迷子

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
真也(しんや) 21歳
千奈津(ちなつ) 21歳
明人(あきと) 36歳
美野里(みのり) 6歳

■台本

ショッピングモール内。

千奈津「ねえねえ、真也、次、あっちの店、見てみようよ」
真也「ええー。まだ見んの?」

二人の後ろの方で明人がアワアワしている。

明人「美野里……美野里……」
千奈津「なによ。今日は一日、付き合ってくれるって約束でしょ」
真也「それはそうだけど、同じような店を見てもつまらんだろ」

二人の後ろでまだオロオロしている明人。

明人「美野里……美野里……」
千奈津「同じような店でも、置いてるのが違うんだから」
真也「いや、そんなに変わらない……」
明人「美野里……どこ……?」
真也「……」
千奈津「……」
明人「うう……。どうしよう……」

二人が振り向き、明人に話しかける。

真也「あの……どうかしました?」
明人「え? あ、あの! その! うちの娘、見ませんでしたか?」
真也「いや、いきなりそう言われても、娘さんの顔、見たことないし……」
千奈津「写真かなにか、ないんですか?」
明人「あ、ありますあります!」

明人がスマホを取り出して、操作する。

明人「この子です!」
真也「んー。大体6歳くらいか?」
千奈津「へー。可愛いお子さんですね」
明人「ですよね! 美野里っていうんですけど、ホント、可愛いんですよ。しっかりした子で、笑顔が天使で、癒されて、可愛くて、もう、天使なんです!」
真也「天使を2回言ってる上に、情報が可愛いしか伝わってこない……」
千奈津「その美野里ちゃんが迷子になったってことですか?」
明人「いやー、ホント、美野里は可愛いなぁ……って! そうです! 迷子なんです! どうしましょう!?」
真也「いや、どうしましょうって言われても……」
千奈津「この辺ではぐれたんですか?」
明人「いえ、あっちのおもちゃ売り場らへんでいなくなっちゃったんです」
千奈津「……なんで、この辺を探してるんですか?」
明人「え? いや、その……適当に探し回ってたら、ここに行き着いて……」
千奈津「……この辺にはいないと思いますよ」
明人「え? なんでですか?」
千奈津「だって、この辺のお店、子供に興味なさそうなお店ばかりですから」
明人「……そういえば確かに。じゃあ、どこを探せばいいんですか?」
真也「いやいやいや。あんた、他人任せも過ぎるだろ」
千奈津「えっと……。一回、おもちゃ売り場まで戻って、そこから美野里ちゃんが行きそうな場所を探したらどうですか?」
明人「おお! さすがです! ……あの、一緒に探してもらえませんか?」
真也「……なんでだよ」
千奈津「いいじゃん。困ってるんだからさ」
真也「はあ……。ホント、お前は人でなしだな」
千奈津「(呆れて)……お人よし、ね」

場面転換。
真也と千奈津が歩いている。
真也「うーん。いねえなぁ」
千奈津「休日で子供連れが多いから、尚更、見つけづらいよね」

そこに明人が走って来る。

明人「ど、どうですか!? 見つかりましたか?」
千奈津「いえ。いませんでした」
明人「……そ、そうですか」

頭を抱える明人。

明人「ここまで探して見当たらないってことは……」
真也「いや、さすがに誘拐は無いと思うけど」
明人「意地悪してるんだ」
真也「……は?」
千奈津「どういうことですか?」
明人「実は美野里は養女なんです」
千奈津「え? そうなんですか?」
明人「はい……。妻に先立たれて、寂しかったところに養子縁組の話があり、それに乗ったんです」
真也「じゃあ、あんたは美野里ちゃんに慕われてないってことか?」
明人「いえ、美野里は私のことをお父さんと呼んでくれますし、懐いてくれていたと思います」
千奈津「でも、本当は……」
明人「はい。もしかすると、表ではそう接していただけで、本当は私のことを嫌っていたのかもしれません」
真也「んー。6歳ぐらいだろ? そこまで使い分けるか?」
千奈津「何言ってんのよ。6歳なら十分、そういうことはする年よ」
真也「そんなもんか……」
千奈津「あんたも親になるなら、その辺、覚えておきなさいよ」
真也「親か。うん。そうだな。じゃあ、そのために帰って子作……いてっ!」
千奈津「バカなこと言ってんじゃないの。それより、もし、隠れられたりしたら……」
真也「ああ。お手上げだよな」
明人「もしかしたら、これは美野里からのテストなのかもしれません」
真也「テスト?」
明人「はい。美野里がどこに隠れているのか、親を名乗るなら、見つけられて当然だって」
千奈津「……そう言われても、難しくないですか? 行きそうなところは見たんですよね?」
明人「ええ。……でも、きっと、どこかあるはずです!」
真也「んー。単に迷子なだけだと思うんだけどな」
明人「いえ! 絶対そうです! これはある意味、私が美野里の親になるための試練なんです!」
千奈津「……」
真也「……」
明人「来てください! こっちです!」
真也「あ、やっぱり俺たちも付き合うんだ?」

場面転換。
ガチャリとドアを開ける音。

明人「美野里!」
千奈津「……」
真也「いないな……」
明人「……そんな。そんな」
千奈津「諦めたら、そこで終わりですよ」
真也「試合が?」
千奈津「せっかく濁したのに、言うんじゃないわよ」

場面転換。
トボトボと歩く3人。

明人「うう……。終わりだ。もう、俺は終わりだ」
千奈津「気を落とさないで頑張りましょうよ」
明人「俺は……父親失格だ。きっと、今頃、美野里は寂しくて、膝を抱えて泣いてるはず……。うう……」
真也「泣いてるのはあんただけどな」
千奈津「そう言うこと言わない」

そのとき、後ろからはっきりとした声が聞こえる。

美野里「あ、いた!」
明人「え?」
美野里「もう、お父さん! 何やってんの?」
明人「美野里!」
真也「えーっと、どういうことだ? 美野里ちゃんは膝を抱えて泣いてるはずじゃないのか?」
千奈津「だよね?」
美野里「あのさ、はぐれたら、ここの噴水のところで待ち合わせするって言ってたでしょ!」
明人「え? え? そうだっけ?」
美野里「もう……。ただでさえ、お父さん、迷いやすいんだから、話はちゃんと聞いててよ」
明人「あ、その……ごめんなさい」
美野里「大体、探すなら、店内放送で呼んでくれればよかったじゃない」
明人「あっ!」
美野里「私が呼び出そうと思ったけど、さすがにどうかなって思って止めたけど」
真也「まあ、子供に呼び出される親ってなかなか見ないな」
美野里「あの、お父さんに付き合ってくれたんですよね?」
千奈津「え? あ、うん。少しだけね」
真也「2時間かかったけどな……」
美野里「本当にお騒がせしました。ありがとうございました」
千奈津「いいのいいの。気にしないで」
美野里「ほら、お父さんもお礼言って!」
明人「あ、その、ありがとうございました」
千奈津「いえいえ」
美野里「じゃあ、お父さん、ご飯食べにいこっか」
明人「そうだな」
美野里「ほら、今度は迷わないように手を繋いで」
明人「う、うん」

二人が歩いていく。

千奈津「仲がいい親子ね」
真也「うーん。父親の方が迷子だったのか……」

終わり。

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