ブランコ
- 2023.03.22
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
奏汰(かなた)
芹那(せりな)
■台本
奏汰と芹那は8歳の声。
公園でブランコを漕いでいる奏汰と芹那。
奏汰は勢いよく漕ぐ。
奏汰「あはははは! それー!」
芹那「ちょっと、奏汰、危ないって!」
奏汰「どうだ、芹那! 凄いだろ!?」
芹那「ブランコ壊れても知らないわよ」
奏汰「はははははは!」
場面転換。
奏汰、28歳の声。
奏汰(N)「ブランコをどれだけ高く漕げるか。それに挑戦するだけで楽しかった。それだけで楽しむことができた」
場面転換。
奏汰と芹那は18歳の声。
2人がブランコに乗って普通に漕いでいる。
奏汰「あーあ。負けちまったなぁ」
芹那「全力でやったんでしょ?」
奏汰「もちろん」
芹那「なら、いいじゃない」
奏汰「……テニスを始めたときはさ、ボールを打つだけで楽しかったんだよな」
芹那「あんた、暗くなってもずーっと練習してたもんね」
奏汰「けど、いつの間にか勝つことが楽しくなったんだよな」
芹那「スポーツなんだもん。当たり前じゃない?」
奏汰「そりゃ、そうだけどさ……。ボールを打つことが好きだったら、負けてもこんなに悔しくなかったんじゃないかって思うんだよな」
芹那「でもさ、それだと勝ったときの嬉しさもわからないままだったんじゃない?」
奏汰「……」
芹那「……そういえばさ、あんた、やらなくなったよね」
奏汰「なにが?」
芹那「勢いよくブランコ漕ぐの」
奏汰「はははは。ガキじゃないんだから」
芹那「そうだよね。けど、なんでしなくなったんだっけ?」
奏汰「……うるさいな。そんな昔のことなんか覚えてねーよ」
場面転換。
奏汰と芹那は21歳の声。
2人はブランコに乗って、普通に漕いでいる。
奏汰「んー。世の中、甘くないもんだなぁ」
芹那「教授、惜しかったって言ってたよ」
奏汰「結局、留学できないんじゃ意味ないって」
芹那「でもさ、研究始めたのって、大学に入ってからでしょ?」
奏汰「そりゃそうだよ。それまでテニス漬けの生活だったんから」
芹那「3年でここまで研究進められたんだから、凄いって。他のみんななんか、高校の時から勉強してたって話だよ」
奏汰「……結局、テニスと同じだよな」
芹那「なにが?」
奏汰「やればやるほど、もっと先に進みたくなる」
芹那「悪いことじゃないと思うけど」
奏汰「けどさ、進めば進むほど、挫折した時、苦しいんだよ。やらなきゃよかったって」
芹那「……後悔してるの? 研究に没頭したこと」
奏汰「……正直、自分でもわからないんだ」
芹那「……」
奏汰「また、新しいこと、見つけないとな」
場面転換。
奏汰と芹那は28歳の声。
2人はブランコに乗って、普通に漕いでいる。
奏汰「……」
芹那「まだ迷ってるの?」
奏汰「急にアメリカって言われてもな……」
芹那「ずっと言ってたじゃない。本場で勉強したいって。そのために英語だって覚えたんでしょ?」
奏汰「……」
芹那「……せっかくのチャンスなんだよ?」
奏汰「怖いんだ」
芹那「怖い?」
奏汰「本場で勉強すれば、俺はもっと先に進みたくなる。そしたら、挫折したとき、辛くなるんだ。もうあんな思いは嫌なんだ」
芹那「……」
突然、芹那が勢いよくブランコを漕ぎ始める。
奏汰「お、おい、芹那、危ないって」
芹那「あははははは」
ドンドン勢いが増していく。
芹那「私、思い出したの」
奏汰「何がだ?」
芹那「あんたがこうやって、勢いよくブランコ漕ぐのを止めたの」
奏汰「……」
芹那「落ちそうになったんだよね?」
奏汰「……ああ。それで怖くなってやめた」
芹那「奏汰ってさ、ずっとそうだったんじゃない?」
奏汰「どういうことだ?」
芹那「怖くなって、ブランコから降りたんだよ」
奏汰「……」
芹那「テニスも研究も。途中で怖くなって、緩めた。だから、負けちゃったんじゃない?」
奏汰「……怪我してからじゃ遅いだろ」
芹那「……」
さらに加速させる芹那。
そして。
芹那「とりゃー!」
芹那がブランコから飛ぶ。
奏汰「ばか! あぶねっ!」
芹那「ほっ!」
芹那が無事に着地する。
芹那「あははは……。怖かった」
奏汰「……馬鹿か。怪我したらどうすんだ」
芹那「でもね、ドキドキして面白かった」
奏汰「……」
芹那「やってみないとわからないよ?」
奏汰「……そう、だな」
奏汰が勢いよくブランコを漕ぎ始める。
そして。
奏汰「そりゃ!」
奏汰がブランコから飛ぶ。
が……。
奏汰「いでっ!」
盛大に転ぶ。
芹那「あー……」
奏汰「おい、芹那。痛いぞ」
芹那「うん。そりゃ、転ぶときもあるよ」
奏汰「お前なぁ」
芹那「でもさ、ドキドキしなかった? 飛んだ時」
奏汰「……した」
芹那「今度はさ、きっとうまく着地できるよ」
奏汰「……ありがとな」
芹那「どういたしまして」
奏汰(N)「数ヶ月後。俺はアメリカへと旅立った。あの日、ブランコから飛んだときのドキドキと興奮を胸に抱いて」
終わり。
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