勇気の証

勇気の証

■ジャンル
ドラマ(映像用)、現代、シリアス

  • 病室

  月島譲(9)がベッドの上のテーブルに向かっている。

譲「てりゃあー!」

  効果音を口にし、ノートに漫画を描く。

内容はバトルもの。

  主人公が巨大な敵を倒している。

  そこに看護師である桜庭霞(27)が入ってくる。

霞「譲くん、今日もいっぱい描いてるね」

譲「うわあああああ!」

  慌ててノートを隠す譲。

霞「(笑って)隠すことないじゃない」

譲「もう……。入るときはノックしてよ」

霞「うーん。ノックしようにも、病室にはドアないしねえ」

譲「うう……。今度からはカーテン閉めようっと」

霞「ねえ、今度、譲くんが描いた漫画、読ませてくれない?」

譲「ダメ! 絶対、ダメ!」

霞「えー、どうして?」

譲「……だって、恥ずかしいもん」

霞「でも、漫画って他の人に読んでもらうものでしょ? きっと譲くんが描いた漫画だって、読んでもらいたいって思ってるんじゃないかな?」

譲「うーん……。でもダメ。もう少しうまくなってから見せるよ」

霞「そう。残念ね。でも、譲くんが退院するまでには見せてね」

譲「うん……わかった」

霞「よし、それじゃ、今日も張り切ってリハビリ行こうか」

譲「ええ! ……えっと、今日はその……お腹痛いから……」

霞「譲くんは、本当に嘘が下手だね。そんなんじゃ漫画家になれないわよ」

譲「う、嘘なんかじゃ……」

霞「はいはい。それじゃ、リハビリの後にお薬出してあげる。にっがーいやつ」

譲「霞さんの鬼……」

  • リハビリ部屋

  譲が手すりにつかまっている。

譲「うう……」

  歩こうとするが足が動かない。

  それを見守っている霞と医師。

医師「ほら、譲くん、頑張って」

譲「そ、そんなこと言ったって……」

霞「一歩だけ、一歩だけでいいから足出して」

譲「無理だよー。全然、足が動かない」

医師「……」

霞「先生、本当に譲くんの足って、治ってるんですか?」

医師「肉体的にはもう完治しているはずだ。恐らく、譲くん自身が治ってない、歩けないと思い込んでるだけだ」

霞「どうしてですかね?」

医師「事故のときのショックと、手術後の痛みのせいだな。譲くんは、もう自分の足は動かないと無意識に刷り込まれているのかもしれん」

霞「……」

  霞が譲の近くに駆け寄る。

霞「頑張って、譲くん。大丈夫。もう足は治ってるの」

譲「(必死な顔で)でも……全然、動かないんだ」

霞「……」

  • 病院(朝)

  譲がベッドの上で漫画を描いている。

譲「ずどどどどーん!」

  そこに霞がやってくる。

霞「今日も頑張ってるね」

譲「うわわわわ!」

  慌てて漫画を隠す譲。

霞「隠さなくていいのに。……ねえ、譲くん。どんな漫画を描いてるの?」

譲「ヒーローものだよ」

霞「へー、それじゃ、ヒーローが悪者をやっつける話なんだ?」

譲「うん。でもね、ガオレインは一人だけだとダメなの。怪人に勝てない」

霞「あら、どうして?」

譲「正義のパワーが足りないんだ。だから、将太くんの応援がないと、力が出ないの」

霞「変わったヒーローね。一人じゃ戦えないなんて」

譲「違うの。ガオレインは将太くんと合わせてヒーローなの。だから将太くんもヒーローってわけ」

霞「うーん。でも、その将太くんは応援してるだけなの? 一緒に戦ったりはしないの?」

譲「う、うん……。将太くんは応援するだけ」

霞「あら、そうなの? ガオレインが危なくても?」

譲「仕方ないよ。だって、将太くんは戦う力がないし、それに足が動かないんだ」

霞「足が……?」

譲「……事故で動かなくなっちゃったの。本当はね、将太くんも、ガオレインの一員になるはずだったんだ」

霞「そっか。やっぱり、将太くんもヒーローになりたいのかな?」

譲「うん。ヒーローになりたいって気持ちは誰にも負けないよ!」

霞「……」

  霞が譲の横に座る。

霞「私ね。小さい頃から看護師になるのが夢だったんだ」

譲「へー。じゃあ、霞さんは夢を叶えたんだ! すごいね」

霞「でもね、周りからは絶対なれないって言われてたの」

譲「どうして?」

霞「えへへ。私ね、すっごーく頭悪かったの。成績が下から数えた方が早かったし」

譲「……そうなんだ。全然、そんな感じしないけど」

霞「だからね、諦めてたの。なれるわけないって」

譲「……」

霞「でもね、高校のとき、先生から言われた言葉があるの。『お前は、なれないって思いこんでるだけだ。世の中、やってみたら案外、やれることは多いぞ』ってね」

譲「……」

霞「それで私、勉強してみたの。本気でね。今まで看護師になりたいって思ってただけで、何も行動してこなかった。だから、やるだけやってみようって」

譲「それでどうなったの?」

霞「なんとか、看護師の学校に滑り込めたんだ。まあ、ギリギリだったけどね」

譲「へー、すごいね、霞さん!」

霞「ねえ、譲くん。将太くんも思い込んでるだけじゃないかな?」

譲「え?」

霞「将太くんの足はもう治ってる。きっと立てるし、歩けるはずだよ」

譲「で、でも……」

霞「お願い、描いてみて。将太くんが歩ているところ」

譲「……うん。わかった」

  • リハビリ室

  譲がリハビリをしている。

譲「うーん!」

  必死に足を出そうと頑張る譲。

霞「頑張って、譲くん」

譲「んんー!」

  譲の足が動き、一歩前に踏み出す。

霞「やったー! やったよ、譲くん!」

譲「歩けた! 歩けたよ!」

  霞が譲に抱き着いて喜ぶ。

  • 病院前

  母親と並んで立っている譲。

  花束を持っている霞。

霞「退院、おめでとう」

  花束を渡す霞。

譲「ありがとう! 霞さんのおかげだよ!」

霞「(涙ぐんで)もう……そんなことないよ。譲くんが頑張ったからだよ」

譲「ううん。僕、もう歩けないって思いこんでただけだった」

  譲が母親に花束を渡し、代わりにノートを受け取る。

  そして、そのノートを霞に渡す。

譲「はい、これ」

霞「……これって」

譲「漫画。ほら、退院するまでには見せるって約束だったでしょ。だから、それあげる」

霞「でも、大切なものなんじゃないの?」

譲「うん。だからだよ。だから霞さんに持っててもらいたいの」

霞「(微笑んで)ありがとう。大切にするね」

譲「それじゃね! バイバイ!」

霞「さよなら!」

  譲は手を振って、歩き出す。

  霞も譲を見送り、病院に向かって歩き出す。

  譲のノートを大事に胸に抱えて。

終わり

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