おかえり
- 2023.10.02
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリア
ローガン
シーラ
イーサン
その他
■台本
大勢の生徒の前に立っているアリア。
アリア「35期生の諸君、今まで厳しい訓練、御苦労だった。……これからは各員、実際に戦場へと行ってもらう」
シーンと静まり返る。
誰かが、ゴクリと息を飲む。
アリア「いいか。訓練中、何度も話したが、最後にもう一度だけ言わせてもらう。戦場での一番の手柄は敵を多く殺すことでも、任務を完璧にこなすことでもない。生き残ることだ。それだけを胸に刻み込んでおけ!」
一同「はい!」
アリア「……では、諸君。行ってこい」
一同「はい!」
場面転換。
廊下をツカツカと歩くアリア。
そこにローガンがやってくる。
ローガン「アリア教官。少しいいかな?」
アリア「……ローガン少将。なんでしょうか?」
ローガン「今回の兵士もなかなかの面構えに仕上げましたな」
アリア「……どうも」
ローガン「だが、教官の教えに、現場から苦情が上がってきてる」
アリア「……」
ローガン「新兵には、どんなことがあっても命令を第一、と教えてくれないか?」
アリア「お言葉ですが、たった4ヶ月の訓練で一人前の兵士にすることはできません」
ローガン「……だろうな」
アリア「だからこそ、必要最低限のことを徹底的に叩き込みます」
ローガン「間違ってはないな」
アリア「訓練兵が本当の兵士になるのは戦場です。つまり、経験が必要になります」
ローガン「……だから、生き延びろ、と?」
アリア「間違っていますか?」
ローガン「ああ。根本的にな」
アリア「……」
ローガン「新兵は弾なんだ。銃に込めて撃つのは司令官がやる」
アリア「訓練兵は消耗品だと?」
ローガン「その中で、生き残った者こそが上に上がっていく。全員が司令官になる必要はない。わかるな?」
アリア「ですが、一度しか使えない弾と何度も使えるためでは、消耗の……」
ローガン「現場ではそうは言ってられないんだよ。このままでは、我が国は負ける。この状況をひっくり返すには、すべての資源を投入するしかない」
アリア「それが、訓練兵というわけですか」
ローガン「教官。君は最低限、まっすぐ飛ぶ弾を量産してくれればいいんだ」
アリア「ですが!」
ローガン「昨日の夜、第34期のミッシェルの死亡が報告された」
アリア「っ!?」
ローガン「これで、34期は全滅……いや、『生存を確認できている者がいない』が正しいか」
アリア「……」
ローガン「いくら、君が兵に生き残れと教えても、結果はこれだ。それなら、弾作りと割り切った方が楽だろ?」
アリア「……」
ローガン「……そうだ。このたびは35期生の卒業おめでとう。すぐに36期生を送り込む。徹底した指導を頼むぞ」
ローガンが歩き去っていく。
アリア「……っ!」
ガンと壁を拳で殴るアリア。
アリア「……バカ……どもが」
場面転換。
大勢の生徒の前に立っているアリア。
アリア「42期生の諸君、今まで厳しい訓練、御苦労だった。……これからは各員、実際に戦場へと行ってもらう」
シーンと静まり返る。
アリア「いいか。訓練中、何度も話したが、最後にもう一度だけ言わせてもらう。戦場での一番の手柄は敵を多く殺すことでも、任務を完璧にこなすことでもない。生き残ることだ。たとえ捕虜になろうとも、敵前逃亡になろうとも、生き残ることだけを考えろ! いいな!」
一同「はい!」
場面転換。
廊下を歩くアリア。
そこにシーラがやってくる。
シーラ「教官、最後のお勤め、御苦労さまでした」
アリア「……ああ」
シーラ「この教習所も、今日でお役目が終わりですね」
アリア「……1期、役100名。私はこれまで、435名の人間の命を奪ってきた」
シーラ「今は戦争です。教官が殺したわけでは……」
アリア「手を貸したことには変わりない」
シーラ「……」
アリア「もう、兵士として育てる人間がいなくなってしまった。……この国の負けはもう決定している」
シーラ「はい……」
アリア「なのに、なぜ、あいつらを戦場に送り込む必要があるんだ」
シーラ「上層部は少しでも抵抗することに躍起になっています。今回の兵も爆弾を持たせて、特攻させる作戦だと……」
アリア「ふざけるなっ!」
バンと壁を殴る。
アリア「……くそ。私は今まで、あいつらに『行ってこい』としか言って来なかった……」
シーラ「……」
場面転換。
ラジオの放送。
アナウンサー「……国は全面降伏を受け入れました。現在、各地で戦闘を行っている部隊には武装解除を……」
アリア「……」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
廊下をアリアが歩く。
そして、ガラガラと教室のドアを開ける。
誰もいない、静まり返っている教室内。
アリア「……42期も全滅。これで、私が送り出した者は全員死んだことになる。……結局、私はあの言葉を一度も口にすることはなかったな」
そのとき、ガラガラとドアが開く音。
アリア「っ!?」
イーサン「あっ! 教官!」
アリア「……イーサン。生きてたのか?」
イーサン「はは……。作戦中、敵に囲まれそうになったところを、逃げたおかげで何とか、命を拾いました。……まあ、そのせいで、軍では生死不明になってしまいましたが……」
アリア「(涙ぐんで)イーサン。よく、生きて戻ったな」
イーサンが姿勢を正して敬礼をする。
イーサン「第14期生、イーサン・ジョンソン。ただいま、戻りました」
アリア「……イーサン」
イーサン「はい」
アリア「(涙ぐんで)おかえり」
終わり。
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