おかえり

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリア
ローガン
シーラ
イーサン
その他

■台本

大勢の生徒の前に立っているアリア。

アリア「35期生の諸君、今まで厳しい訓練、御苦労だった。……これからは各員、実際に戦場へと行ってもらう」

シーンと静まり返る。

誰かが、ゴクリと息を飲む。

アリア「いいか。訓練中、何度も話したが、最後にもう一度だけ言わせてもらう。戦場での一番の手柄は敵を多く殺すことでも、任務を完璧にこなすことでもない。生き残ることだ。それだけを胸に刻み込んでおけ!」

一同「はい!」

アリア「……では、諸君。行ってこい」

一同「はい!」

場面転換。

廊下をツカツカと歩くアリア。

そこにローガンがやってくる。

ローガン「アリア教官。少しいいかな?」

アリア「……ローガン少将。なんでしょうか?」

ローガン「今回の兵士もなかなかの面構えに仕上げましたな」

アリア「……どうも」

ローガン「だが、教官の教えに、現場から苦情が上がってきてる」

アリア「……」

ローガン「新兵には、どんなことがあっても命令を第一、と教えてくれないか?」

アリア「お言葉ですが、たった4ヶ月の訓練で一人前の兵士にすることはできません」

ローガン「……だろうな」

アリア「だからこそ、必要最低限のことを徹底的に叩き込みます」

ローガン「間違ってはないな」

アリア「訓練兵が本当の兵士になるのは戦場です。つまり、経験が必要になります」

ローガン「……だから、生き延びろ、と?」

アリア「間違っていますか?」

ローガン「ああ。根本的にな」

アリア「……」

ローガン「新兵は弾なんだ。銃に込めて撃つのは司令官がやる」

アリア「訓練兵は消耗品だと?」

ローガン「その中で、生き残った者こそが上に上がっていく。全員が司令官になる必要はない。わかるな?」

アリア「ですが、一度しか使えない弾と何度も使えるためでは、消耗の……」

ローガン「現場ではそうは言ってられないんだよ。このままでは、我が国は負ける。この状況をひっくり返すには、すべての資源を投入するしかない」

アリア「それが、訓練兵というわけですか」

ローガン「教官。君は最低限、まっすぐ飛ぶ弾を量産してくれればいいんだ」

アリア「ですが!」

ローガン「昨日の夜、第34期のミッシェルの死亡が報告された」

アリア「っ!?」

ローガン「これで、34期は全滅……いや、『生存を確認できている者がいない』が正しいか」

アリア「……」

ローガン「いくら、君が兵に生き残れと教えても、結果はこれだ。それなら、弾作りと割り切った方が楽だろ?」

アリア「……」

ローガン「……そうだ。このたびは35期生の卒業おめでとう。すぐに36期生を送り込む。徹底した指導を頼むぞ」

ローガンが歩き去っていく。

アリア「……っ!」

ガンと壁を拳で殴るアリア。

アリア「……バカ……どもが」

場面転換。

大勢の生徒の前に立っているアリア。

アリア「42期生の諸君、今まで厳しい訓練、御苦労だった。……これからは各員、実際に戦場へと行ってもらう」

シーンと静まり返る。

アリア「いいか。訓練中、何度も話したが、最後にもう一度だけ言わせてもらう。戦場での一番の手柄は敵を多く殺すことでも、任務を完璧にこなすことでもない。生き残ることだ。たとえ捕虜になろうとも、敵前逃亡になろうとも、生き残ることだけを考えろ! いいな!」

一同「はい!」

場面転換。

廊下を歩くアリア。

そこにシーラがやってくる。

シーラ「教官、最後のお勤め、御苦労さまでした」

アリア「……ああ」

シーラ「この教習所も、今日でお役目が終わりですね」

アリア「……1期、役100名。私はこれまで、435名の人間の命を奪ってきた」

シーラ「今は戦争です。教官が殺したわけでは……」

アリア「手を貸したことには変わりない」

シーラ「……」

アリア「もう、兵士として育てる人間がいなくなってしまった。……この国の負けはもう決定している」

シーラ「はい……」

アリア「なのに、なぜ、あいつらを戦場に送り込む必要があるんだ」

シーラ「上層部は少しでも抵抗することに躍起になっています。今回の兵も爆弾を持たせて、特攻させる作戦だと……」

アリア「ふざけるなっ!」

バンと壁を殴る。

アリア「……くそ。私は今まで、あいつらに『行ってこい』としか言って来なかった……」

シーラ「……」

場面転換。

ラジオの放送。

アナウンサー「……国は全面降伏を受け入れました。現在、各地で戦闘を行っている部隊には武装解除を……」

アリア「……」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

廊下をアリアが歩く。

そして、ガラガラと教室のドアを開ける。

誰もいない、静まり返っている教室内。

アリア「……42期も全滅。これで、私が送り出した者は全員死んだことになる。……結局、私はあの言葉を一度も口にすることはなかったな」

そのとき、ガラガラとドアが開く音。

アリア「っ!?」

イーサン「あっ! 教官!」

アリア「……イーサン。生きてたのか?」

イーサン「はは……。作戦中、敵に囲まれそうになったところを、逃げたおかげで何とか、命を拾いました。……まあ、そのせいで、軍では生死不明になってしまいましたが……」

アリア「(涙ぐんで)イーサン。よく、生きて戻ったな」

イーサンが姿勢を正して敬礼をする。

イーサン「第14期生、イーサン・ジョンソン。ただいま、戻りました」

アリア「……イーサン」

イーサン「はい」

アリア「(涙ぐんで)おかえり」

終わり。

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