引っかからないって言ってくれて」
タレント3「そうなんだ? 収録前に聞かせてもらったけど、そっくりだったけどなぁ」
衣茉莉「私からファンに電話することはありません。もし、かかってきたら、それは詐欺だと思います」

ここまで。

正輝「おい……」
英弘「……そんな」

テレビの番組内。

衣茉莉「おかしいと思ったら、相手に年を聞いてみてください。私、昨日で19歳になりましたので」

ここまで。

英弘「あ、あのさ、衣茉莉ちゃん」
衣茉莉「なあに?」
英弘「衣茉莉ちゃんて何歳だっけ?」
衣茉莉「18歳だよ」
英弘「……」

ブツッと電話を切る英弘。

正輝「お前の愛は……偽物だったみたいだな」
英弘「うわーーーん!」

英弘が崩れ落ちる。

終わり。

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