宝物
- 2024.01.03
- ボイスドラマ(10分) 退避

■概要
人数:4人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
充(あたる)
雅紀(まさき)
一登(かずと)
用務員
■台本
充(あたる)、一登(かずと)、雅紀(まさき)が山道を歩いている。
充「一登、雅紀、待ってよー」
雅紀「ほら、荷物貸せよ。持ってやるから」
充「ありがと」
一登「お! 見ろよ! ばっちりだ!」
雅紀「マジか! ……おお、すげー! たくさんいるな」
充「3、4……6匹! すごい!」
一登「だろ? やっぱ、俺が作った、カブトムシホイホイはすげーだろ」
雅紀「……ネーミングセンスはねーけどな」
一登「うっせーな」
3人が笑う。
充(N)「俺たち3人は幼稚園の頃からずーっと一緒だった。田舎の学校だったから、クラスも一つしかなかったからずっと同じクラスだった。それは高校に行っても、同じだって思っていた」
場面転換。
雅紀「……転校?」
一登「おいおい。なんでだよ?」
充「……急に父さんの転勤が決まったみたいでさ」
雅紀「……お前だけ、残れないのか?」
一登「なんなら、うちに来いよ。部屋、余ってるし」
充「……」
雅紀「いつなんだ? 引っ越し」
充「今月末」
一登「マジかよ……」
雅紀「あと3ヶ月で卒業式だぞ。それまで、なんとかいられないのか?」
充「……」
一登「……一緒に卒業したかったな」
充「ごめん」
雅紀「お前のせいじゃないだろ」
充「……」
一登「卒業式のために、色々、企画してたんだけどな……」
充「……」
雅紀「……やろうぜ」
充「え?」
雅紀「卒業式」
場面転換。
夜の学校。
廊下を歩く、充、雅紀、一登の3人。
足音が響く。
一登「……なにもさ、夜にやんなくてもよくね?」
雅紀「しょうがないだろ。昼間に体育館なんて、使えねーんだからさ」
一登「これじゃ、卒業式っていうより、肝試しだっつーの」
充「あはは。一登、怖いの?」
一登「ば、バカ言うなよ! 超よゆーだっつーの」
雅紀「お、ついたぞ」
3人が立ち止まる。
一登「鍵はどうすんだ?」
雅紀「昼の内に、取ってきておいた」
チャリンと鍵の音。
一登「すげーな、雅紀は。将来は立派な泥棒になれるぞ」
雅紀「褒めてねーだろ」
ガチャリとドアが開く音。
雅紀「よし、電気つけてくれ」
充「わかった」
パチパチパチとスイッチを押す音と、パッという電気が着く音。
一登「おおー。これなら、怖くないな」
充「やっぱり怖かったんじゃん」
一登「ち、ちげーよ」
雅紀「よし、じゃあ、やろうぜ。3人だけの卒業式」
充「うん」
一登「一足先に卒業だな」
体育館の壇上(演台)に登る3人。
雅紀「(咳払い)えー、じゃあ、卒業証書授与式を行います」
一登「……あるの? 卒業証書」
雅紀「ふっふっふ。作ってきたぜ」
一登「……雑だな」
雅紀「うっせー。ほら、さっさと並べって」
2人が前に並ぶ。
雅紀「双葉充!」
充「はい!」
充が前に出て、雅紀と向かい合う。
雅紀「卒業証書授与!」
そのとき、勢いよくドアが開く。
用務員「こらー! なにやっとるか!」
雅紀「げっ!?」
場面転換。
引っ越しの当日。
充と向かい合っている雅紀と一登。
充の後ろから、車のエンジン音がしている。
雅紀「……ごめんな、充。最後は停学で終わっちまって……」
充「ううん。いいんだよ」
一登「あーあ。せめて、最後くらいはいい思い出を3人で作りたかったな」
雅紀「……だよな。考えてみたら、俺たちってビックリするくらい、平凡な毎日だったもんな」
一登「はあ……。10年以上、何やってたんだって感じだな」
雅紀「ごめんな」
充「いいんだよ」
雅紀「……せめて、何かプレゼントくらい用意すればよかったな」
一登「確かに……」
充「もう、貰ってるよ」
雅紀「え?」
母親「充、そろそろ行くわよ」
充「うん、わかった。……じゃあね。あっちについたら、連絡する」
雅紀「あ、ああ」
一登「……またな」
充「うん。またね」
充が駆け出す。
車に乗り込み、車が走り出す。
充(N)「そう。2人にはもう、貰っている。3人で一緒に過ごした、何気ない日々。それが、俺にとって、何よりの宝物なのだ」
終わり。