10年後
- 2023.11.24
- ボイスドラマ(10分) 退避

■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
昌義(まさよし)
美佳(みか)
教授
アナウンス
秘書
■台本
昌義(N)「これは結果論になるのだが、あの時の選択は、今でも間違ってはいないと思っている。いや……間違っていないというのは願望で、そう思い込みたいだけなのかもしれない」
場面転換。
大学内。
教室で一人、パソコンでレポートを書いている昌義。
そこに美佳がやってくる。
美佳「まーくん、まーた勉強してるの?」
昌義「ああ。教授から言われて、レポートまとめてるんだ」
美佳「……結構、かかりそう?」
昌義「んー。まあ、もうちょっとかな」
美佳「まーくんのもうちょっとは3時間くらいかかるからなぁ」
昌義「いやいや、2時間くらいだろ」
美佳「……変わんないよ」
手を止めて、パソコンを閉じる昌義。
昌義「ごめんごめん。続きは家でやるよ。じゃあ、お昼食べに行くか。何がいい?」
美佳「え? あー、じゃあ、イタ飯でー」
昌義「わかった。いつものとこな」
場面転換。
店の中。
店内は賑わってる。
昌義「なあ、ホントにサラダだけでいいのか?」
美佳「うん。ちょっとお腹減ってなくて」
昌義「最近、多いな。もしかしてダイエットか?」
美佳「あー、うん……。そんなとこ」
昌義「美佳は痩せてる方だと思うぞ」
美佳「女の子には色々あるんですー」
昌義「はいはい」
店員がやってくる。
店員「お待たせしました。カルボナーラの大盛りと、マルゲリータピザ、あと、シーザーサラダです」
昌義「パスタとピザはこっち。サラダはそっちで」
店員「かしこまりました」
店員がテーブルに料理を置いてくる。
美佳「っ!?」
いきなり美佳が立ち上がる。
昌義「どうした?」
美佳「ごめん!」
美佳が走っていく。
昌義「……なんだ? 急な腹痛か?」
場面転換。
夜。小高い丘。
美佳「うーん。やっぱり、ここの夜景は絶景だねー」
昌義「腹はもう大丈夫なのか?」
美佳「うん。心配かけてごめんね」
昌義「無理はするなよ」
美佳「ねえ、まーくん」
昌義「ん?」
美佳「10年後、私たち、どうなってると思う?」
昌義「なんだ、急に?」
美佳「なんとなく」
昌義「先の話を言われてもなぁ。たぶん、結婚して、子供の一人でもできてるとかじゃないか?」
美佳「うん、そうだね」
ピッタリとくっ付く美佳。
昌義「どうした? 最近妙に甘えてくるな」
美佳「いーじゃん、彼女なんだから」
昌義「そうだけど」
美佳「じゃあ、私は社長夫人だね」
昌義「気が早いな。けど、起業はしたいな」
美佳「まーくんの小さい頃からの夢だもんね」
昌義「ああ。どんなに時間がかかっても、絶対に自分の会社はもちたいな」
美佳「まーくんなら大丈夫だよ」
昌義「そのためには、色々勉強しないとな」
美佳「むうー! たまにはこっちにも構ってよ」
昌義「わかってるって」
場面転換。
大学の研修室。
ドアがノックされ、昌義が入って来る。
昌義「教授、お呼びですか?」
教授「来たな。この前、まとめたレポートあるだろ? あれを見て、知り合いがお前に興味を持ったみたいんなんだ」
昌義「え?」
教授「本格的に経営を学んでみないかって話が来た」
昌義「ホントですか!?」
教授「ああ。本場に行って、しっかり学んで来い」
昌義「……本場、ですか?」
場面転換。
昌義の部屋。
美佳「え……? アメリカ?」
昌義「ああ。3年くらい留学って形になるかな」
美佳「3年……」
昌義「そんな不安な顔するなよ。3年なんて、すぐだよ、すぐ」
美佳「……」
昌義「……喜んでくれないのか?」
美佳「ねえ、まーくん」
昌義「どうした?」
美佳「私……うっ!」
立ち上がって、トイレに駆け込む美佳。
昌義「……最近、あいつ調子悪そうだな」
場面転換。
空港。
様々なアナウンスや雑踏の音。
そんな中、電話を掛けている昌義。
美佳の声「……ごめんね。見送り行けなくて」
昌義「いいって。それより体調、大丈夫か?」
美佳の声「うん。寝てれば、楽になるから」
昌義「そっか。無理するなよ」
美佳の声「ねえ、まーくん。私たち、大丈夫だよね? 10年後の私たち、幸せになれてるよね?」
昌義「ああ。もちろんだ。じゃあ、あっちに着いたらまた連絡するな」
美佳「うん……」
電話を切る昌義。
アナウンス「ニューヨーク行きの行き5413便はただ今、62番ゲートよりご搭乗いただいております」
昌義「……」
小走りで歩き出す昌義。
場面転換。
美佳の部屋。
美佳「……まーくん。もう、飛行機に乗ったかな」
インターフォンが鳴る。
美佳「誰だろ?」
立ち上がって、歩き出し、ドアを開ける。
美佳「……え?」
昌義「美佳……」
美佳「どうして? 飛行機は?」
昌義「お前の体調が心配でさ」
美佳「……」
昌義「お前、俺に何か隠してないか?」
ポロポロと涙を流す美佳。
美佳「う、うう……」
昌義「美佳?」
美佳「まーくん。私、私ね。子供できたの」
昌義「……なんで言ってくれなかったんだよ?」
美佳「だって……。言ったら、まーくん、留学やめちゃうと思って。夢だった起業もできなくなっちゃう」
昌義が美佳を抱きしめる。
昌義「バカ。……起業よりもお前の方が大切に決まってるだろ」
美佳「うわーん! まーくん! まーくん!」
昌義「……美佳」
昌義(N)「この後、美佳は男の子を生み、俺たちは貧しいながらもささやかな幸せな日々を送……」
場面転換。
社長室。
秘書「社長。社長」
昌義「……ん? ああ、すまん。寝てたみたいだな」
秘書「お疲れのようですね」
昌義「ちょっと、この資料を纏めたくてな」
秘書「ちゃんと食事、とられてますか?」
昌義「あー、まあ、外食が多いけど」
秘書「体、壊しますよ」
昌義「わかってるんだけどな」
秘書「結婚でもされたどうですか?」
昌義「家政婦をやってもらうために、結婚なんかできないさ。それより、今日のスケジュールは?」
秘書「こちらです」
紙を受け取る昌義。
昌義「……今日もびっしりだな」
秘書「どれも全国展開に必要な会議です」
昌義「そうだな。よし、成功させて、会社をデカくするぞ」
秘書「はい」
昌義(N)「美佳が子供をおろしたことは、帰国してから、人伝手に聞いた。あのときから10年。美佳は今、幸せにしているだろうか」
終わり。