宝物

NO IMAGE

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:4人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
充(あたる)
雅紀(まさき)
一登(かずと)
用務員

■台本

充(あたる)、一登(かずと)、雅紀(まさき)が山道を歩いている。

充「一登、雅紀、待ってよー」

雅紀「ほら、荷物貸せよ。持ってやるから」

充「ありがと」

一登「お! 見ろよ! ばっちりだ!」

雅紀「マジか! ……おお、すげー! たくさんいるな」

充「3、4……6匹! すごい!」

一登「だろ? やっぱ、俺が作った、カブトムシホイホイはすげーだろ」

雅紀「……ネーミングセンスはねーけどな」

一登「うっせーな」

3人が笑う。

充(N)「俺たち3人は幼稚園の頃からずーっと一緒だった。田舎の学校だったから、クラスも一つしかなかったからずっと同じクラスだった。それは高校に行っても、同じだって思っていた」

場面転換。

雅紀「……転校?」

一登「おいおい。なんでだよ?」

充「……急に父さんの転勤が決まったみたいでさ」

雅紀「……お前だけ、残れないのか?」

一登「なんなら、うちに来いよ。部屋、余ってるし」

充「……」

雅紀「いつなんだ? 引っ越し」

充「今月末」

一登「マジかよ……」

雅紀「あと3ヶ月で卒業式だぞ。それまで、なんとかいられないのか?」

充「……」

一登「……一緒に卒業したかったな」

充「ごめん」

雅紀「お前のせいじゃないだろ」

充「……」

一登「卒業式のために、色々、企画してたんだけどな……」

充「……」

雅紀「……やろうぜ」

充「え?」

雅紀「卒業式」

場面転換。

夜の学校。

廊下を歩く、充、雅紀、一登の3人。

足音が響く。

一登「……なにもさ、夜にやんなくてもよくね?」

雅紀「しょうがないだろ。昼間に体育館なんて、使えねーんだからさ」

一登「これじゃ、卒業式っていうより、肝試しだっつーの」

充「あはは。一登、怖いの?」

一登「ば、バカ言うなよ! 超よゆーだっつーの」

雅紀「お、ついたぞ」

3人が立ち止まる。

一登「鍵はどうすんだ?」

雅紀「昼の内に、取ってきておいた」

チャリンと鍵の音。

一登「すげーな、雅紀は。将来は立派な泥棒になれるぞ」

雅紀「褒めてねーだろ」

ガチャリとドアが開く音。

雅紀「よし、電気つけてくれ」

充「わかった」

パチパチパチとスイッチを押す音と、パッという電気が着く音。

一登「おおー。これなら、怖くないな」

充「やっぱり怖かったんじゃん」

一登「ち、ちげーよ」

雅紀「よし、じゃあ、やろうぜ。3人だけの卒業式」

充「うん」

一登「一足先に卒業だな」

体育館の壇上(演台)に登る3人。

雅紀「(咳払い)えー、じゃあ、卒業証書授与式を行います」

一登「……あるの? 卒業証書」

雅紀「ふっふっふ。作ってきたぜ」

一登「……雑だな」

雅紀「うっせー。ほら、さっさと並べって」

2人が前に並ぶ。

雅紀「双葉充!」

充「はい!」

充が前に出て、雅紀と向かい合う。

雅紀「卒業証書授与!」

そのとき、勢いよくドアが開く。

用務員「こらー! なにやっとるか!」

雅紀「げっ!?」

場面転換。

引っ越しの当日。

充と向かい合っている雅紀と一登。

充の後ろから、車のエンジン音がしている。

雅紀「……ごめんな、充。最後は停学で終わっちまって……」

充「ううん。いいんだよ」

一登「あーあ。せめて、最後くらいはいい思い出を3人で作りたかったな」

雅紀「……だよな。考えてみたら、俺たちってビックリするくらい、平凡な毎日だったもんな」

一登「はあ……。10年以上、何やってたんだって感じだな」

雅紀「ごめんな」

充「いいんだよ」

雅紀「……せめて、何かプレゼントくらい用意すればよかったな」

一登「確かに……」

充「もう、貰ってるよ」

雅紀「え?」

母親「充、そろそろ行くわよ」

充「うん、わかった。……じゃあね。あっちについたら、連絡する」

雅紀「あ、ああ」

一登「……またな」

充「うん。またね」

充が駆け出す。

車に乗り込み、車が走り出す。

充(N)「そう。2人にはもう、貰っている。3人で一緒に過ごした、何気ない日々。それが、俺にとって、何よりの宝物なのだ」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉