昔のことは水に流して

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
高倉 健斗(たかくら けんと)
笹山 皇幹(ささやま こうき)
常務
宮本
男子生徒

■台本

校内。
健斗(17)が皇幹(17)に虐められている。

健斗「う、うう……」
皇幹「おいおい、健斗。男が簡単に泣くんじゃねーよ。ただ、フリチンになっただけだろ」
男子生徒「ぎゃははは」
健斗「ズボン、返してよ……」
皇幹「よし、このまま踊れ!」
健斗「え? や、やだよ」
皇幹「うるせー! このまま女子の前に引きずり出されてーか?」
健斗「う、うう……」

健斗が踊り始める。

皇幹・男子生徒「ぎゃははははははは」

健斗(N)「俺は高校の3年間、ずっと笹山皇幹に虐められて過ごした。不登校になろうかとも考えた。でも、俺は虐めに負けたくなかった。だから、虐められつつも、俺は必死に勉強して、有名な大学に入ったのだ」

場面転換。
時間経過。社内。
健斗(32)がパソコンを打っている。
そこに宮本(29)がやってくる。

宮本「部長。資料出来ました。確認をお願いします」
健斗「わかった。どれどれ」

健斗が手を止めて資料を受け取り見る。

健斗「……ふんふん。いいね。よくまとまってる」
宮本「本当ですか?」
健斗「ああ。けど、ここにデメリットの方も書いておいて」
宮本「え? でも、それだと……」
健斗「断られる、か? いや、実はそんなことないんだ。逆にメリットだけしかない方が、胡散臭く見えるものさ」
宮本「でも、その……」
健斗「はは。不安になるのもわかる。そういう場合は、デメリットを提示したうえで、そのデメリットよりもメリットがあると説明するんだ」
宮本「ああ! なるほど!」
健斗「それに、デメリットを伝えてないと、後から話が違うっていうことにもなりかねないからな」
宮本「ありがとうございます。修正します」
健斗「ああ。資料自体はきっちり纏まってる。頑張れよ」
宮本「ありがとうございます!」

宮本が自席に戻っていく。
再び、健斗がパソコンを打ち始める。
そこに常務がやってくる。

常務「高倉部長、ちょっといいかな?」

手を止めて、振り返る健斗。

健斗「あ、常務。なんでしょうか?」
常務「すまない。ちょっと、話があるんだ」

場面転換。
休憩室。

健斗「人員補充……ですか? でもうちは十分、人は足りてますよ?」
常務「ああ。わかってる。だからさ」
健斗「というと?」
常務「厄介そうな人間を一人、引き取って欲しいんだ」
健斗「……どこの部署の人ですか?」
常務「……それがこれから入社するやつなんだよ」
健斗「……」
常務「いやあ、社長が昔の知り合いと飲みに行ったらしいんだよ。その席で、その知り合いの息子が、引きこもりのニートをしてるらしい」
健斗「……もしかして、その人を、コネで入社させる……と?」
常務「酒の席だったから、酔ってオッケーしちゃったらしんだよ」
健斗「……あー、なるほど」
常務「別に気をつかわんくていいらしい。お得意先ってわけでもないしな。まあ、いい人材だったら、ラッキーくらいに考えててくれ」
健斗「でも、ニートだったんですよね?」
常務「……はは。まあ、いい感じで頼む」
健斗「……わかりました」

場面転換。
社内。

皇幹「うーっす。笹山皇幹っす。今日から、よろしくお願いしまーっす」
健斗「……」

健斗(N)「驚いた。うちの部署に入って来た、ニートの人間というのは、あの、皇幹だったのだ」

皇幹「……ん? あれ? あー! 健チンじゃん! おおー! なに? お前、ここの会社だったの?」
健斗「……」
宮本「部長……。知り合いですか?」
健斗「あー、いや、その……」
皇幹「同級生だよ、どーきゅーせー! 高校の時の。な? 健チン?」
健斗「……あのね、笹山くん。ここは学校じゃないんだ。その呼び方は止めてくれ」
皇幹「はあ? 健チンのくせに生意気だな」
健斗「……」
常務「……笹山くん。これ以上、お父さんの顔に泥を塗らない方がいいと思うけどな。初日でクビになりたくないだろ? 君はまだ採用期間なんだ」
皇幹「……す、すいませんでした」

場面転換。
社内の廊下を歩く健斗。

健斗「……はあ」

そこに皇幹が走ってくる。

皇幹「健チン! ……じゃなかった、部長」
健斗「なに?」
皇幹「あ、あのさ……。その、高校の時のことは、えっと、悪かったよ。謝る。だからさ、昔のことは水に流してくれないか? 俺、今まで親父に迷惑かけたからさ、この会社でやり直したいんだよ」
健斗「……わかってる。学校のことと仕事のことは別だってことくらい、弁えてる」
皇幹「よかった。サンキュー! じゃあ、これから、よろしくな」

皇幹が走っていく。

健斗(N)「俺の中で何かが切れた感じがした。あれだけ、3年間苛め抜いてきたことを、ヘラヘラした謝罪にもならない言葉で水に流そうとしてきている。ふざけるな。冗談じゃない」

場面転換・
社内。

健斗「……笹山。なんだ、この資料?」
皇幹「え? いや、言われてた資料……です」
健斗「こんなの使えるわけねーだろ。やり直せ」
皇幹「で、でも、もう定時……」
健斗「なに?」
皇幹「あ、いや、なんでも……ないです」

場面転換。

健斗「笹山!」
皇幹「は、はい!」
健斗「だからさあ、何回言えばわかるわけ?」
皇幹「す、すみません」
健斗「やり直し。明日の朝まで」
皇幹「え? 朝まで? む、無理ですよ」
健斗「じゃあ、明日からもう来なくていいよ」
皇幹「や、やります……」

場面転換。
トイレ。皇幹が吐いている。
水が流れる音とドアが開く音。

皇幹「うう……」
健斗「笹山。お前さ、なに、残業付けてんの?」
皇幹「え? でも、残業したので……」
健斗「はあー。本当だったら、お前が定時内でやれた仕事だろ? お前が無能だから、残業する羽目になっただけだろ?」
皇幹「は、はい……。そうです……」
健斗「ならさ、残業申請するのおかしくないか?」
皇幹「すみません。取り消します……」
健斗「当たり前だよ」
皇幹「うっ」

また、トイレに入って吐く皇幹。

場面転換。
面談室。

皇幹「……採用、見送り……ですか?」
常務「高倉部長の判断だ」
健斗「そもそも、なんで採用されると思ったのかな? ロクに仕事もできない上に、みんなに迷惑かけてばかりなのに」
皇幹「でも、それはちゃんと教えてくれないから……」
健斗「はあー。常務。いつもこれなんですよ。人にせいばかりするんです。こんな人、会社においておけません」
常務「仕方ないな。社長には私から言っておく」

常務が立ち上がって部屋を出て行く。

皇幹「う、うう……。あんなに、あんなに頑張ったのに……」
健斗「いやあ、スッキリしたぁ」
皇幹「……え?」
健斗「気が済んだよ。これで、お互い、昔のことは水に流そう。な? 笹山くん。あははは」

健斗が部屋から出て行く。

場面転換。
会社の前。

宮本「それじゃ、部長。お疲れ様です」
健斗「おう、お疲れ」

健斗が歩いている。
すると後ろからガンと衝撃が走る。

健斗「え? あ……」
皇幹「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな!」

皇幹が健斗の頭をバットで殴る。

皇幹「フリチンの健斗の分際でよぉ! 調子こいてんじゃねーよ! くそが、くそが、くそが!」

何度も何度も何度もバットで殴る。

皇幹「俺がこいつの下で働くこと自体、おかしいんだよ!」

何度も何度も何度もバットで殴る。

健斗(N)「ああ……。やっぱりそうだ。昔のおことを水になんて……流せるわけがない……」

終わり。

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