10年後

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
昌義(まさよし)
美佳(みか)
教授
アナウンス
秘書

■台本

昌義(N)「これは結果論になるのだが、あの時の選択は、今でも間違ってはいないと思っている。いや……間違っていないというのは願望で、そう思い込みたいだけなのかもしれない」

場面転換。

大学内。

教室で一人、パソコンでレポートを書いている昌義。

そこに美佳がやってくる。

美佳「まーくん、まーた勉強してるの?」

昌義「ああ。教授から言われて、レポートまとめてるんだ」

美佳「……結構、かかりそう?」

昌義「んー。まあ、もうちょっとかな」

美佳「まーくんのもうちょっとは3時間くらいかかるからなぁ」

昌義「いやいや、2時間くらいだろ」

美佳「……変わんないよ」

手を止めて、パソコンを閉じる昌義。

昌義「ごめんごめん。続きは家でやるよ。じゃあ、お昼食べに行くか。何がいい?」

美佳「え? あー、じゃあ、イタ飯でー」

昌義「わかった。いつものとこな」

場面転換。

店の中。

店内は賑わってる。

昌義「なあ、ホントにサラダだけでいいのか?」

美佳「うん。ちょっとお腹減ってなくて」

昌義「最近、多いな。もしかしてダイエットか?」

美佳「あー、うん……。そんなとこ」

昌義「美佳は痩せてる方だと思うぞ」

美佳「女の子には色々あるんですー」

昌義「はいはい」

店員がやってくる。

店員「お待たせしました。カルボナーラの大盛りと、マルゲリータピザ、あと、シーザーサラダです」

昌義「パスタとピザはこっち。サラダはそっちで」

店員「かしこまりました」

店員がテーブルに料理を置いてくる。

美佳「っ!?」

いきなり美佳が立ち上がる。

昌義「どうした?」

美佳「ごめん!」

美佳が走っていく。

昌義「……なんだ? 急な腹痛か?」

場面転換。

夜。小高い丘。

美佳「うーん。やっぱり、ここの夜景は絶景だねー」

昌義「腹はもう大丈夫なのか?」

美佳「うん。心配かけてごめんね」

昌義「無理はするなよ」

美佳「ねえ、まーくん」

昌義「ん?」

美佳「10年後、私たち、どうなってると思う?」

昌義「なんだ、急に?」

美佳「なんとなく」

昌義「先の話を言われてもなぁ。たぶん、結婚して、子供の一人でもできてるとかじゃないか?」

美佳「うん、そうだね」

ピッタリとくっ付く美佳。

昌義「どうした? 最近妙に甘えてくるな」

美佳「いーじゃん、彼女なんだから」

昌義「そうだけど」

美佳「じゃあ、私は社長夫人だね」

昌義「気が早いな。けど、起業はしたいな」

美佳「まーくんの小さい頃からの夢だもんね」

昌義「ああ。どんなに時間がかかっても、絶対に自分の会社はもちたいな」

美佳「まーくんなら大丈夫だよ」

昌義「そのためには、色々勉強しないとな」

美佳「むうー! たまにはこっちにも構ってよ」

昌義「わかってるって」

場面転換。

大学の研修室。

ドアがノックされ、昌義が入って来る。

昌義「教授、お呼びですか?」

教授「来たな。この前、まとめたレポートあるだろ? あれを見て、知り合いがお前に興味を持ったみたいんなんだ」

昌義「え?」

教授「本格的に経営を学んでみないかって話が来た」

昌義「ホントですか!?」

教授「ああ。本場に行って、しっかり学んで来い」

昌義「……本場、ですか?」

場面転換。

昌義の部屋。

美佳「え……? アメリカ?」

昌義「ああ。3年くらい留学って形になるかな」

美佳「3年……」

昌義「そんな不安な顔するなよ。3年なんて、すぐだよ、すぐ」

美佳「……」

昌義「……喜んでくれないのか?」

美佳「ねえ、まーくん」

昌義「どうした?」

美佳「私……うっ!」

立ち上がって、トイレに駆け込む美佳。

昌義「……最近、あいつ調子悪そうだな」

場面転換。

空港。

様々なアナウンスや雑踏の音。

そんな中、電話を掛けている昌義。

美佳の声「……ごめんね。見送り行けなくて」

昌義「いいって。それより体調、大丈夫か?」

美佳の声「うん。寝てれば、楽になるから」

昌義「そっか。無理するなよ」

美佳の声「ねえ、まーくん。私たち、大丈夫だよね? 10年後の私たち、幸せになれてるよね?」

昌義「ああ。もちろんだ。じゃあ、あっちに着いたらまた連絡するな」

美佳「うん……」

電話を切る昌義。

アナウンス「ニューヨーク行きの行き5413便はただ今、62番ゲートよりご搭乗いただいております」

昌義「……」

小走りで歩き出す昌義。

場面転換。

美佳の部屋。

美佳「……まーくん。もう、飛行機に乗ったかな」

インターフォンが鳴る。

美佳「誰だろ?」

立ち上がって、歩き出し、ドアを開ける。

美佳「……え?」

昌義「美佳……」

美佳「どうして? 飛行機は?」

昌義「お前の体調が心配でさ」

美佳「……」

昌義「お前、俺に何か隠してないか?」

ポロポロと涙を流す美佳。

美佳「う、うう……」

昌義「美佳?」

美佳「まーくん。私、私ね。子供できたの」

昌義「……なんで言ってくれなかったんだよ?」

美佳「だって……。言ったら、まーくん、留学やめちゃうと思って。夢だった起業もできなくなっちゃう」

昌義が美佳を抱きしめる。

昌義「バカ。……起業よりもお前の方が大切に決まってるだろ」

美佳「うわーん! まーくん! まーくん!」

昌義「……美佳」

昌義(N)「この後、美佳は男の子を生み、俺たちは貧しいながらもささやかな幸せな日々を送……」

場面転換。

社長室。

秘書「社長。社長」

昌義「……ん? ああ、すまん。寝てたみたいだな」

秘書「お疲れのようですね」

昌義「ちょっと、この資料を纏めたくてな」

秘書「ちゃんと食事、とられてますか?」

昌義「あー、まあ、外食が多いけど」

秘書「体、壊しますよ」

昌義「わかってるんだけどな」

秘書「結婚でもされたどうですか?」

昌義「家政婦をやってもらうために、結婚なんかできないさ。それより、今日のスケジュールは?」

秘書「こちらです」

紙を受け取る昌義。

昌義「……今日もびっしりだな」

秘書「どれも全国展開に必要な会議です」

昌義「そうだな。よし、成功させて、会社をデカくするぞ」

秘書「はい」

昌義(N)「美佳が子供をおろしたことは、帰国してから、人伝手に聞いた。あのときから10年。美佳は今、幸せにしているだろうか」

終わり。

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