たぶん私は幸せになれない

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
結衣(ゆい) 16歳
新(あらた) 16歳
母親 41歳
女生徒1~2

■台本

結衣(N)「たぶん私は幸せになれない。なぜなら、私は普通じゃないから。どう普通じゃないっていうのかというと……そもそも私は人間じゃない」

場面転換。

結衣「じゃあ、行ってきまーす」
母親「ちょっと、結衣。サングラス忘れてるわよ」
結衣「……今日、曇ってるから大丈夫だって」
母親「何言ってるの。この前、そう言って、具合悪くて早退して帰ってきたでしょ」
結衣「ねえ、もう少しおしゃれなサングラス買ってよ」
母親「新しいのが欲しいなら、自分でバイトして買いなさい」
結衣「えー。バイトなんかして、正体バレたらどうするのさ」
母親「あはははは。あんたに入ってるヴァンパイアの血なんて、8分の1くらいよ。バレるわけないでしょ」
結衣「……なら、なんで、サングラス掛けないと太陽の光が辛いのよ」
母親「8分の1だから、サングラス掛けたくらいで外に出られるの」
結衣「……」
母親「ほら、早く行きなさい。学校、遅刻するわよ」
結衣「……行ってきます」

場面転換。
結衣が歩いている。

結衣(N)「私はヴァンパイアの血を引いている。と言っても、おばあちゃんが人間とヴァンパイアのハーフだったくらい、薄い。でも、その血のせいで、太陽で具合悪くなるし、一ヶ月に一回くらい血を飲まないといけないし、鏡にはぼんやりとしか映らないし、人よりも犬歯が大きいし、満月の日は目が赤くなる。ホント、迷惑な血だ。……いい点があるとしたら、人より怪我が治りやすいくらいかな」

そこに新が走ってくる。

新「よお、結衣。今日もゴツイサングラスがいい感じだな」
結衣「……」
新「おい、無視するなよ」
結衣「……」
新「……悪かったって。サングラスを弄ったこと、謝るからさ」
結衣「謝るくらいなら、最初から言わないでくれる?」
新「いや、悪い……」
結衣「……」
新「過敏症だっけ? その目」
結衣「そうだけど、それがなに?」
新「あー、いや……。そんなに怒らなくていいだろ」
結衣「……ふん」

結衣(N)「もう少し血が濃かったら、私はヴァンパイアとして生活できたのに。学校は夜だし、正体を隠さなくてもいいし、そもそも、ヴァンパイアに配慮された施設に通うから、逆に快適だし。あーあ。美奈子ちゃんはいいなぁ。私もそっちに通いたかったなぁ」

場面転換。
学校の廊下を歩く、結衣と女生徒たち。

女生徒1「あー、疲れた」
女生徒2「なんで体育なんてあるんだろ。汗かくし、最低」
女生徒1「結衣はいいなぁ。いつも体育は見学で」
結衣「あははは。なんか、ごめん……」
女生徒2「やめなよ。結衣だって、好きで見学してるわけじゃなんだからさ」
女生徒1「あ、ごめん。結衣。そういうつもりじゃないかったんだけど」
結衣「いいって。気にしてないから」

結衣(N)「そういえば、私は普通の人よりも身体能力が高い。それと、長い時間太陽の光を浴びるわけにはいかないから、体育は持病ってことで見学にしてもらっている。おかげで、部活にも入れない。……バスケとかしてみたかったけどなぁ。正体がバレるわけにはいかないから、我慢しないといけない。私は普通の人間じゃないんだから」

場面転換。
学校のチャイム。
教室内に結衣がいる。

結衣「……そろそろ、いいかな」

結衣(N)「帰りも、夕方になるまで学校で時間を潰してからにしている。ホント、面倒くさい。もう少し血が濃かったらなぁ。こんなことしなくて済むのに」

結衣「ばあちゃんも母さんも、なんで人間なんかと結婚するかなぁ……」

結衣(N)「ヴァンパイアと結婚していれば、私のヴァンパイアの血はもう少し濃かったはずなのに」

結衣「さ、帰ろっと」

立ち上がる結衣。

場面転換。
結衣が歩いている。
だが、その足取りがフラフラする。

結衣「……あれ? なんだろ? 眩暈がする」

立ち止まる結衣。

結衣「……あ、サングラス! 教室で外してたの忘れてた……」

ガサガサとカバンを漁る結衣。

結衣「うう……」

フラリと倒れそうになる結衣を支える新。

新「おっと! 大丈夫か、結衣?」
結衣「……新?」
新「具合……悪いのか?」
結衣「……ちょっとね」
新「少し、我慢しろ」

新が結衣を抱える。

結衣「え? ちょ、ちょっと!」
新「静かにしてろ」
結衣「でも、その……」
新「恥ずかしいのはわかるが、我慢しろ。暴れられると抱えられん」
結衣「……」

新が結衣を抱えて歩く。

場面転換。
結衣の部屋。

母親「あらあら、ありがとうね」
新「いえ。それじゃ、俺はこれで……」
母親「ちょっと待って。娘を送り届けてくれたのに、なにもできないで帰すなんてできないわ。少し待ってて。何か用意するから」
新「あ、お構いなく……」

母親が部屋から出て行ってしまう。

結衣「……」
新「……あ、おばさんには気にするなって言っておいてくれ。俺、帰るからさ」
結衣「……ありがと」
新「え?」
結衣「送ってくれて、ありがと」
新「いや、別に。困ってるときはお互い様だろ?」
結衣「私、新を助けたことないけど」
新「あー、いや……。じゃあ、今度、何かあったら助けてくれよ」
結衣「……ふふ。うん。そうする」
新「じゃあ、俺、行くよ」
結衣「待って」
新「え?」
結衣「……寝てるだけだと暇だから。話し相手になってくれない?」
新「あ、ああ……。いいぜ」

結衣(N)「小さなミスで、こんなことになる。ホント、この体が嫌になる。ヴァンパイアでも人間でもない、中途半端な体。きっと、私の人生はずっとこんな感じなんだろう」

場面転換。
学校の屋上。
ドアが開いて結衣がやってくる。

結衣「なに? 話って?」
新「あー、いや、お前さ、もうすぐ誕生日だろ?」
結衣「え? あー、そういえばそうね。それが?」
新「……これ、少し早いけど」
結衣「プレゼント?」
新「あんま期待されても困るけどな」
結衣「開けていい?」
新「ああ」

結衣が箱を開ける。

結衣「あ、サングラス……」
新「……俺の好みになっちゃったんだけどさ」
結衣「……ありがとう。素敵なデザイン」
新「気に入ってくれたならよかったよ」
結衣「……」

結衣(N)「たぶん私は幸せになれない。なぜなら、私は普通の人間じゃなく、ヴァンパイアの血が混じっているから。私は、この体にへきえきしている。……でも、おばあちゃんとお母さんが人間と結婚した理由が、ちょっとだけわかった気がする」

終わり。