【声劇台本】玉座

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■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、中世ファンタジー、シリアス

■キャスト
セイル
ガイ
その他

■台本

セイル「く、くそ……」

男「この盗人が!」

男がセイルをボコボコに殴る音。

セイル「う……」

男「けっ! 殺されないだけ、感謝しろ」

男が立ち去っていく。

そこにガイが走って来る。

ガイ「セイル! 大丈夫か!?」

セイル「ガイ……。遅ぇぞ……」

ガイ「悪ぃ。けど、お前があの男を引き付けてくれてたおかげで、あいつの家からごっそり盗み出せた」

セイル「いてて……。じゃあ、今日は少し贅沢するか」

ガイ「ああ……」

場面転換。

貴族の男「待て! 待つんだ!」

セイル「けっ! 待てって言われて、待つ盗人がどの世界にいるんだよ」

セイルが路地裏へと入って来る。

場面転換。

セイル「ふう。撒いたか」

ガイ「セイル、お疲れ。上手くいったみたいだね」

セイル「ああ」

ガイ「……ねえ、セイル。いつまでこんな生活しなくっちゃならないのかな?」

セイル「ガイ。いいか。誰かがこの状況を救ってくれるわけはないんだ。この生活を抜け出すには、自力で抜け出すしかない。俺は必ずのし上がって見せるぞ。どんな手を使ってもな」

貴族の男「ふむ。その年で世の中のことが分かっているようだな」

セイル「な、くそ! 撒いたと思ったのに」

貴族の男「あー、待て待て。私はお前を捕まえに来たわけではない。チャンスを与えにきた」

セイル「チャンス?」

貴族の男「お前の顔は私の主(あるじ)である、第2皇子に瓜二つなのだ」

セイル「……影武者か?」

貴族の男「頭の回転もいい。皇子にも見習ってほしいくらいだ」

セイル「……いいぜ。行くよ。こんなチャンスは二度とないだろうから」

貴族の男「だがな。このことを知るのは私とお前、皇子の3人でなくてはならない」

ドスっと、ナイフが突き刺さる音。

ガイ「なっ……」

セイル「こういうことだろ?」

貴族の男「はは。肝も据わっている。増々気に入った」

ガイ「セ、セイル……」

セイル「悪ぃな。俺の為に死んでくれ」

貴族の男「行くぞ」

貴族の男とセイルが歩いて行く。

場面転換。

貴族の男「驚いたぞ。まさか、一年足らずで、私にさえ見分けがつかないくらいになるとはな」

セイル「俺はここにのし上がりに来たんだ。のし上がるためなら作法や兵法、帝王学、何でも身に着けるぜ」

貴族の男「ふふふ。頼もしいな。で、裏の情報だが、病にふせっていた王が、そろそろ限界らしい。それで……」

セイル「第一皇子を暗殺か」

貴族の男「はははは。いや、まいった。実に素晴らしい。影武者にしておくのは勿体ないな」

セイル「第一皇子を消せば、俺は国王の影武者になることができる。そうなれば、俺の目的は、ほぼ達成したと言っていい」

貴族の男「当たり前だが、第一皇子の警護は厳重だ。特に、国王が病にふせられてからはな。おそらく、毒殺なども無理だ」

セイル「なら、直接やるまでさ」

貴族の男「どうやって?」

セイル「警護が厳重だと言っても、自室の中にまでは兵は置いてないだろ?」

貴族の男「ああ。だが、部屋に入る際には、顔を見られるだろ」

セイル「見られずに入ればいいだけだろ。……城の見取り図を用意してくれ」

貴族の男「だが、仮に成功したとしても、この時期に第一皇子を暗殺したとなれば、我々、第二皇子側が疑われる」

セイル「証拠がなければ問題ない」

貴族の男「だが、証拠を消すとなっても」

セイル「俺を知っているのは、あんたと第二皇子だけだ」

貴族の男「……やれるのか?」

セイル「なんのために剣を習得したと思っているんだ?」

貴族の男「ふふ。本当に頼もしいな」

場面転換。

ドアの向こうから、貴族の男が走って来る。

バンとドアが開く。

貴族の男「どういうことだ!」

セイル「なにがだ?」

貴族の男「どうして……どうして、第二皇子まで殺した!」

セイル「ああ。邪魔だったからな」

貴族の男「どういうつもりだ!」

セイル「おいおい。国王の胸ぐらをつかむなよ」

貴族の男「所詮は下賤な血か。貴様などに、この国はやらんぞ」

セイル「第二皇子に影武者が『いた』ことは、もう、お前しか知らない」

貴族の男「……」

セイル「もし、お前が全てを告白したらどうなる? お前がこの城に下賤な血の俺を招いたんだ。その俺がこの国の皇子を二人とも殺した。果たして、責任を取るのは俺だけか?」

貴族の男「くっ!」

セイル「よく考えろ。本当のことを言ったら、お前だけではなく、一族、全員処刑……良くて追放か。俺はどちらでもいいぜ。ここに来た時点で命を捨てている。早いか遅いかの違いだ」

貴族の男「く、くそっ!」

セイル「あんたには、チャンスをもらい、そのおかげでここまでこれたんだ。その分の礼はするつもりさ。何しろ、俺は国王だからな」

貴族の男「……ありがとうございます。これからも王に忠誠を誓います」

セイル「ああ。頼りにしているぞ」

貴族の男「はい……」

場面転換。

セイルが机に座り、書類を読んでいる。

そこに、ごく小さな足音がする。

暗殺者「……暗殺は達成した」

セイル「御苦労。……屋敷は?」

暗殺者「言われた通り、火を放った」

セイル「金は里を通じて、近日中に払う」

暗殺者「……」

暗殺者がスッと消える。

セイル「……これで、俺のことを知る人間はいなくなった。くくく。これで、安心してこの玉座に座り続けることができる」

そのとき、慌ただしく、兵が走ってきて、ドアを勢いよく開く。

兵士「王! 大変です!」

セイル「どうした?」

兵士「反乱です!」

セイル「反乱? 市民たちが決起でもしたか? まあ、あれだけ税を上げれば、当然かもな。城に待機している騎士団で制圧しろ。ある程度は見せしめに殺していい」

兵士「それが……騎士団も反乱に加わっています」

セイル「どういうことだ!?」

兵士「反乱軍は、王が偽物だと主張し、近隣の貴族たちもまとめ上げられています。もう、城壁も持ちません。時期に、ここにまで攻めてくるはずです」

セイル「偽物……? バカな。それを知る者はいないはずだ」

ザシュっと剣で斬りつける音。

兵士「ぐあっ!」

セイル「なっ!」

ガイ「いるよ。知っている奴がもう一人ね」

セイル「……ガイ。生きてたのか?」

ガイ「確かにセイルの言う通りだったよ。あの地獄のような生活は自力で抜け出さなきゃならない。どんな手を使ってもね」

セイル「なっ……」

ガイ「セイルみたいに王様は無理でも、貴族にしてもらえる。まあ、僕にはこれくらいが丁度いいかな」

セイル「ま、待て!」

ドスっという剣がセイルを貫く音。

セイル「あ……あが……」

ガイ「悪いね。さよなら、セイル」

セイル「く、くそ……俺の……玉座……が」

もう一度、ザシュと剣で斬られる音が響く。

終わり。

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