まるで猫のような
- 2023.11.21
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
貴裕(たかひろ)
澪(みお)
■台本
夜の道を歩く貴裕。
貴裕(N)「それはある日の仕事帰りのことだった」
澪「……(少しすすり泣いている)」
貴裕(N)「女が道の外れで、膝を抱えて座っていた。尻の下に段ボールを敷いて」
立ち止まる貴裕。
貴裕「……なにやってるんだ? こんな時間にこんな場所で」
澪「……別に」
貴裕「大きなお世話かもしれんが、家に帰った方がいいんじゃないか? そろそろ終電だし」
澪「……帰れるなら、帰ってるし」
貴裕「……家出とかか? なら、謝れば許してくれると思うぞ」
澪「……関係ないでしょ。こっちは帰れないって言ってるの」
貴裕「……今夜、泊まる場所はあるのか?」
澪「あったら、こんな場所にいないって」
貴裕「金は?」
澪「だーかーら! あったら、こんな場所にいないって!」
貴裕「……腹、減ってないのか?」
そのとき、澪の腹がぎゅるると鳴る。
貴裕「……」
貴裕が持っているコンビニ袋を前に出す。
貴裕「コンビニ弁当で良ければ食うか?」
澪「いいの!?」
貴裕「ああ。俺は買い置きのカップ麺を食べるから」
澪「ありがと!」
澪が袋を受け取る。
貴裕「それ食ったら、警察にでも駆け込め。とりあえず、数日は何とかしてくれると思う……」
澪「うーん。警察かぁ」
貴裕「まあ、勝手にしろ。じゃあな」
貴裕が歩き出す。
が、後ろから袋を持った澪がついて来る。
貴裕が立ち止まり、振り返る。
貴裕「おい、なんでついて来るんだよ?」
澪「飲み物ない。寒い。シャワー浴びたい」
貴裕「……まさか、家に来るつもりか?」
澪「うん」
貴裕「お前、それはいくらなんでもヤバいだろ」
澪「なんで?」
貴裕「……勝手にしろ」
澪「勝手にする」
貴裕(N)「その後、女は俺の家に住み着いた」
場面転換。
貴裕の部屋の中。
ドアが開き、貴裕が帰って来る。
貴裕「ただいま……」
澪が走って来る。
澪「貴裕―!」
いきなり澪が抱き着く。
貴裕「お、おい! 抱き着くなって!」
澪「……お腹減った」
貴裕「……なら、カップ麺とか、冷蔵庫の中のもの食っていいって言っただろ」
澪「やだ。飽きた」
貴裕「……お前なぁ。お腹減ったときにすぐに食べれるようにって、カップ麺箱買いさせたのは誰だよ!」
澪「誰?」
貴裕「お前だよ!」
澪「今日の晩御飯なに?」
貴裕「……はあ。鍋の材料を買ってきたから、少し待ってろ」
澪「お弁当じゃないんだ?」
貴裕「毎日弁当だと、健康に悪いだろ」
澪「そうなの?」
貴裕「……そんな気がする」
澪「ふーん。でも、今まで貴裕はずっとお弁当とかカップ麺だったんでしょ? どうしたの急に?」
貴裕「う、うるさいな。とにかく、準備するから手伝え」
澪「えー、やだー」
貴裕(N)「澪はとにかく気まぐれな女だった」
場面転換。
貴裕の部屋。
貴裕「おーい、澪。明日、デスティニーランド行くぞ。何とか有休取れたからな」
澪「えー、面倒くさい」
貴裕「……この前、行きたいって駄々こねてただろ」
澪「もう、興味なくなった」
貴裕「お前な……」
澪「明日はDVD見ようよ。ポップコーン買ってさ」
貴裕「なら、映画館行くか? 今、何やってるかな?」
澪「ううん。家が良い」
貴裕「なんでだよ?」
澪「貴裕と二人で見たいから」
貴裕「……」
貴裕(N)「澪は本当にわけのわからない女だ。急に甘えてきたかと思えば、こっちが歩み寄るとプイと離れてしまうこともある。どう扱っていいか、わからない」
場面転換。
貴裕の部屋。
貴裕が料理を作っている。
リビングでゴロゴロとしている澪。
澪「あ、そうだ。ねえ、貴裕―」
貴裕「んー?」
澪「来月の2日なんだけどさー。パーティーしようよ」
貴裕「パーティー? なんか、あったか?」
澪「貴裕と出会って、ちょうど1年の記念日」
貴裕「……お前、よく、そんなこと覚えてるな」
澪「女の子は記念日が好きなんだよ。覚えておいて」
貴裕「はいはい。じゃあ、ケーキでも買ってくるよ」
澪「わー、楽しみー!」
貴裕「そろそろ飯が出来るから、テーブルの上、片付けてくれ」
澪「えー、面倒くさい」
貴裕「お前な……」
場面転換。
貴裕の部屋。
ガチャリとドアが開いて、貴裕が入って来る。
貴裕「ただいまー。澪、約束通り、ケーキ買ってきたぞ」
だが、返事がない。
貴裕「澪?」
部屋まで進む貴裕。
貴裕「……ん? 手紙?」
ケーキを置いて、手紙を手に取る。
貴裕「……」
以下、手紙の内容。
澪の声「住むとこ見っかった。今までありがとね」
手紙終わり。
貴裕「……なんなんだよ。せめて、ケーキ食ってからにしろって……」
貴裕(N)「澪は本当に気まぐれな女だ。まるで猫のように。あの日、俺は捨て猫を拾って、その猫がまた野良に帰ってしまった。……ただ、それだけのことなんだろう」
場面転換。
貴裕の部屋。
ガチャリとドアが開く音。
貴裕「……」
澪「お帰り」
貴裕「……え? 澪? なんでいるんだ?」
澪「お腹減った」
貴裕(N)「どうやら、澪にとって、ここは餌場と認識されたようだ」
終わり。